プロローグ
三度目の正直
目が覚めた頃には、雨が降り出していた。
ぱらぱらと鳴る疎らな雨は、ベンチで仰向けに転がる少女の瞼を打ち、白いまつ毛には小さな雨粒が溜まる。
「ーーーもうすぐ、仕事の時間ですね」
瞼の粒が目尻を伝うと、少女はおもむろに起き上がり、かぶりを振って毛先の水を振り払う。
「もう少し眠りたかったですが……まぁ、いいでしょう」
ぐぐっと伸びをした少女は、乱れた毛先を軽く整えると、傍らに立て掛けてある白の大鎌を手繰り寄せ、ざりざりと峰の部分を引きずりながら柵の際へ歩みでる。
ここはとあるビルの屋上である。少女がここにいる理由は、仕事のことももちろんあるが、何より見晴らしが良かったからと、至極単純なものだ。
少女は柵に寄りかかる。ここから眺められる景色は、夜よりもずっと暗い雨の街だ。そこに灯りは無く、ざぁざぁと鳴る雨音だけが満ちている。
ーーーもうすぐで、本格的に『雨』が始まる。
「ーーー来ます」
一陣の風が吹き抜け、黒雲に青き稲妻が走り出した。ーーーその直後のこと、少女の見据える黒雲、その奥から無数の青い影が続々と這い出るようにして現れる。
あるものは小さく、あるものは大きく、あるものは犬であり、あるものは人である。千差万別の姿形をもつそれらは、しかしどれも生命を襲う存在で同じ。
かれらは『魂霊』と呼ばれる死したものの魂だ。
魂霊の出現を確認した少女は、早速大鎌を肩に担ぐ。
少女は『死守』である。
その役目は、死したものの魂を狩り、天へ還すこと。故にその仕事は、この世の死のあり方を守り、訪れる死から人々の日常を守ることである。
「ーーメメントモリ。仕事の時間です」
冷淡な口調で仕事の始まりを告げた少女は、柵に足をかけると、一振りの大鎌を携えて死守として冷たい雨に飛び込んだ。
ときどき細かい修正を入れるかもしれません




