無双なふたり
〈水つ洟ラーメン啜るだらしなさ 涙次〉
【ⅰ】
と云ふ譯で、前回の續き。
「はぐれ魔導士」逹は三々五々、事務所に帰つて來た。水晶玉も置きつ放しだし、何より例のタブロイド誌でカンテラ一味、その係累、魔界の事を暴くのが、彼らの仕事なのだ。一味が【魔】と対峙するのと同じである。だが、一つ違つてゐるのは、一味が惡と向き合ふのに對し、「はぐれ魔導士」逹には善も惡もない。書く側としての倫理と云ふものがない。
カンテラとじろさんは、「方丈」の水晶玉で、彼らのお株を奪ふかの如く、魔導士集團の復帰活動の模様をウォッチしてゐた。涙坐が彼らの飲む珈琲に「フラーイの花・顆粒」を混ぜたのを、彼らが首尾良く體内に摂取してくれゝば、彼らは皆トリップしてしまひ、タブロイド誌用の執筆及び編輯作業には大きな滯りが出る筈である。
【ⅱ】
だうやらそれは成功したやうだつた。水晶玉に向かふ係(謂はゞ取材担当)の者、執筆者逹、皆欠伸をし、見るからにやる氣を削がれてゐる様子だ。これでは彼らの唯一の収入源であるタブロイド誌の編輯發行は無理である。生の珈琲に覺醒作用があるのに對して、「フラーイの花・顆粒」入りの珈琲には、行き過ぎた鎭靜作用と覺醒作用の綯ひ交ぜになつた、所謂業界用語(?)では「スーパーボール」と云ふ作用がある。リラックスも程々にしないと、仕事と云ふものは不可能となつてしまふ。
【ⅲ】
そんな中で、たつた二人だけ、珈琲に手を出さない者らがあつた。この二人組、晝の最中から酒を食らひ、チンチロリン賭博にうつゝを拔かしてゐる。「魔導士」逹とは違ふ職掌にあるのは一目瞭然だ。彼ら(この二人組)は、魔導士逹の用心棒として雇はれてゐるものと推測された。水晶玉- カンテラサイドの、に映つたこの二人組の顔をじろさんのスマホのカメラに収めると、カンテラ・じろさんコンビはカンテラ一燈齋事務所に帰つた。
※※※※
〈猫の目のごと眞つ正直な目なり貴女と別れて幾月が經つ 平手みき〉
【ⅳ】
さて、テオ。じろさんが持ち帰つた二人の顔冩眞から、彼らの身許割り出しに挑んだ。割りに簡單に身許は割れた。これは彼らが、それだけ要注意人物だと云ふ事を示してゐるやうだ。
「兄貴、じろさん、連中の身許、分かりましたよ」-カンテラ「どんな奴らなんだい?」-「刀を持つてゐる方が、鷹林孫兵衛。別名『象殺しの孫兵衛』。これは暴れ象を剣で制した事から付いた名。もう一人の小柄な方が、塙易如。魔導士ですが、この『はぐれ魔導士』集團の中でもずば拔けた能力をもつてゐて、* 所謂『魔的空間』を操ります。その『空間』に呑まれると、人・動物問はず催眠効果の餌食となる、と云ふ」
* 當該シリーズ第44話參照。
【ⅴ】
「良く調べた、テオ。きみの仕事は今日はこれでお仕舞ひだ」-「やけにあつさり濟んだなあ」-「魔導士逹を殺るのは、白虎一匹で足りるだらう。ご苦勞さん」
カンテラ、「方丈」から持つて來たものがあつた。* 二本の小さなピン、である。これを自らの躰の一箇所に刺せば、魔導士の術の効果が痛みによつて四散する。
* 當該シリーズ第155話參照。
【ⅵ】
カンテラ、珈琲の出前の兄ちやんに刀を突き付け、「惡いが囮になつて貰ふ」。怯へた兄ちやん、素直に云ふ事を聞いた。「✕✕館のものですが珈琲お持ちしました-」。インターフォンのカメラに映つた、何時もの配達員を見て、或る魔導士がドアのロックを開けた- と、たちまち白虎が室内に躍り入り、魔導士逹を次々と嚼み殺して行く。
「だうやら俺逹の出番のやうだ。塙、行け」と鷹林。塙は室内に「魔的空間」を展開、苦もなく白虎は眠らされたが、カンテラ・じろさんは例のピンのお蔭で、覺醒した儘。鷹林「む、やるな。俺が一丁-」-だが、カンテラ、大刀を拔き放つと、Turbo!! Charged by 白虎 influence!!の呪文と共に、「『象殺し』だか何だか知らぬが、このカンテラ一燈齋の剣、受けてみよ!」-鷹林のスピードは、度重なる飲酒のせゐで、白虎と合力したカンテラには到底及ばなかつた。「しええええええいつ!!」
【ⅴ】
「う、うわつ!」塙、それを見て慌てふためいて逃げ出さうとしたが、じろさんにとつ捕まり、投げ→掌底→急處突き、で敢へなく昇天。
【ⅵ】
これを以て、對「はぐれ魔導士」篇、終焉かな? と云つたところ。尠なくとも君繪の溜飲は下がつたゞらう。結局、チャンバラらしいチャンバラもなかつた、カンテラ・じろさんの無敵振りだつた。
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〈胸から胸冬のさゞ波届いたり 涙次〉
今回はこれでお仕舞ひ。呆氣なく終はつて、濟みません。ぢやまた。
PS: 仕事の代価は、カンテラ・じろさん、「はぐれ魔導士」逹のポケットからまさぐり盗つたカネで、それに充てた。こつちの方も無双なふたりであつた・笑。




