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1話

朝7時を示す目覚まし時計のアラーム音に叩き起こされる。重い瞼を無理矢理開け、アラームを殴るように止める。


両親が事故で亡くなり、約1年が経った。家事はそこそこできるようになり、幼馴染とご飯を食べることもよくある。


パンを焼いて、昨日多めに作っていた残り物が入ったタッパーと共に食べる。前日に多めに作れば翌朝作らなくていいじゃん、と思ったのが最近である。


適当に歯磨きを済ませ、家を出る。


俺は学校には早めに行く派である。ホームルーム直前はクラスメイトがうるさく騒いでいて不快だからだ。


学校に着くと、真面目に勉強する生徒もいれば、うるさく友達と騒ぐ生徒もいて、委員会の仕事をするために早く来た者もいる。

文化祭が前後していたためか、朝でも賑やかだった。


静羽は、まるで冬の朝靄の中に咲いた一輪の白椿のようだった。

柔らかく整った輪郭に、きめ細かな白い肌。光を受けるたびに艶やかに揺れる黒髪は、肩のあたりで緩やかに波打ち、静かな風にそっとなびく。目が合うと、こちらの心をすっと見透かされるような、不思議な気配を纏っている。

制服の襟元には、控えめに整えられたリボンがあり、姿勢や仕草のひとつひとつが丁寧で、育ちの良さと彼女らしい気遣いを感じさせる。


「悠人くん、何書いてるの?」


「小説」


「んなこと知っとるわい!それ「何食べてるの?」て聞いて「食べ物食べてる」て返された気分だわ!」


「そのまんまだな!」


意味不明なことを言っている元気いっぱいの彼女は、昔から俺の小説を唯一真面目に読んでくれる幼馴染である。

両親を亡くした時も彼女が立ち直らせてくれた。


俺がこんな美人と仲良くできる理由は小学生の時の病院が出会いだった。


小学生の時俺は、血液検査が死ぬ程嫌いだった。

予防接種とか注射するだけならともかく、自分の中から血液を抜かれるのを見ると血の気が引いて気分が悪くなる。

そんな時彼女が隣に来て、俺の手をぎゅっと握ってくれた。


「大丈夫、大丈夫だよ」


その声は妙に落ち着いていて、小学生とは思えないほどしっかりしていた。俺は視線をそらして、彼女の顔をちらりと見た。小さな額に浮かぶ汗、少し震える手。怖いのはきっと彼女も同じなのに、俺の前では一切それを見せなかった。


「私、病院慣れてるからさ。だから、平気。悠人くんも、きっとすぐ終わるよ」


彼女はいつもそうだった。自分が怖くても、誰かのためなら笑う。泣きたい時でも、他人の痛みに寄り添える。子供の頃から、それが静羽という人間だった。


俺の掌に残ったあの時のあたたかさが、なぜか今でも忘れられない。


「今、恋愛物に挑戦中だけどやっぱ上手く書けねー」


「ふ〜ん、いつもファンタジーばっかりなのにね」


「挑戦することは大事だろ?」


「そう、じゃあ私で勉強しとく?」


悪戯な笑みを浮かべながら、こちらを変な目で見る彼女に、少しだけ不信感を抱く。

その提案に乗りたいというか、俺からすると有り難い話ではあるが、それは負けた気がするので却下だ。


「いや、遠慮しとくよ」


「なんでや!」


「だって幼馴染をそんな目で見れないからな」


ちなみに大嘘である。

いつか男女として対等な交際ができたらな、と思うけど告白する勇気がない。

勉強とかそういうことで彼女を使うくらいなら、正式に対等な付き合いをしないと俺のプライドも、彼女の価値も傷つけてしまう。


「そう……てか、なんか疲れてね?」


「なんか変な夢見ちゃってさ」


「どんな夢?」


「なんか静羽が頼む心臓くれー!って行ってくる夢」


「何それ!そんなこと言わないし……」


下に目線を移動させた静羽は、一瞬だけどこか暗い表情をする。


「静羽もあんま元気ないだろ?」


感じたままを言葉にしてみた。

いつも元気な静羽が元気がないとこちらまで暗い気持ちになるのでやめて欲しいと思う。


「いや、別に?私はいつも元気だぞーーー!!」


静羽は昔から場所や状況を弁えずにうるさく騒ぐタイプだ。

勉強している奴からすると迷惑極まりないだろう。


「教室で叫ぶな。人少ないからセーフだけどさ」


静羽が「そんなこと関係ないから!」と言って一緒にいる俺の方が恥ずかしい目にあってしまった。

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