3章@sorano***
「あの、プリント、届けてくれてありがとう。」
この間、プリントを届けてほしいと頼んできた男の子が、机の前に来てそういった。
「ううん、ごめんね。」
と僕が言うと、その子は少し不思議そうにしながらあまねのところに行ってしまった。
いつもより、笑顔だったからかもしれない。
あまねの家に行ってから、なんだか自分がおかしい気がする。
どんどん自分が変わって、僕が、僕じゃなくなってしまうような、そんな感じ。
「***。今日、うちに来てくれないかな?」
休み時間、あまねにそう声をかけられた。
「なんで?」
「昨日話して思ったんだよね。また、***といっしょにたくさん過ごしたいって。 あと、、、まぁ、色々あるんだよ。」
あまねはちょっと困った感じでそういうと、まるで断られたくないとでもいうように、足早に僕のもとを去っていった。
結局、昨日より明るい空の下、僕はあまねの家に向かっている。あまねとともに。
「実はさ、***に宛てた手紙が出てきたんだよ。」
「僕宛てに?誰から?」
「オレから。」
あまねがぽつ、ぽつと話し始めたのは、昔の思い出話だった。
「小学生の頃、一緒に手紙を書いたの、覚えてる? あのとき、オレ、***にも書いてたみたいなんだ。 ちょっと、読んでみてほしくてさ。」
そういって、あまねの部屋に案内される。そこには、うすい水色の封筒があった。
「読んでみてよ。」
あまねがそういう。
「わかった。」
僕はそういって読み始めた。
『あおへ
未来のあおは、ぼくと仲良くしてますか?
仲良くなかったら怒っちゃうよ。
あおは、自由なままで良いんだよ。
ぼくみたいに、変化なんかにとらわれないでね
元気でやさしいあおが大好きだよ
あまねより』
ひどく幼い文字で、「あお」に宛てた文章が綴られた手紙。
それは、ちゃんとあまねから届いたものだった。
「たぶん、過去の***からの手紙、***の部屋にあると思うんだ。」
あまねが言う。
少し笑う。
「それ、持ち帰っていいよ。 やっぱり、手紙を読んだら***と一緒じゃなきゃだめだなって、俺思ったんだよ。***も読んで。また一緒にトランプしたりしようよ。」
やっぱり、あまねは変わってしまった、と思う。
あんなに、変わるのが怖いって、そう言ったのに。
自分は変わりたくないのに、あまねは変わろうとする。変えようとする。
一回、変わってしまったのだから、もう変わらない。変化したくない。
「ごめん、。」
そう言って、僕はあまねの家を飛び出した。
水色の封筒は、ぐしゃぐしゃになって、あまねの叫び声が聞こえても、お構い無しで。
やっと、家に帰り着いたとき、あの日みたいに、僕の部屋に夕日が差し込んでいた。
「あおのだいじなもの」の箱は、まだ引き出しの奥に眠っていた。
水色の封筒は、たしかにあった。
そこに綴られた未来のあおへの言葉は、あまねを想う言葉ばかりだった。
なんで、こんなにあまねが好きだったのに、ふたり、離れてしまったんだろう。
変化なんて、怖がってる場合じゃなかったのかもしれない。
あまねがただ大切って、それだけで良かったはずなのに。
手紙を読み終わったとき、家のチャイムがなった。
「あおいーっ!」
僕を呼ぶ、あまねの声。
「あまね?」
ドアを開けたら、息を切らしたあまねがいた。
「飛び出していっちゃうから、、、手紙、読んだの?あおい、泣いたの?大丈夫?」
あまねの心配する声が、昔と一緒で、また泣きそうになる。
「あのね、空生。聞いてほしい。俺のこと。」
「、、、ごめん。」
「ねえ、なんで謝るの? 空生。聞いて。
俺はね、中学生になってから、普通を求めてたんだ。小学生の頃、変化が怖いって話したの、覚えてる? あのとき怖いって感じてた変化は、そのうち普通じゃなくなることが怖いって想いになった気がするんだ。“自分”じゃなく、“普通”で、いつも通りの毎日が欲しかったんだ。自分が、普通じゃなくなったときの周りの変化が怖かったんだよ。 それで、空生が悪いわけじゃないけど、だんだん離れちゃったんだよね。友達に付き合いが悪いって言われたくないし、空生もだんだん冷たくなっちゃうし。 だから空生も、変化が怖くなっちゃったんじゃないかなって思って、、、。」
僕だけじゃなかった。
あまねを避けていたのは、もしかしたら僕かもしれない。
「ごめん、あまね、僕、、。」
「謝らなくていいよ、空生。最近になって気づいたんだ。というか、自分の書いた手紙に気付かされたんだ。 結局、普通とか、変化に縛られちゃいけないって。軽く生きるくらいがちょうどいいんだって。辛いことがあっても、まあいっかってまた前を向けるように。 あおい。もう一人じゃないよ。 ごめんね、俺が俺しか見えてなくて。これからは、また一緒にいよう。二人で、ちょっとずつ進もう。 ずっと、そうしてきたみたいにさ。」
あまねが、ふわっと笑う。
優しい笑顔は、いつものあまねだった。
「縛られなくて、いいんだね。 あまねはあまねのまま。僕は僕のまま。」
僕が言えば、あまねは笑う。
「じゃあ、いつもみたいにトランプしよ!」
同じ空の下。
ずっとつながった空の下。
一人になったと思っても、同じ、空の下に生きている。




