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 宮前優。この春から桜咲高校に通う一年生。

 まあ、こうした言い方は身も蓋もないけれど、どこにでもいる十五才の男子だ。性格面ではちょっとナイーブなところがあり親から心配されることもあるが、クラスでの新生活のスタートは無事成功。新たに出来た友人や同じ中学の知人と一緒に、それなりに愉快な高校生活を楽しんでいる。

 成績も中学の頃から並。そこそこ得意な教科があればそこそこ苦手な教科もあり、結果的に総合の順位は中くらい。現状困ることはないので今後もそれなりに勉強を続けていこうと考えていた。

 容姿の方は、そこまで悪くないと優本人は思っている。ただクラスメイトの女子には『指は綺麗だよね』と気を使われる程度なので、恋人は当分作れないかもしれない。

 ちなみに家族は優を含めて四人。技術系の仕事をしている父とパートタイムで働く母、それに二つ下の妹がいる。家は市の住宅街に一軒家を構えており、学校はまでの距離は一キロもない。そのため徒歩十分ほどで到着することが出来、通学も苦にならない……はずだった。

「……ぐっ……」

 中々青にならない歩行者用の信号を前に、優はお尻に棒を差し込まれたカエルみたいな呻きを上げる。いつもの道のりが、遠かった。遠すぎたのだ。

「ねえ、なんか悪化してない? 歩けるの?」

「……はい。いけます。頑張ります」

 頷くと同時に、信号が青に点滅。優はヨロヨロとした足取りで横断歩道を渡る。

 よし、もう少しだ……。ガッツを入れなおし、快晴の空の下、再び家を目指す。気分はもはや砂漠を彷徨う遭難者だった。

「変なの……」

 隣を歩く結月は一つため息を吐き、やれやれといった具合で頭を振る。もっとも、そんな姿も美しく、相変わらずの美少女オーラを振りまいているのはさすがと言うべきか。

「ていうか、優って最近いつも会うとフラフラじゃない? ご飯ちゃんと食べてる?」

 ――他の人の前ではこんな感じにはならないんだよ。

 優は胸の中で漏らすが、口には出さない。いや、常識的に考えてこんな優しくしてくれる幼馴染にそんな暴言吐けるわけがない。そりゃ、断片でも伝えられたらどんなに楽かと思うこともあるけれど、優という男は生まれついての事なかれ主義だったのだ。

「食べてる食べてる。僕も心配されるほどじゃないよ。結月ちゃんも知ってるでしょ、こう見えて病気なんてかかったことないんだから」

「確かにそんなヒョロヒョロの割りにずっと皆勤賞だもんね」

「そうそう。人は見かけによらないんだって」

 優は曖昧に笑う。

 そして、ふとぼやけた頭に浮かんだ事を無遠慮に言ってしまった。

「そういえば、結月ちゃんも最近は元気そうだね。もう病気はいいの?」 

「……………………」

 結月からの返事は、ない。それどころか、結月はあの柔和な表情をピシリとこわばらせている。

 やばい。

「ご、ごめん」

 咄嗟に謝る。

 だが、結月は今だ思いつめたような雰囲気。

 実は、今でこそ健康的な結月も中学時代はなにか大病を患ってほとんど学校にこれなかった時期があったのだが……それはあまり触れられたくなかったようだ。

「……あっ、そうだ! 最近、友達が面白い店見つけたんだって! 路地の奥にある雑貨屋なんだって!」

 張りつめる空気に耐えられなくなって、優は出来るだけ明るい声で話を変えようと試みる。

 すると、結月はようやく口を開くが、

「あー、そうなんだー、へーっ」

 今だ言葉の歯切れは悪いまま。

 やってしまった――優は冷や汗が止まらなくなる。最近ずっと避けていたせいで、結月がそんなに病気のことを気にしているなんて全く知らなかったのである。

 二人の間の雰囲気は一気に悪化してゆく。

 あまりの緊張に優の心臓は破裂しそうだった。ただでさえ幼馴染恐怖症がヒドいところに、いらぬ地雷を踏んでしまった気まずさである。針のむしろという言葉そのままじゃないか。

 誰か助けて……。そう願うが、都合よく助けなんて現れるはずがない。優は結月を気にしながら黙々と足を進めた。

 しばらくすると、並んで立つ宮前家と空乃家が見えてくる。


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