3章@aoi
「ありがとう」
その言葉が、どれだけ大事なのか、僕はもう知っている。
ただ一言、言えるのと言えないのとで、“変わって”しまうんだ。良くも、悪くも。
「空生。これ落としたよ。」
「あ、東雲くん!ありがとう! 今、消しゴム探してたんだよね。」
「もう、空生ってちょっと抜けてるところあるよね。」
東雲くんがおかしそうに笑った。
「空生くんってマイペースで、ふわふわで、抜けてるところはあるくせに、真面目だよなぁ。」
時雨くんもそういって笑う。
「そうかな?勉強できないし、真面目って感じじゃないけど。」
僕がそういうと、東雲くんと時雨くんは目を合わせた。
「空生の真面目っていうのは、勉強面とかじゃなくてさ、その、、、さっきも言ってたありがとうとか、ちゃんと言えるところなんだよね。」
「そうそう、空生くんはさ。感謝、挨拶、ちゃんとできるんだよな。なんでも、謝ったらそれでいいもんじゃないだろ? ほら、なんでもごめんなさいっていう人いるじゃん。さっきみたいな場面でも、消しゴム落としてごめんなさい、みたいな?」
「あとは、こんにちはって言っても挨拶返してくれない人とか!、、、そーゆーのがちゃんとできるんだよねぇ、空生は。」
二人して褒めてくれるので、戸惑ってしまった。
なにせ、そんなことで褒めてくれる人なんかいなかったから。
あの日から、変わろうと意識していたことに気づいてくれた人なんて、今まで誰一人もいなかったから。
きっと、あたりまえのこと。でも、それができてないのとできているのではだいぶ違うのだ。
僕は、あの日。
それで間違えてしまったのだから。




