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宵に歩き月に吠える

作者: てんこ

二桁年ぶりに書きたくなりまして。

読んで頂けたら嬉しいです。


私は猫だ。名前はすでにある。その名を名乗るつもりは無い。そう答えたら、隣にいた同胞が

「 それでは不便極まりない 」

と、呼び名をつけてきた。その時から、私は


【 宵歩き 】


と呼ばれるようになった。ので、同胞のことは


【 月吠え】


と、呼び名をつけてやった。お返しである。



ある橋の近くにある別荘で、着替えることも無く昼寝をしながら相棒を待っていたある日。高次域におわす方々の来訪をうけた。

別界に行き、道標のタネを見守れ、と。

速攻お断りした。


だって、その間に相棒がここに来たらどうしてくれるの。あたしがこの別荘にきてから3年たっても5年たってもべそべそぐじぐじしてる相棒なのに、ここに来た時、あたしが居なかったらどうなるかなんて考えたくもないわ。少しだけ先の曲がった自慢のもっふり鍵尻尾をぴっと立てて出迎えてあげるのが、あたしの希望なんよ。わかる?


でも、高次域の方々はしつこかった。見守りを完遂すれば望みは叶うし、猫としての本能はそのままでヒトの価値観も理解できるようになる。相棒と今よりもっと分かり合えるようになる。そう説得してきた。


なんで、あたしなん?


道標はまだタネなので芽吹くまでの期間、長く見守れる存在が必要。ヒトに託すと世代交代しなくてはならず、見守りの意味が変質してしまうだろう。ヒト以外でヒトの身近に居てもおかしくは無い猫や犬が適任なのだと教えられた。


確かに。あらあらあそこのお宅ってばいつも同じような犬や猫ばっかり飼い続けてるのね、で終わっちゃうね。


高次域の方々はさらに言う。

道標が生まれる前の最後のタネは、厳しい試練を受けなくてはならない。その時にただ寄り添うのではなく( 見守る )存在として君たちを選んだのだと。君たちは何より大切な存在がいて、かつ、見守る意味を理解しているからね、と。


仕方ない。


見守りとやらを終わらせたあと、時空軸やら時間軸を調整して間違いなく相棒を出迎えられることを確約してもらい、私は件の別界に行くことにした。赴く別界限定ではあるものの、寿命といういのちのリミッターを解除されて不老不死の存在となった。事故に巻き込まれない限り、その別界で死なずに済む。多分、私がそこに所属するものでは無いからできることなんだろう。こんな力技なギフト。そしてそんな力技を使わなきゃならないほど、タネとやらは必ず芽吹かせなければならないのね。理解はしたけど興味はないわ。あたし、猫だし。


あたしにとって興味があるのは見守りが終わり相棒と再会した時に、事の顛末を聞いた相棒が面白がってくれるような出来事がこの別界にあるかどうかってことだけ。相棒限定でおしゃべりなんよ。猫だけど、ね。



【 月吠え 】


木っ端恥ずかしい呼び名を付けてきたのは、柔らかなグレーの毛並みの小さな猫だった。


自分たちの種族は血脈を繋ぐための最適な配偶者を番として認識する。自分もだ。他の誰よりもしなやかな身体と薄い毛色。彼女との子どもは種族をより進化させるだろう。自分の頑強さと彼女のしなやかさ。それらをあわせ持つ子どもたちを守り導くことが、自分の本能。



彼女は殺された。


普通の狼より毛色が濃く、身体も一回り以上大きな自分の毛皮を欲しがったヒトの手で。自分をおびき寄せる罠にする為に、妊娠して動きが鈍くなっていた彼女を捕らえ、嬲った。そのヒトを襲ったが、返り討ちにあったな。銃には勝てん。だが策を弄してまでして欲しがった自分の毛皮は、銃痕でぼろぼろだ。ざまぁみろ。


朽ちていく身体。高次域におわす方々に拾われた。


彼女や子供たちに会わせることは出来ないが、遊びのように命を弄ぶ者にはそれなりの因果をめぐらせる。だからある種族の行く末を見守って欲しい、そう言われた。


難しいことは、自分には理解できん。だが、数多つらなる別界もただ二つ共通のものがあるという。それが光と闇。善と悪ではないのだな。光と闇はふたつが揃い合うことで全ての界の礎となる。しかしやがてふたつが混じりだしそこに混沌が生じ始める。するとまた新たな光と闇が生み出され ━ その繰り返しが螺旋階段のように紡がれていくらしい。


が。


今度ある別界で生み出される光は、輝きが強すぎるあまり他の別界に過干渉してしまい、多くの別界が崩壊してしまうのだという。高次域の方々でも、その崩壊が始まってしまうと止めようがないそうだ。


混沌ならば整理すれば問題ないのだけど、虚無では整理するものがないからね。どうしようもない。


高次域の方々は、虚無を防ぐため光を導く道標が必要なので、その道標が育つまで見守って欲しいという。長い話だな、おい。



彼女が殺されて、行き場がなくなった自分で良ければ、見守りくらいはしてやろう。ヒトに執着された無駄にでかい身体や体毛を無個性な物に替えてくれるなら。種の進化を担う狼としてでなく、ただの犬に替えてくれるなら。


そして、灰色の猫と引き合わされた。見守り同胞だな。


【 宵歩き 】と呼んだら、【 月吠え 】と呼ばれた。


別界に呼び名が定着し、自分たちはそこに転位した。



YouTubeでもインスタでも切り取りがあるので、書きたい範囲で書きたい場面を切り取りしてみようと。仕事中の隙間時間に組み立てました。大元はベタな光と闇の闘いの話です。

蛇足ながら。昔はともかく今は太陽光もまるっと善ではなくて、紫外線やブルーライトにより健康被害もあるとか。だから光が世界を滅ぼすって世界軸もありかなと。最初は闇を駆逐したら表裏一体の光も消えたって話を考えていたのに、変質したw

蛇足その二。宵歩きの一人称が変わるのはわざとです。私、の時はよそ行きの顔してます。あたし、は素。猫だからの二面性w

その三。異世界転生とか転位って人間だけ?虹の橋に先行したコが待ち人がくるまでの間、ちょっと冒険してきます、も良くなくない? なんてね。



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― 新着の感想 ―
それぞれの視点から語られる壮大な物語に私も一気に引き込まれました。大切な相棒を想う宵歩きの深い愛情と番を失った月吠えの悲しみと彼らが背負う世界の命運という重い使命の対比が印象的でした ささやかな応援で…
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