ⅰ -1 繁い森、わたしへ
受験生の冬。私は少々物で荒れた勉強机に向かい、数学の勉強に明け暮れていた。本当は理科の追い込みをしないといけないのに、とかく好きな数学に熱中していた。
私は好きなものにはとことん集中できる――が、好きなもの以外はまったく興味が湧かないというか、もっとほかに勉強しないといけない科目に目を配れなかった。とにかくやる気が起きなかったのだ。それをなんとかしないといけないのが受験生だとわかっていても、やっぱり数学のことが大好きだった。
そして、数学のノートの横にはいつも落書きを添えていた。当時流行ってたアニメのやつ。作画が美しくて、いつかこんな絵をさらさらさら~って描けるようになりたかった。一番の憧れは、アニメの最終話とかによくある、描きおろしの一枚絵を描くことだった。アニメーターとか、漫画家とか、作品を作っている最中はとにかく仕事をしてる!って感じだけど、描きおろしの絵には人間臭さを感じられる、まさにプライベートの絵みたいな感じがして好きだった。私はひそかに、イラストレーターの道を志していたのだった。
そして、自分の置いていた環境だとか、安定した職に就いて親を安心させたいだとか、そんな理由で絵の道を押し殺したくなかった。
小柳鞠羽、今年の春から理系大学生。いわゆる、リケジョ。地区で一番の進学校に通っていた。高校ではある程度普通の成績を取り、そこそこ名の知られた国公立の理系大学に進学した。しかし大学のキャンパスは地方にあるので、都市部で暮らしていた家から独り立ちして、人生初の一人暮らしをすることになる。
進学にあたり、私と両親は新幹線と在来線を乗り継ぎ、五時間後にようやく大学の最寄り駅(?)に着いた。そこからレンタカーを借りて、家を探すついでに周辺を散策しに行った。
車に揺られること一時間。鬱蒼とした山から、突如近代的な建造物群が顔を出す。
「えっ…… ここ?」
助手席に座っていた私は思わず声を漏らした。しかも裏返った。駅から一時間もかかるクソ不便な場所なのに、なんでこんなところにこんなクソデカ建物があるんだよ。すると少し間を置いて、運転している父親が私に向かって言った。
「……浪人する?」
私は変な顔になった。入学金を入れた母親はもっと変な顔になっていた。
さすがにもう一年このメンタルで受験勉強する気は起きないし、せっかく大学に受かったのにこれ以上のお金を出させるのは申し訳ない気がした。ちょっとか弱い声だけど言えた。
「ううん、がんばる」
私たちはだだっ広い大学駐車場に車を停め、大学近くの不動産屋さんに出向いた。大学周辺を見ていたが、都市として機能していると到底言えないばかりか、本当に大学がなければ何もない状態だった。大学生が住んでいそうな賃貸アパートがぽつぽつと建っていた。
不動産屋さんに辿り着くと、私のおじいちゃんくらいの見た目をした明屋さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。もうすぐ大学生かね。家を見に来たのかい」
「……あっ、はい」
「そうかい、まあ、うちが扱ってる家は少々独特でね……」
そう言うと明屋さんはいくつかの家の間取りの資料を取り出して見せてきた。ふむふむ、よくある一人暮らし用のワンルーム物件ばかり……
ではない。間取りは至って普通なのだが、外見写真がどうも普通の物件ではない。どれもこれも緑の草木が生い茂っていたり、変なデザイナーズマンションだったりしている。別に廃墟じゃないしこの町自体ゴーストタウンってわけじゃないんだろうけど。突然ここに連れてこられたら興奮するかも。一方、両親はぽかーんとしている。
こういう家は別に住みたいわけじゃないけど、どうせ住むことになるので明屋さんにこの町についていろいろ訊くことにした。
「なんでこんな不思議……な家ばかりなんですか」
