異世界からの援軍
どれだけ声を嗄らしただろうか?
どれだけ涙を流しただろうか?
結局、俺がなにをしても物語は変わらずバッドエンド。
地獄はどうやっても地獄でしかなかった。
「や、やめろおおおおおおお!!!」
絶叫。
悲鳴が木霊し、人が死んでいく。
俺は何も出来ない。この状況を覆すことなんて何も・・・・。
体が、心が、魂が軋むように痛い。
徐々に抜けていく力、手足がだらんとたれて身動きが取れない。
辛うじて動かせる頭も、ただただ残虐な破壊行為を見ることしか出来ないのならつらいだけだ。
「あ、あぁ・・・・・」
化け物は俺に気が付いた。
そう、それでいいのかもしれない。
まだ体育館には生きている人間が殆どだった。
死んだのはあいつと、生徒を何とか逃がそうとした教師だけだ。
こいつの姿は前と違い、なんらかのアクションを起こすと見えるようになるようだ。
お陰で皆迅速に逃げることが出来ている。
だが、俺は違う。
化け物が俺の目の前に立つ。
巨大だ。本当に巨大だ。
コイツが一時とはいえ死んでいたことが信じられないくらい、まるで生命力の塊のような姿をしている。
その醜悪な顔を、俺を見つけたからなのか喜びに歪め。
いつの間に持っていたのか、最初には無かった無骨な斧が両手に一本ずつ握られている。
あぁ、しぬんだ。
死神ににらまれたらこんな感じなのかな?
俺は全身に走る痛みと、目の前の衝撃的な光景の前に意識が揺らぐ。
このまま気絶できたらどんなにいいだろうか?
痛みのない世界へ飛べたらどんなにいいだろうか?
そう考えて、それを否定する自分が居ることに気が付いた。
「ふざ、けるな・・・」
そうだ。こいつはやっちゃいけないことをした。
アイツを、俺の大切なアイツを殺した。
・・・・・ゆるさねぇ。
そして気が付く。
俺の状態はいつ気絶しても可笑しくなかった。
ただ一つ、この化け物への恨みや憎しみが俺の意識を保たせていたのだ。
気が付くと、俺は立ち上がっていた。
そして化け物は俺をみて怯む。
・・・なんだ?どうしたよ?さっきまでの喜びはどこいった?
「あ、なんだよ、お前」
そんな表情をされたら本当に、本当に殺したくなってくるじゃねぇか・・・・。
周りを見ると、皆、俺に視線を集めていた。
化け物を後ずさりさせるほどの力を持っているのか?と期待を込めた目で見つめて来る。
それがたまらなく腹ただしいのは何故だろうか?
「ころす」
いま、俺の中にあるのはその感情だけだった。
☆☆☆
体育館にいたものはこの光景を忘れることは出来なかっただろう。
「ころす」
一番早くに異変に気が付き、そして生徒会長を救おうとして吹き飛ばされ、腹から鉄パイプがつきでている少年が化け物を威圧だけで押している。
漫画などであるような、気配の強さが全員に伝わっていた。
こいつならやってくれるかもしれない。
俺たちを助けてくれるかもしれない。
少年はおもむろに鉄パイプを引き抜いた。
だが、腹から出るはずの血液は、まるで枯れたかのように一滴もこぼれなかった。
「うるあああああ!!」
びりびりと空気を振るわせるほどの怒声を上げた少年は、黒髪をなびかせながら途轍もない速度で走る。
後ずさったことによって出来ていた、少年と化け物の距離はすぐさま縮まる。
「WOOOOOOOO」
だが、化け物もただでやられるわけでは無さそうだ。
両手の斧を振り上げ、少年を叩き潰そうと振り下ろす。
タイミング的には完璧で、少年の武器では勝ち目がないのは明らかで、それでも少年は突き進んだ。
それは一瞬。
瞬きのうちに終わる出来事。
だがしかし、それを見逃したものは誰も居なかった。
振りおろされる二本の斧は、等しい速度で少年に向かっていた。
少年はそれを認知していたのか、一瞥もくれずに、ただ手に持った鉄パイプを左から右へ弧を描くように頭の上で振るった。
少年のうでと化け物の腕ではまるで違い、膂力の差など明白だ。
少年の武器は弾かれるどころか、到達する前に斧で切り刻まれるのが決まっているようなものだった。
実際はそうではない。
少年の振るった武器は、誰の目にも留まらぬ速度で動き、化け物の斧は粉々に砕けた。
みなの目には、化け物が振り下ろした斧が途中で急に粉々になったように見えただろう。
化け物が驚き動きが止まったところをつき、少年は鉄パイプを投擲。
それはまるで少年の状態をそのまま映したかのように、鉄パイプは化け物の腹に突き刺さった。
「GYAOOOOOOOOOO」
とても耳障りな悲鳴をあげながら、のたうつ化け物。
少年はすぐさま飛び掛る。
仰向けでじたばたする化け物の腹から出るパイプを踏み抜き、それは地面を貫通した。
動けなくなった化け物の上に跨ると、どごっどごっ、と両のこぶしで殴りつける。
一度拳を振るうたびに、化け物の頭からは血が飛び散る。
それはただの暴力だった。
少年の顔は、暴虐に彩られていて、周りの様子すら気が付いていなかった。
少年は、さらに後ろから出現したもう二体の化け物に吹き飛ばされたのだった。
☆☆☆
何が起きてるかなんて、最初から分かっていた。
俺が拳を振るうたびに、コイツから血が吹き飛び散る。
それがたまらなく気分爽快で、気が付けば何度も殴っていた。
はじめはアイツがやられたから逆上した。
でも今はどうだ?俺はなにをしている?
