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エピローグ 日常の喧噪

「フォルロット軍、撤退を確認」

「脱出ルートは確保してあるぜ」

「隠伏も問題なし」

「我々も撤退を開始する」

「あいよー」「了解!」


 トウリは術銃を肩にかけながら、数日は過ごしたこの潜伏地点からの景色をもう一度眺めた。

 紅葉を始めた山々の谷間で入り乱れていた戦場は、エルトワが勝利を収めた今もその激情をはらんでいた。

 倒れた兵士の赤や鈍色の装備で覆われている地面は澄んだ青空とひどく対照的に感じた。


「見事な狙撃だったぞ」


 そんなトウリの頭にイリスは手を乗せ慣れた手つきで撫でた。トウリも大人しく、むしろ少し満足そうに撫でられた。


「これからエルトワはフォルロットに攻め入るの?」

「さぁどうだろう。もしくは終戦に向けた交渉が始まるのかも知れない」

「ふうん」


 淡泊な返事が口から出たなとトウリは他人事のように思った。

 そもそも何故そんな質問をしたのか、あまり自覚もなく訊いてしまった。


 それは、まるでこの戦争を少し惜しむような声だった。


 馬鹿馬鹿しい、そんなはずはないのに。少しため息をつくようにトウリが思考を棚に上げようとした時、イリスは何かに気づきフッと笑った。


「大丈夫だよトウリ」

「?」


 イリスの手が離れていくのに合わせて、トウリは区切られた言葉の真意を探るためにイリスへと振り返る。そこには柔らかく笑うイリスの姿があった。


「戦争がどうなろうとも我々は、私たちはこのまま一緒にいるからな」


 一瞬トウリの身体が硬直する。

 イリスの言葉を理解する。

 それと同時に先ほど自分の口から発せられた質問に潜んでいた思いに気づき、そしてそれが瞬時にバレたことにも気づく。

 ボンと顔が赤くなる。


「トマトだトマト!」

「トウリ君まだまだ一緒だよ!」


 そんな一部始終を見て、シークはケラケラと笑い、エラはニヤニヤと笑みを深めていた。


「う、うるさい!」


 はじけそうなくら赤くなった顔を誤魔化すように装備を片付けていく。それでも構わず飛んでくる揶揄いをツーンと流しながら、先にとばかりに歩き出す。


「もう知らない!」

「トウリー待てよー」

「トウリ君、ごめん、クフッ」


 無視しても聞こえてくる笑い声に口を尖らせている、なんだか馬鹿らしくなって自然と口角が上がるのを感じる。


 あぁ、もうこの空気が完全に自分の日常になったんだな。

 そんなことに、トウリは今更気がついた。

 シークの悪ふざけも、エラの術探求の暴走も、そんな2人の優しくも馬鹿で面白いじゃれ合いも。気づけばトウリもいつの間にかシークとエラと一緒に笑っていた。

 シークもエラも、すごくいい仲間だ。


「トウリ」


 そして、そんな仲間に向かい入れてくれた人物。

 誰よりも信頼でき、共にいればなんだって出来るのではと思えるリーダー。

 絶望の淵にいた自分を、こんな笑いのある日常へと引っ張りあげてくれた、イリス。


 そんな彼女の声に反応してトウリは振り返る。視線が合うと、彼女はフッとその瞳を緩めた。


「帰ろう。私たちの国へ」


 それは、ひどく暖かく、優しい目だった。

本作はこれにて完結となります。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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