なまめかしき緑
自分はたいそうな臆病者である。それに薄情な人間でもある。
正直、こんな性格ひんまがった人間と友達になりたいとは思わない。思えない。
――つくづく、自分は面倒な人間だと思う。
***
「緑!」
昼食時、決まって誰かが彼女のもとにやって来る。 見慣れた光景であるが、本来ならば慣れるべきものではない。
「これ誰だよ!?」
「……ああ」
「俺の誘い断っといて、なんで、他の男と会ってんだよ!?」
「いや、ムコウが先だったし」
早口でまくし立てる相手に見向きもせず、目の前の弁当をつつくオンナ――早坂 緑。
色気より食い気で邪道まっしぐらな性格。
そのくせ異性問わず好意をバンバン受けるのは、誰に対しても変わらないその自由奔放な言動がいつしか相手を魅了させるのだろう。
「はじめっから騙してたのかよ!」
「騙したつもりはないけど」
「じゃあどっちが本命なんだよ!?」
加えて、彼女の容姿は美しい。
クセのある性格だが、もちろん交際を申し込む輩はあまたいる。
しかし。
「――どっちも本命」
いかんせん、彼女は惚れやすい人間である。
◇
「……またか」
「あははーごめんね」
ミドリはいつも困ったように笑う。
こうして顔を合わせて昼食をとっていると週に一、二回は先ほどのように男がやって来る。
ひどい剣幕の人もいれば、情けなく眉を下げた人もいる。
どの面にしても彼らが求めているのはミドリの本心である。
ミドリは実にしょうがない人間だ。
「それで昨日は誰とどこに行ったのさ」
「聞いてくれる!?」
「あたりまえ」
「ありがとう!」
こうしてミドリの浮気を知りながら毎回違うオトコの話を聞く自分も、実にしょうがない人間だと思う。
ミドリは異性との付き合いをとても嬉しそうに、楽しそうに話す。
こんなに生き生きと語るのになぜ浮気をするのか。
というか、そんなに何股もかけていつか首でも絞められるんじゃないかと。
個人的にはそちらのほうが心配になる。
「ケンジもユウスケもヤスシも、みんな好きよ」
……そうか、アンタは今三股か。
いや、先ほどの言い合いで一人脱落したから二股になるのかな。
ぼんやりとそんなことを考えていると、ミドリの大きな瞳が自分を見ているのに気がついた。
「志貴、だいすき!」
ミドリは周りから陰口を言われているのを知っている。幼稚で陰湿な嫌がらせだ。
知っていて何も言い返すことなく、そのまま言わせているのは自覚を持っているから。
――ミドリは実にしょうがない人間だ。
大きく口を開けて笑い、今日も辛辣な言葉を誰彼構わず言い放つ。
「はいはい」
彼女に恋して六年目。
この春、私たち(・・・)は高校の最上級生となった。
――臆病者な私は(・・)今日も彼女の側に“親友”として居座っている。