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閑話:白き贈り物の日

ウルスとソーニャ以外の人物は、「女神騒動」、「私と小隊長殿の魔族討伐」、「魔王と妖精」あたりに登場しています。

 先月の“チョコレートの日”と対になる“白き贈り物の日”が近いらしい。

「昔はそんなのなかったと思うんだけど」

「最近始まったみたいなの。自分にチョコレートを贈ってくれたひとに、贈り物と一緒に感謝の気持ちを伝えましょうっていうのが、その日の決まりなのよ。そうは言っても、ほとんどはチョコをくれた女の子に男の子が贈り物を贈るっていうのがメインなんだけど」

「へえ。でも、わざわざその日じゃないとなの?」

「女の子はいくつになっても、そういう特別なイベントが大好きなのよ。だから、ウルスさんもがんばらないと」

「そっか……」

 ヴィルムはそんな神妙な顔で頷く金色の竜(人型)をちらりと見ながら、うまく乗せられてるなあと考える。まさか竜がこんなイベントごとを気にするなんて。ちらちら視線をやっていると、いきなりエルナがヴィルムを振り向いてにっこり微笑んだ。

「だから、ヴィルムも贈り物よろしくね! あたし期待してるから!」

「は?」

 いきなり話を振られたってついていけるわけがない。何で俺まで、と口を開こうとしたところで、エルナがふふ、と笑う。

「だって、あたしもチョコレートあげたじゃない」

「……あれ、すごく焦げ臭かったんだけど」

 あれやっぱりチョコレートのつもりだったんだな、としみじみ思う。焦げ臭さと苦さしかなかったんだけど。いくらチョコレートが黒いといっても、焦げたものをそのまま使うのは限度があるんじゃないだろうか。

「手作りが至高って聞いたんだもの。チョコレートなんて初めて作ったんだから、褒めてくれたっていいじゃない」

 ついでに、手作りなら食べられるものを贈れとは聞かなかったのだろうか、とヴィルムは半眼になりながら思う。褒めどころの見当たらないものを褒めるのは、いくらなんでも難易度が高すぎる。

「ああそうだね。でもチョコレートを直火で温めるのは、次はやめといたほうがいいと思うよ」

「えっ、なんで知ってるの!?」

「おばさんが嘆いてた。うちのエルナは料理も満足にできない、また鍋を駄目にしたって。少しくらいおばさん手伝って覚えろよ」

「ちょ、母さんの馬鹿! ヴィルムもうるさい! 大丈夫だもん、そのうちちゃんとできるようになるし!」

「そのうちっていつだよ。やらなきゃ覚えるわけないだろ。お前もう16なのわかってるのか?」

 こいつはつまり、“巫女”の時のように時期がくれば自然になんとかなると思ってるってことか。なるわけないだろうが。


 いつものようにぎゃあぎゃあと騒ぐふたりをよそに、ウルスは「贈り物かあ」と考え込んだ。今までもソーニャのためにいろいろな贈り物を贈ったのだし、ちょっとしたものじゃだめだろう。思えば、ソーニャのチョコレートは“本命”の“特別”だって言ってたのだから、自分だってソーニャのために“本命”の“特別”な贈り物を用意しなきゃいけない。

「特別な贈り物って、何がいいかな」

 眉間に皺を寄せて考え込んでると、いつの間にヴィルムとの言い合いを終えたのか、エルナがぽんと手を叩いた。憮然としているヴィルムを見るに、エルナの優勢勝ちだったのだろう。

「王都に行ってみたらどうかしら」

「王都?」

 きょとんとするウルスに、エルナは自信満々に頷き返す。

「そうよ。王都にはいろいろなものがあるっていうもの。きっととてもいいものが見つかるんじゃないかしら。ウルスさん、この前、王都の騎士様と仲良くなってたでしょう? 聞いてみたらどうかなって思うの」