そこまで考えて、拳が止まりかけたところだった。
背中に尋常じゃない衝撃。
一瞬で体育館の壁が顔の前にあった。
そして衝撃。
「ぐ、・・・・ごふぁッ!?」
口から大量の血が出てるのが見える。
そして、その向うには二体の化け物。
あぁ、ここまでか。
良く見れば、俺の真似をして鉄パイプて殴りかかり、無然にも顔から食われた奴がいた。
女も男も関係ない。
奴等の視覚に張ったものは全て食われる。
こちらへ、いつものあいつ等が走ってくる。
「お、おい!春人!!」
「いや、春人死なないで!!」
「しっかりして下さい!竜ヶ峰君!!」
こいつらは本当に、みんな馬鹿だ。
逃げないと、俺の近くはマズイ・・・・。
「に、にげ・・・ろ」
その言葉が精一杯。
体ももう動かない。
口すらうごかすのがやっとだ。
本当に大怪我したときって感覚が麻痺したみたいになるんだな。
さっきまで痛かったのが、もう感じない。
「ばか!お前をおいて・・・・・」
「なに言ってんの!?そんなこと・・・・」
「君を置いていけるわけ・・・・・」
三人の声が遠のいていく。
そして、三人の後ろに化け物が迫ってきている。
やめろ!お前らも早く逃げろ!
な、何構えてんだ!無理だ!逃げろって!
やめろ!誰か!誰かこいつ等を助けてくれ!!
そう、俺がいくら叫んでも届かない。
そして化け物はおおきく腕を振り上げて・・・・・。
「求めるは炎!矢となりて貫け!フレイム・アロー!!」
まるで御伽噺のような光景が。
まるで童話の世界の妖精が引き起こしたかのようなものが。
そこには俺がこのとき望んだものがあった。
炎の矢。それがまさに当てはまる。
先から矢尻までが炎で再現されている、炎の矢が、何本も化け物に突き刺さったのだ。
そして爆発。
小規模なものではない、大きな爆発だ。
当然、近距離に居た俺たちも危ないだろう。
だが、その心配はいらなかった。
「展開せよ障壁!ディフェンス・シールド!!」
突如として俺たちの前に現われた、金髪で長身の女は両手を前に出して叫んだ。
すると、熱風が俺たちを焦がす前に、魔法陣みたいな黄色のものが広がって、それが盾のように俺たちを守った。
一瞬、煙で見えなくなるが、それも直ぐに晴れる。
化け物は、まだ生きていた。
あいつ等の斧の一振りで煙が吹き飛んだのだ。
憎悪だと思う。
そんな表情をしながら、体のところどころにやけどを浮かばせた化け物は、爆風で吹き飛ばされた距離を詰めようとこちらへ走ってくる。
「お、おい・・・あんた」
何故だかわからないが、俺はコイツの事が気になった。
いきなり登場して、いきなり魔法とか使って、なんなんだこいつ?ってのが正直なところ。
だが、俺の声を聞くと、女は驚いて振り返ってこういった。
「あ、貴方、私のことが見えますの?」
・・・・・ん?
可笑しいってのは、意識が朦朧としてる俺でも分かった。
いや、他の奴にはどう見えてんだ?
っと思っても、三人とも爆風の衝撃が凄かったのか、それともびびってなのか、気絶してる。
ここは、そのまま答えとくのが無難だろう。・・・って
「あんた、ま、前!!」
化け物はもう直ぐそこまで迫っていた。
しかし、女は見向きもしない。
こいつ馬鹿か?!
相変わらず俺のことを驚いた表情で見つめ「私ならともかく、魔物までみえてるんですの?一体これはどういう・・・・」なんてことを口走っている。
だがまぁ、女のこの余裕は当然だったのかもしれない。
「はぁぁぁ!クロスブリッツ!!」
女同様、いきなり出現した長剣を構えた男は、化け物の一撃を弾き、返しの剣で一体を引き裂いた。
「エレナお嬢様に近づくな!魔物風情がぁぁぁぁぁぁ!!」
続く二体目の化け物も、今度は斧の一撃を弾く前に横に引き裂いてしまった。
なんつーか、こっちの男のほうが化けモンじゃねぇか。
「あ、ちょっとあなた!!クロード!クロード早く!!このお方を・・・・」
なんか、この女の声ってアイツににてるな・・・・。
そんなことを考えながら、俺の意識は闇の中に沈んでいった。