少し大丈夫だね
「こいつはゆいっていうんだ、仲良くしてやってくれ。」
私たちは部屋に戻ってから話しを続けた。
「…よろしくお願いします。」
「………よろしく。」
私が言うのもなんだけど、なんて無愛想な人だろう。
なんでかんなはこんな気まずい空気で笑っていられるんだろう。
脳みそ容量足りてないんじゃないか?
「……こいつも仲間にすんの?」
「そーだよ。多い方がいいじゃん。
黒いドアの先は何があるかなんてわからないんだから。」
「……そっか。」
あれ…話聞く前から歓迎されてないような…。
いじめられ気質で人の表情に敏感な私はゆいと呼ばれる女性の顔を見る。
二十代後半の大人じみた女性に見える。
無愛想に見えたがどこか緊張しているようにも見えた。
……ただの人見知りかな。
「ゆいさんはいつからここにいるんですか?」
「3日前………ゆいでいいよ。」
ちょっと頬を赤らめて言うゆいさんはどこか可愛らしかった。
「…うん、よろしく。ゆい。
私はななだよ。」
「……よろしく、なな。」
こういう人を私は私以外で初めて見た気がする。
どこか親近感がわいた。
「さーて、自己紹介も終わったことだし、ななに計画について説明させてもらうよ。
ゆいは2回目だから適当に聞いてて。」
「ここから出るってお話し?」
「そうそう。
正直、あんな得体のしれないやつにここから連れてかれるなんて私もゆいもごめんなわけだよ。
だからさ、こっちから抜け出してやろうじゃんって話。
黒いドアの向こうがどうなってるかなんて分からないけど、ここであいつにつれてかれるのを待つよりはましだよ。」
「…抜け出すのに人数がいるから人を集めてるの?」
「いんや、提案って言ったろ。
計画自体はタイミングさえあれば1人でもできる計画だよ。
乗るのも乗らないのもななの自由だよ。
あの向こうがどうなっているかわからないから一緒に来てくれたほうが心強いけどね。」
かんなの意図が私には読めなかった。
ここで何年も待つという恐怖は正直、並の恐怖じゃないのがさっきのことでわかった。
黒いドアの向こうが不安だからって他人に希望を共有できるほど人はできているのだろうか。
そのタイミングとやらがなかなか噛み合わず時間を持て余していたからなのか。
いずれにしろ私はその希望にすがりたかった。
楽になるために死んだのに死んでまで恐怖を味わうなんてそんなのいやだ。
結果から話せばそのタイミングはなかなか来なかった。
「あの仮面のやつは連れて行く奴の前までわざわざ出向いて連れて行く。
抵抗しなきゃすぐ終わるんだけどさ、逃げたりされるとあいつは意外ととろいやつだから時間がかかるんだ。」
「じゃぁそのすきに黒いドアに…?」
なんだ…意外と簡単そうだ。
「って言いたいところだけど実はあの黒いドアの向こうにはもう一体あの仮面の奴がいてさ、そううまく通させてもらえなさそうなわけだよ。」
えっ…無理ゲーじゃん。
「でも私は一回だけ見たことあるんだ。
あまりにしつこく連れて行くやつが逃げてたらそのもう一体がでてきて一緒に捕まえようとしてたのを。
そんときは黒いドアはガラ空きだったよ。
私が抜け出そうなんて考える前だったけど。」
「……タイミングってもしかしてそのときを待ってるの?」
何年もいるかんなが一回しか見たことないんだ。
そんなものを待つと言うのか。
「今まで同じ部屋になったやつにはこのことを話してる。
けどなかなかその機会が来なくてさ。」
仮にかんなが部屋の人だけでなく、ここにいるすべての人にこのことを言ったら上手くいってただろうか。
多分無理だ。
人のために自分を犠牲にできる人なんてほとんどいないのだから。
「今は気長に待つしかなくてさ。
何かいい案があったら共有してくれ。」
気長に待てるほど私たちには猶予があるのだろうか。
でも代替案があるわけでもなくかんなの言うとおり私たちは気長に待つしかなかった。
ゆいは震えていた。
怖いのは私だけじゃないんだ。
ゆいも…かんなにだっていつ自分が連れて行かれるかわからない恐怖がつきまとっているんだ。
「ゆい…かんな……私も怖いよ。」
私は消えそうな声で伝えた。
「でも3人なら少し大丈夫だね。」
上手く言葉にできない安心感を。