「そっか、王都か……確かに、行ってみたら何かあるかもね」

 ぱあっと顔を輝かせ、今にも飛んで行ってしまいそうな竜に、なんとなく嫌な予感を感じて慌ててヴィルムが引き止める。

「あの、ウルスさん、待った。竜だってバレないように、人型で、角はちゃんと隠して行ってください」

「……ああそうか。うん、わかったよ。じゃあひとっ飛び行ってくる」

 そう言いながらもバンと扉を開けて走り去るウルスに、本当にわかったのかなとヴィルムは不安になった。




 コンコンと玄関をノックする音が聞こえて、「おきゃくさん!」とフェリスが駆け出した。おかしいな、来客の予定なんて聞いてないけど……と訝しみつつ片手に赤子を抱いてフェリスの後を追い、玄関に出るとそこにいたのは……。

「え?」

 さすがのユールもぽかんと口を開けて固まった。

「こんにちは、小隊長さん、いる? 小隊長さんの家ってここだよね」

「え、うん……日暮れどきになったら帰ってくると思うけど……君、何?」

 目の前の何かから感じるただならない雰囲気に押されながら、ユールはどうにか尋ねた。

「僕? 僕はウルス。ちょっと前だけど、小隊長さんが僕の家に来ていろいろ話をしたんだよ。今度遊びに行くって約束したし、今日はお願いしたいこともあって来てみたんだ」

 同じように呆気にとられていたフェリスが首を傾げた。

「うーす? とーたんのおともだち?」

「そうだよ。……わ、半魔の子だ、かわいいね。君の子じゃないみたいだけど、小隊長さんの子でもないよね。あ、こっちの赤ちゃんが小隊長さんの子か。小さいなあ」

「あ、うん、この子はここの家主の養い子だよ。僕はこの子たちのシッターやってる」

「へえ。シッターやってる魔族なんて、初めて見たよ。王都っておもしろいね」

 あははと笑うウルスに呆気に取られたまま、お邪魔するねと上がりこむ彼をなし崩しに居間へと案内したのだった。


「え、ウルスさん、どうしてここに?」

 呆然とするフォルの横で、エディトも混乱したようにあちこち視線を彷徨わせる。

 帰宅したらいきなりウルスと名乗る竜が来ていると聞かされて、さすがのエディトも「竜?」と呟くのがやっとだったし、フォルも、まさかいきなり自宅にウルスが来ているなんて想定外だったのだ。

「いったい、今日は何が……」

「もうすぐ、“白き贈り物の日”なんだってね。だから、“本命”の“特別”な贈り物を探しに来たんだ。王都は不案内だから、君に聞いたらどうかってエルナが言うし、王都の知り合いって君かこの前の妖精の魔法使いだけだから、ちょっと頼らせてもらおうかなって。何かいいものないかなあ」

 しろきおくりもののひ、とエディトは呟いたまままだ呆然としている。目的が想定外すぎて頭がついていかないのだ。

「“白き贈り物の日”、ですか……」

 流石に唐突に聞かれても、正直なところフォルだってすごく困る。肝心のソーニャをよく知っているわけでもないし、“本命の特別”のための贈り物なんて曖昧なものをどうやって探したらいいか、皆目見当もつかない。なんといっても(ウルス)なのだ、高価ならよいというわけでもないだろう、ならば……。

