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前の世界では売れない小説家でした、異世界ではのんびり話を作ります。

作者: ヤスヤナ
掲載日:2025/10/27

ほんわかした話です。

「寒いからなんか暖かい話を書け」

第一声が、これである。

「またお忍びで来たんですか? 姫様」

僕は苦笑いしながら返す。

同じ17歳、この国の姫。実に真面目な少女。

「オシノビ?

よくわからないが、とにかく話を書け」

「はいはい」

「暖かい話をな(フンッ)」

困った姫様だ。僕は庶民の作家で、こちらは姫様というのに、護衛もつけず来て、これである。

「とりあえず、中に入ってください。寒いでしょうから」

「当たり前だ」


「うーん。暖かい話、か」

椅子に座り、僕は考える。

「まだか、まだかまだか」

暖炉の前、椅子に座り、ガタガタ鳴らす姫様。

「暖かい話、暖かい話」

ダメだ、全く思い浮かばない。

自信がない。

元々、僕は売れない小説家だったんだ。そりゃ、こっちの世界に来てからは、それなりに売れるようになった。でも、前の世界では、高校に入らず専業作家をしていたけど、売れなくて、両親にも申し訳なくて、元同級生たちとは会うのが怖くて。

「まだかまだかまだか」

ガタガタ鳴らす姫様。

姫様、か。

「よしっ」

紙に話を書き始める。


そして、

「待たせました、姫様」

「わあっ!

じゃなくて、遅いっ」

今、何か可愛らしい表情を見たような。

気のせいだろう。

「ついでに、こちらもどうぞ」

と言い、コトリ、と僕は置く。

「何だ」

「暖かい飲み物です。庶民の飲み物ですが」

「庶民の飲み物…」

ああ、かたまってる。怒ってるのかな?

「素敵な飲み物をもらっても話の評価は変わらないからな(キリッ)」

素敵な飲み物って、まあ、空耳だ、空耳。

「姫様にとってはつまらないものかもしれませんが、頑張って書きました。お願いします」

僕は頭を下げる。


しかし、

「スヤスヤ」

「眠らせてしまった…」

不味いな、つまらなかったから眠らせてしまった。切腹か? HARAKIRIなのか?

姫様にまつわる暖かい話を書いたんだけど、合わなかったみたい。

ひざ掛けを掛けてあげれば、少しは。

「暖かい飲み物、暖かいお話、だーいすき。スヤスヤ」

「空耳だろう」

真面目な姫様なんだ、この方は。

禁断の恋愛は起こらない、真面目な少女なんだ。


ありがとうございました。

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