表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

汚れなき遊び

作者: をはち
掲載日:2026/08/10

その遊び――無垢だからこそ、きわどい


子供の頃、私たちの町に「まさる」という少年がいた。


近所の大人たちは、彼の姿を見るだけで顔を強張らせた。焚き火の前に佇む子がいれば、背後からそっと近づき、火の中へ押し込む。


池の縁で身を乗り出す子がいれば、影のように忍び寄って背中を突く。高い場所に立つ子がいれば、迷わず押した。


まるでそれが自然な遊びであるかのように。誰もが知っていた。あの子は、命と死の、危うい境目を愉しむ。


小学校に上がっても、その性質は薄れるどころか、ただより巧妙になった。


表向きは笑顔を浮かべ、誰もが「元気な子だ」と言い訳するようになったが、私は知っていた。


まさるの目には、いつだって獲物を測るような冷たい光が宿っていることを。


夏祭りの夜は、特に鮮明に覚えている。浴衣の袖を揺らす人混みを避けて、私とまさるは境内の石畳で小石を投げ合っていた。


最初は微笑ましい遊びだった。軽く投げ、軽くかわす。笑い声が上がる。しかし次第に、小石は大きくなり、角の尖った石に変わっていった。


祭りの喧騒が遠く聞こえる中、まさるの投げるものはさらに重量を増し、地面に落ちるたびに鈍い音を立てた。


「当たったら、怪我するよ」


私がそう言うと、まさるはにっこりと笑った。


「ここからが面白いんだ!」


投げられる石はもはや石ではなかった。近くの露店から持ち出したらしい、漬物石や割れた瓦の破片。


理性の制御など最初から無いに等しい。闇の中で、白い歯だけが浮かび上がるように見えた。


笑いながら、私を狙うその瞳には、ただ純粋な期待だけがあった――当たってほしい、という期待。


恐怖が背筋を這い上がった瞬間、私は何も言わずにその場を離れた。祭りの提灯の明かりを背に、足早に家路についた。


後ろからまさるの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。


翌朝。学校のエントランスで、私は靴紐を結んでいた。朝の陽射しが床に長く影を落とす中、突然、耳元で空気が裂ける音がした。


ガシャン!植木鉢がすぐ横で砕け散った。土と陶片が飛び、鋭い破片が私の頰をかすめた。


ゆっくりと顔を上げると、二階の踊り場に、まさるが立っていた。彼は欄干に両手をつき、身を乗り出すようにしてこちらを見下ろしていた。


朝の光の中で、その笑顔はひどく澄んでいた。まるで、昨夜の続きを楽しむように――


私はその瞬間、理解した。まさるは、ただ「押す」のが好きだったわけではない。


彼は、境界を越える瞬間に生まれる恐怖と、命が揺らぐその刹那を、誰よりも深く愛していたのだ。


そして今、私はその境界のすぐそばに立っている。まさるは小さく手を振った。まるで、今日も一緒に遊ぼう、と誘うように。


私は凍りついたまま、動けなかった。足元には、砕けた植木鉢の残骸が、まるで血のように広がっていた。



読んで頂き有り難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