前の世界では売れない小説家でした、異世界ではのんびり話を作ります。
ほんわかした話です。
「寒いからなんか暖かい話を書け」
第一声が、これである。
「またお忍びで来たんですか? 姫様」
僕は苦笑いしながら返す。
同じ17歳、この国の姫。実に真面目な少女。
「オシノビ?
よくわからないが、とにかく話を書け」
「はいはい」
「暖かい話をな(フンッ)」
困った姫様だ。僕は庶民の作家で、こちらは姫様というのに、護衛もつけず来て、これである。
「とりあえず、中に入ってください。寒いでしょうから」
「当たり前だ」
「うーん。暖かい話、か」
椅子に座り、僕は考える。
「まだか、まだかまだか」
暖炉の前、椅子に座り、ガタガタ鳴らす姫様。
「暖かい話、暖かい話」
ダメだ、全く思い浮かばない。
自信がない。
元々、僕は売れない小説家だったんだ。そりゃ、こっちの世界に来てからは、それなりに売れるようになった。でも、前の世界では、高校に入らず専業作家をしていたけど、売れなくて、両親にも申し訳なくて、元同級生たちとは会うのが怖くて。
「まだかまだかまだか」
ガタガタ鳴らす姫様。
姫様、か。
「よしっ」
紙に話を書き始める。
そして、
「待たせました、姫様」
「わあっ!
じゃなくて、遅いっ」
今、何か可愛らしい表情を見たような。
気のせいだろう。
「ついでに、こちらもどうぞ」
と言い、コトリ、と僕は置く。
「何だ」
「暖かい飲み物です。庶民の飲み物ですが」
「庶民の飲み物…」
ああ、かたまってる。怒ってるのかな?
「素敵な飲み物をもらっても話の評価は変わらないからな(キリッ)」
素敵な飲み物って、まあ、空耳だ、空耳。
「姫様にとってはつまらないものかもしれませんが、頑張って書きました。お願いします」
僕は頭を下げる。
しかし、
「スヤスヤ」
「眠らせてしまった…」
不味いな、つまらなかったから眠らせてしまった。切腹か? HARAKIRIなのか?
姫様にまつわる暖かい話を書いたんだけど、合わなかったみたい。
ひざ掛けを掛けてあげれば、少しは。
「暖かい飲み物、暖かいお話、だーいすき。スヤスヤ」
「空耳だろう」
真面目な姫様なんだ、この方は。
禁断の恋愛は起こらない、真面目な少女なんだ。
ありがとうございました。