「……ユールが、相談に乗ってくれると思います」

 眉間にくっきり皺を寄せたままのフォルが、いきなりユールをびしっと指差した。

「へ? 僕?」

「彼は王都に住んで数百年ですし、王都のプロと言っていい人物だ。御誂え向きの適任でしょう。彼に任せたらいいと思います」

 慌てるユールをよそに、ウルスはぱあっと顔を明るくし、その手を握ってぶんぶんと振り回す。

「ちょ、待って」

「よろしくね、ユール」

 体良く押し付けたな、とぶつぶつ恨めしそうに()めつけるユールに、「後は任せた」とフォルはいい笑顔で肩を叩いた。




「だいたいさあ、僕、これまでどっちかっていうと贈り物を貰うほうだったし、贈るとかあんまり慣れてないんだよね」

「そうなんだ? 贈り物すると、ソーニャがすごく喜んで可愛く笑うんだよ。貰うのはもちろん嬉しいけど、贈るほうも楽しいよ」

 にこにことソーニャがいかに可愛いかを語る竜に、ユールは半ば呆れて目を眇める。

「……竜ってさ、みんな君みたいなのばっかなの?」

「僕みたいなのって?」

「僕に君のその感覚はよくわからないよ」

「それはもったいないよ。すごく損してる」

 真剣に驚かれ、ユールは心外だと思う。というか、なぜ竜の惚気話を延々と聞かされなければならないのだ。これは家主による居候いじめか?

「それより、たぶん君とタイプが似てて僕よりも適任者がいるから、そっちを紹介するよ」

「適任者?」

「そ。たぶん、君とも話が合うんじゃないかな」


「ウルス殿、ですか」

 エシュヴァイラー家ではやはり想定外すぎる訪問者に、ディーターもエルもただぽかんとするだけだった。

「うん。太陽神の御使い業やって数百年だっていう、竜」

「太陽神の、御使いの、竜……」

「こっちは王の騎士ディートリヒと、伴侶の半妖精エルちゃん」

「よろしくね。ちなみにソーニャはこの前から大地の女神の御使いを始めたんだよ」

 目を丸くしたままさらに固まるディーターとエルに、ウルスはにっこりと微笑む。

「竜って、人型になれるんですね」

 呆然とエルが呟くと、ウルスは頷いた。

「ヴィルム……ええと、うちの地域の魔法使いに、王都に行ったら竜の姿になるのはいけないし、角も出したらいけないって言われてるんだ。だから人型のままで失礼するね。

 でもさ、竜型はともかく角までだめって、人間の角差別はよくないと思うんだ。ソーニャの角はすごく可愛いし、僕の角だって結構かっこいいと思うのに」

「たぶん角差別ってわけじゃないと思うんですけど……」

 エルが困ったように、あは、と笑う。


 サロンへと通されてゆったりとお茶を飲みながら、“白き贈り物の日”に相応しい贈り物を探しに来たと語るウルスに、「“白き贈り物の日”の贈り物ですか」とディーターは呟いた。

「そうですね、だいたい、チョコレートのお返しということであればキャンディが定番なようですが……」

「キャンディかあ。ただのキャンディじゃなくて、特別なのがいいな。ソーニャに贈るものだから」

「特別ですか……そういえば」

 ふと何かを思いつき、ディーターは執事を呼ぶ。何か二言三言かわすと、「では、その日限定のものなどどうでしょうか」と言った。

「限定?」

「はい。王都の有名なパティスリーで、その日だけ特別のお菓子を出すのです。数が限られているうえ、たとえ貴族の権限を使っても予約は取らせてもらえず、並んだ者ひとりにひとつしか売らないということを徹底していますから、なかなかに入手は困難なのですよ」

「へえ」

「行列も、際限なく並ばれても困るということで当日朝の鐘が鳴るまで並ぶことは禁止と、とにかく徹底しています。当日のあのあたりはまるで静かな戦場のようだと、並んだ者から聞いたことがありますよ」

「そりゃすごいね」

「警備隊の派遣も要請して、付近に迷惑をかけるものがいないかの取り締まりも容赦ありません。

 ──何しろ、さる公爵家の血筋の方がオーナーですから、コネと伝手を使って有無を言わせずそういうルールを敷いたのだと聞いてます」

「王都ってすごいとこなんだね」

 目を丸くするウルスにディーターは笑って、ですから、と続ける。

「ウルスさん、そのお菓子の入手に挑戦してみてはいかがでしょう?」




 “白き贈り物の日”当日。

 前日夜は王都に泊まり、万全の態勢で朝から店のある通りへと到着すると、すでに多くのひとが集まっていた。これだけの人数がいるのに全員が慎重に、トラブルを起こさないよう細心の注意を払っている。そのくせ、視線は鋭く互いを牽制しあっているようすがありありとわかるのだ。

