第5話 孤独
5日目を過ぎたあたりから、トウリは日数を数えるのを諦めた。
木々の間を縫って、斜面を登る。方角を確かめて、ズレを修正する。
食べられそうな木の実を手に取って、川で水を汲む。
鳥を見つけては撃ち落とし、無心で調理して食らう。
口にできるものを見つけられない日でも、足を動かす。木の枝を避けて、木の根を跨ぎ、斜面を下る。
そしてまた獲物を見つけては、撃ち殺す。
どれだけ歩いても木々の間で、どこまで行っても森の中。果たして本当に進んでいるのだろうか、その判断が容易にできないほど、全て同じようにしか見えなくなっていた。
後どれくらいでたどり着くのだろうか。向かっている先に本当にエルトワはあるのだろうか。
元よりそれらの答えは持ち合わせていないし、知る術もない。いつしか、そんな疑問を思い浮かべもしなくなった。
不安を不安だと認識できなくなるほどすり減った精神のまま、トウリは代わり映えのしない風景を、辿り着くかも分からない場所を目指して、たった独りで、歩く。
夜になると、周りが見えなくなる上に、温度が急激に下がる。
日が完全に傾く前に足を止めて火をおこす。途中で消えないように薪と術式の準備をする。
そして、結局まともに眠れずに、ただ呆然と揺れる炎を眺める。
脳裏で繰り返されるのは、自らの手で命を奪った2人の男。
ドクドクと流れ出た、赤い血。
体を射貫かれたような、男の鋭い殺意。
そして手にこびりついた、脈動する肉を断つ感覚。
狩猟する時と、同じ行動をした。術銃を撃ち、血抜きで喉を切る。
だが、食べるために動物を手にかけるのと、憎悪で人を手にかけるのでは、全く違うことを知った。
震える手を見下ろす。あれから何日も経っているのに、ついさっきのように思い出す。人を手にかけたんだと、強く意識してしまう。
だが、もし同じ状況に陥れば、また同じように行動するだろう。
手に力を入れて、拳を握り込む。パチパチとたき火が爆ぜる。思い出すのは、村を襲った爆発。反響するのは、母との最期の会話。
ただ、村で暮らしていただけなのに。どうして。
「父さん……母さん……」
まともに寝ることなどできるはずもなく、術銃を抱えてただ呆然と朝を待った。
憎悪はまだある。哀しみは消えない。だが数日の旅路で、トウリはそれ以上の孤独を、知ってしまった。
今まで、寂しいと思ったことは何度もある。
父は狩りや力仕事で大抵家に居なかった。そして母は、術具作成に集中して家にいるようで、いつも居なかった。決して不幸ではなかったが、村の同年代のように笑える自信はなかった。
だからトウリは、自分から両親の世界へと足を踏み入れた。術具を学び、狩りを学んだ。
そうすれば、一緒に居られる。寂しさから、逃げられる。
そんな両親は、もう居ない。
どれだけ望んでも。どれだけ泣いても。もう、返ってこない。
そうしてトウリは、その毒が心を蝕む痛みで、孤独を知った。
思い切り泣いて、泣き疲れたまま寝られたのなら、どれだけ楽になれるだろうか。そう思ったところで、涙は一滴も出ない。
あの日から、トウリはずっと泣けずに居た。まるで涙が涸れたかのようで、何かが抜け落ちたかのようで。
ギュッと術銃を抱き寄せ、瞼を強く閉じる。
この術銃だけが、頼りだ。
人殺しの武器にすがるというのは皮肉なもののように思えた。それでも、トウリは自分の心が僅かに安らぐのを感じた。
母が作り、そして父から扱い方を教わった術銃。未だに足を進められているのは、全て両親が遺してくれた術銃のおかげだった。
2人の深い愛情を具現化した形見だけが、トウリの崩壊を防いでいた。




