2章@Sorano***
雨の日は好き。
あの、優しく包んでくれるような匂いも、ぬるっとした空気だって、辛いときは暖かく優しく感じられる。
雨粒が、涙をかくしてくれるところも。
「あのさ、空野。」
みんなが憂鬱そうにしていた雨の日。僕は一人の男の子に声をかけられた。
「なに、どうしたの。」
返答する声が少し冷たいのは、いつも僕の元友達と仲良くしている子だったから。
「空野って、雨音と仲良かったんだろ? 今日あいつ風邪で休んでるからさ、プリント、あいつの家に届けてくんねぇ?」
男の子がそう言った瞬間、僕はその子が持っていたプリントをその子から取り上げるようにして取った。
「ありがとう。届けておくね。」
しぃんとなる教室。僕は乾いた笑いを浮かべる。渡してくれた子は、唖然としてた。
むんむんとしながら、懐かしい道を歩く。
6年も、同じ道を歩いた。彼と。
でも今日は一人。
ある家の前につく。懐かしい家。もう、何度も遊びに来たことがある。小学校のときの思い出は、全てこの家にあるといっても過言ではない。
玄関チャイムがなる。
「はぁい」と、かすれた彼の声がする。
「あまね。」
思わず声を出してしまったとき、目の前のドアが開いた。
「あれ、***。どうしたの?」
あぁ、「 」という呼び方も、離れてしまったと思う。
昔は優しく呼んでくれたのに。もっと優しい呼び名で優しく。
「プリント。あまね、今日学校休んだでしょ。」
僕がぶっきらぼうにいうと、あまねはぱぁっと笑顔になった。
「ありがとう、***。誰も届けてくれないと思ったからさ。ほら、誰も俺のうち知らないし。***だけは知ってるから、ほんと良かった。」
笑顔でそういうあまねに、忌避感をおぼえる。昔は「俺」なんて言わなかった。今のあまねは僕じゃなくて、届けてもらったプリントに対して笑うんだ。あまねはもっと優しかったのに、なんでこんなふうになっちゃったんだろう。
あまねも、変わっちゃった。
あまねには、変わらないでほしかった。いつまでも、僕の隣に居て、優しく「大丈夫」って言ってくれたらそれでよかった。
「じゃあ、またね。***。」
最後の優しい笑みは、僕に向けられていた。
久しぶりに感じたあまねの笑みに、少し暖かくなる。
「ばいばい。あまね。」
僕は冷たくそう言って、あまねの家を去った。
僕はあまねへの態度を変えてしまった。「またね」の約束はできなかった。今日、僕はあまねに忌避感を抱いてしまった。
もう、その先が怖くて見れない。
未来が不安でしょうがない。
こんな僕に、どんな未来が待ってるんだろう。
未来でも、僕は孤独のままなんだろうか。
未来の僕は、笑えてますか。
不安でいっぱいの胸を抑えようと一歩歩き出して上を向く。
空の、まるで僕の心の内を移したようなどんよりと重く、暗い雲が、また来るであろう大雨を予感させていた。