「へえ、すごいんだなあ」

 感心したように首を傾げ、これは噂以上だなと考えつつ、ウルスは適当に時間まで待とうと通りの端に寄った。

「……今年こそ、今年こそ、行列に……」

「坊っちゃん、頑張ってください」

 その声に目をやると、すぐ横には仕立ての良い服を来て、おそらく金貨の入った袋をしっかりと手にした少年が、ぐっと拳を握りしめて店の入り口を睨み付けている。

「……君も、買いに来たの?」

「ふぁっ?!」

 いきなり話しかけられてよほど驚いたのか、少年はびくりと飛び上がってから振り向いた。

「そ、そうだとも! 私は今年こそ、この限定菓子を手に入れるのだ!」

「じゃあ頑張ろう。でも、こんなお店から遠くて、並ぶの間に合うのかな?」

 ウルスが店のほうへと目をやると、少年は、くっと悔しげに顔を歪める。

「……近くは、常連の猛者どもが抑えているのだ」

「常連とかいるんだ。すごいね」

「店からの特別扱いがないとはいえ、やはり外で待つ者の間には序列があるからな……」

 悔しそうな少年の視線の先には、高価そうなお仕着せを着た使用人らしき男や、明らかに上位と思われる貴族が佇んでいる。

「なるほど、たしかに、お店の近くほどぴかぴかしてるひとがいるね」

 自分にもっと力があれば、と悔しそうに呟く少年に、ウルスはにっこり笑う。

「なら、うんと頑張って走ろう」

 楽しみにすらしているようなウルスのようすに、少年は目を瞠った。

「お前は、あの貴族たちを抑えて行列に入れる自信があるというのか?」

「あたりまえだよ。だってソーニャのためだからね」

 当然のように頷くウルスに軽く絶句すると、少年は急に顔を空に向けた。

「あ、そろそろかな?」

 少年は握った拳にさらに力を込め、前を睨むようにして鐘の音を待った。ウルスが、一緒に頑張って並ぼう、と……言いかけたところで、朝の鐘が高らかにカーンカーンと音を響かせる。

 とたんに、この場に居合わせた者たちの雰囲気が変わった。殺気さえ漂わせ……しかし突然、周囲の者たちの動きがぴたりと止まる。何か巨大な肉食獣が迫ってくるかのような気配に、居合わせたものたちの足がことごとく竦み動かなくなってしまったのだ。

「ほら、今だよ!」

 そこへ、ウルスは傍らの少年を担ぎ上げて猛然とダッシュで走り込む。




 この時、警備に当たっていた王都警備隊第1隊第8小隊小隊長は、後に義兄である銀槍騎士団討伐小隊小隊長に語った。

「お義兄さん、今日、毎年恒例のやつの警備に駆り出されたんだけど、なんでかお義兄さんから聞いてたやつっぽい竜が、尻尾ぶんぶん振りながら行列に混じってたんだよ」

「は?」

「おまけに行列並ぶのに超本気で。気配で威嚇して周りの足止めするとか、さすが竜、汚ねえって思ったんだけど、何あれ。あんな本気の竜、普通なかなか見られないんじゃないかな」