「……えーっとね、この大学がここにできるまではもちろんこの辺りは何にもなくてね、普通の山だったんだよ、でも大学ができてからというもの近未来の都市を作ろうとしたのか、そんな都市構想があったみたいでね。ニュータウンみたいに家をこう建てていったわけでね。そこに当時のデザイナーが関与して、こんな住みにくい……なんて言っちゃ悪いけど、こんな感じのデザイナーズマンションがボンボン建っていった、ってわけなんだよ。んでね、私はそこに乗っかって不動産屋をここに建てたんだけどね、まあこんな場所に人がわんさか来るわけなくてね、今はこんなかんじの自然豊かな町になったんだ。まぁ、地方にあるような大きいスーパーの1つも無くて、車がなきゃ到底生活できないし、病院すら山を下りないとなくてね……そして」
あ、この人話始めたら止まらないタイプだ。でもおじいさんの話ってどこか惹かれてずっと聞いてられるもんなんだよなぁ。
そうこう話を聞いていたら、まだ上の方にあった太陽がずいぶん傾いてきていた。このまま日が暮れるのはまずい。そろそろ内見とかしに行きたいなぁ。そう思って話を内見の話に持っていった。
「えっと、今日は内見をしたくて」
「ん?ああ、そういえば、お家を探していたんだったね」
忘れるなよ。とすぐツッコみたくなったが、明屋さんの話もタメになったので喉裏にひっこめた。
今度は明屋さんの車に揺られ、この町の間を縫って行った。やはりこの辺りを走り慣れているからか、再び自然に還りはじめようとしている道すらも巧みなハンドルさばきで難なく攻略している。私もいずれこんな運転ができるのだろうか。
そんなことを考えながら、車内にぶら下がったかわいい猫のストラップが気になってぼーっと見つめていると、早速一軒目の家(?)に辿り着いた。
「ここだよ、停めるからすこし待っててね」
ガサゴソと堆積物を踏みながら華麗に駐車する明屋さん。
そうして辿り着いた最初の家だが、廃墟かと思った。いや、廃墟だと言われないと困る。
二階建ての一軒家で、壁面には一面の草木。綺麗なお花の飾りを窓際に施し、自然との調和が取れている。もはや自然の一部と言っても過言ではない。これが、大学生向けの賃貸物件なのか。
でも、どこか手入れが行き届いていて、よくみると玄関前は綺麗に掃除されているし、庭も少し掃除すればすごく家の雰囲気に合う。どこまでが庭なのか正直よく分からないが。
「ほんとうにここなんですか」
きっと明屋さんにとってはこんな家は当たり前だろうに思わず聞いてしまったが、明屋さんはニコニコとこちらを向いて頷いた。明屋さんは自分の家であるかのように颯爽と玄関の鍵を開けた。
ズズズッ ガコンッ ガガガガガガッ
明屋さんに連れられ玄関を抜けると、家の中は外見とは裏腹に綺麗に整頓されていた。あまりの差にきょとんとした。キッチンやトイレ、風呂など、家電を含めて最低限生活できる設備が備わっていて、正直あとはPCとペンタブさえあればもう十分そうだ。
「二階に上がりますかね」
一階部分だけでも十分すぎるほどなのに、そういえばこの家には二階があった。大学生一人が面倒見切れる家ではなさすぎる。
二階部分には三部屋。和室が一つと、洋室が二つ。和室の畳も綺麗ですべすべとした質感につい寝転がりたくなった。日差しの加減は言うまででもない。
「え、えっと…… これ、五万円くらいでしたっけ」
「ん? ああ、一ヶ月で三万円だよ」
背後霊かのように私の後ろにいた両親の方を向くと、よく分からないがまあいいんじゃないかという空気があった。他の家も見てみたいが、こういうのは直感で決めるべきだ。何せすごく居心地がいいのだ。
「では、ここでお願いします」
はじめまして、鈴々りりと申します。
私が書く初めての小説?ラノベ?です。小説家になろうで連載してみたいと思ったので書き始めました。
更新ペースはゆっくりだと思いますが今後も続編も読んでくださると嬉しいです。




