拾参《疑》
ガサゴソと紙を広げる音が響く。あ、しまった……
「こっちじゃないや」
「ちょ、ちょっと待ってください!それって、」
「う?ああ、これ見てわかるでしょう」
「離婚届じゃないですか!」
「だーかーらー、これに判押してもらうために行ってるんだから!」
本郷に、そう告げ間違って出した離婚届を折り畳み懐へ戻す。私は、決めたのだ。姫巫女様のもとへ行くのだと。
そして、仕舞った離婚届と引き換えに取り出したモノを広げる。コロン、と現れた紫色の金平糖を見せにっこりと微笑んだ。
「よし、おいで」
式を呼び寄せ、金平糖を見せる。
「なにを、してるんです?」
「え、匂いを辿ろうとしてる?」
「なんで、疑問系なんですか!」
なんとなく、いけるかな?そう思って。を、口にはせずに黙っておく。今、言い合いしても意味のないことだし。もうすぐで、日暮れが訪れる。そうなれば、あの男も私も本郷もどうなるのか分からない。姫巫女様も、辿れないかもしれないと言っていたことだ。助けも求めることができないのだ。
「よし、いい子だから捜して!」
一つ頷いてみせる式に、私も頷き返す。さあ、私と姫巫女様の力を借りて造り上げた式よどうか捜して頂戴な。
迷いなく進む式の後を何の躊躇いもなく歩きだした私に本郷は慌てふためく。
「え、と本当に大丈夫なんでしょうか?!」
「ほら、本郷来なよ。じゃないとずっとそこにいるつもり?私が居なくなった瞬間から灯籠の火は消え始めるからね」
そう言ってる側から遠くの灯籠の火は消え始めた。姫巫女様の力が大きいが、私が使ってる術によって造り出された道標だから。
「ま、待ってください!」
「よろしい。私とはぐれた瞬間から死んだと思って」
そう、淡々と告げる私に本郷は唖然と焦りの色を見せた。
本郷もそれなりの術を使うハズなんだけど、と思いつつ一線ではないからこれが普通なのか。私は、平凡では決してないから普通がよく分からない。
とてとてと効果音が付きそうな歩みを進める式の後をついて行く。迷いのない足取りは、多分合っているはずだ。……多分。
「ところでどうして、金平糖なんですか。普通なら、木暮様の匂いのついた…」
「え、そっち?大丈夫、こっちのが確実だから。姫巫女様が、目印として飛ばしてくれたの。ほら、本郷も見たでしょ金平糖を飛ばすの」
私は、各地にいる神使人と姫巫女様に手助けを頼んだ。即座に動いてくれたのが、姫巫女様で他の神使人たちは時空を曲げる手伝いをしてくれたらしい。そうして、無理やり抉じ開けた時空の穴は一瞬だけ開く。それを使い、姫巫女様が場所を特定してくれた。その目印として私が飛ばした金平糖を再利用してくれたのだ。
「これが、目印ですか?もっと他に」
「時空を曲げることはほぼ出来ない。それを全国にいる神使人たちのおかげで少しだけ曲げれた。そして、空いた穴は小さいわけ。分かったかな?」
「は、はぁ……」
納得いかない、そんな顔をする本郷に分からないでもない。そう、思いつつも姫巫女様だから出来たことだからそう言い聞かせる。
「弥代様、わざわざ判を貰うためにここまでするのですか?弥代様の言動は、少し不可解に思えます。離縁、するのなら別に見捨てるという手段もあったのでは?」
そう、言った本郷に
私、の心に一つの疑問が産まれた。
たしかに、どうしてわざわざここまで来た?
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