「そ、そうか」

「パティスリーの行列目的ってのがアレだけど、俺心臓止まるかと思ったよ。もしかして、毎年来るようになるのかな」

「ああ……かもな」

 こめかみを揉みほぐしながら、はあ、と小隊長ふたりは大きな溜息を吐いたという。




「並べたね」

 にこにこと行列の位置に着くと、ウルスは少年を降ろし、わくわくとした表情で先頭のほうを眺めた。

「……お前、いったい?」

 半ば呆然としながら少年はウルスを見上げる。

「僕はウルス。この前、ディートリヒにここの限定を教えてもらったから、買いに来たんだ。やっぱりソーニャへの贈り物は特別じゃないとね」

「……はあ」

 わかったのかわからなかったのか、自分でもよくわからないまま、ウルスか、と少年は頷いた。

「ともかく、ウルス殿、貴殿のおかげで今年こそ買えそうだ。私はヘルベルト・アインベック。謹んで礼を言う」

「いいよ、ついでだし」

 ぺこりと礼儀正しく頭を下げる少年に、ウルスは鷹揚に笑ってみせた。


「おまたせ致しました。こちらのお品物です。ご確認くださいませ」

 ようやく順番が来た。待ち望んだ限定菓子を注文すると、店員に差し出された小箱にちょこんとおさまっていたのは……。

「──これ、もしかして、竜?」

「はい、今年の飴細工のモチーフは竜と蝶になっております」

 金粉を混ぜ込んだ飴で作られたきらきらと輝く小さな竜にとまる、黒揚羽のような艶やかで美しい、宝石細工にも見紛うほどの蝶。職人の繊細な指先が産み出した、芸術品といっても過言ではないほどの逸品だろう。

 にっこりと微笑む店員に、ウルスは満面の笑顔を向ける。

「いいね……これすごくいいよ! 最高だ! このお店、また絶対来るよ!」

「喜んでいただけまして、何よりでございます」

 うきうきと代金を払うと、ウルスはもう一刻も早くこれをソーニャに渡さなきゃいけないと店を飛び出した。そのまま息つく間もなく元の姿に戻ると、瞬く間に空の彼方へと飛び去っていく。

「ウルス殿! ……え、黄金の竜?」

 少年ヘルベルトは、店の外へダッシュするウルスに声を掛けようとして、あんぐりと口を開けたまま彼の消えた空の彼方を見上げた。

 この少年が正式な騎士叙勲を受けた際、己を表す紋章に黄金竜を採用したのは、この件があったからかもしれない。ちなみに、この時入手した菓子は彼の結婚の申込み(プロポーズ)に使われたということだ。


 店から飛び出した金の男が金の竜に姿を変え空へと飛び立つという一連の出来事に、その場にいた全員が度肝を抜かれ……店に並んでいたものも、客を捌く店員も、警備に当たった警備兵も、それを見物に来ていた住民も、誰も彼もがただただぽかんと、竜が飛び立った後の空を見上げるだけだった。


 後日、(くだん)のパティスリーに“黄金竜御用達”の看板が掛けられたかどうかは定かではないが、幾度となく通うウルスの姿が目撃されたのは確かである。




「ソーニャ! “白き贈り物の日”の贈り物だよ!」

「わあ、可愛い包みですね、開けていいですか?」

「もちろんだよ。早く開けてみて」

 得意げに差し出された包みをゆっくりと開けて、そこから出てきたものを見ると……。

「ええ、ウルスですよ! ウルスと蝶々です!」

「これ、全部飴細工なんだよ。蝶々、黒くてソーニャみたいで可愛いでしょ?」

「すごいです! これ、本当に飴なんですか?」

 うわあうわあと騒ぐソーニャに、ウルスはますます得意げに鼻を膨らませた。

「でも、これじゃ勿体なくて食べられませんよ……」

 じっと飴細工を見つめるソーニャの眉尻が、困ったように下がる。

「僕はソーニャに食べてほしいな。これが僕みたいなら、よけいに」

「……そうなんですか?」

「うん」

 見つめたまま、ソーニャはじっと考えて……「じゃあ、蝶々はウルスが食べてください」とにっこり微笑んだ。

 ウルスは軽く目を瞠り、「いい考えだね」と満面の笑顔になる。

 くすくすと笑いながらそっと飴細工を摘み上げ、ふたりであーんと口を開けて……。


 竜、天にしろしめす。

 なべて世はこともなし。

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