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第20話 射程

「トウリ君、教えてくれてありがとう。お話楽しかったわ」

「いえ、こちらこそ、若いころの父さんと母さんの話が聞けて嬉しかったです」

「そして……お父様とお母様の最期についても、教えてくれてありがとう」


 ほのほのとしたソニアの顔が神妙な表情に変わった。トウリも、一度目を閉じて、そして真っすぐとソニアの目を見た。


「いえ、僕がソニアさんに伝えたかったので。話を聞いてくれてありがとうございます」


 ソニアは安堵したかのような柔らかい笑みを浮かべた。


「良かったら、トウリ君の術銃を撃つところを見せてくれないかしら。もしかしたら私もトウリ君の手伝いになれることがあるかも知れない」

「!」


 トウリはパッとイリスの方を見た。両親が教わった先生、トウリにとっては師匠の師匠から教わる機会。可能であれば、逃したくはない。


「よろしいのですか? お時間などは」

「これ以上に優先すべきことはありませんね」


 そう言い切るソニア教授に苦笑いを浮かべながら、イリスは頭を下げた。


「それでは、私の方からもお願い致します。どうかトウリの力になって頂けませんか」

「ええ、もちろんです」


 トウリは顔を明るくしながらソニアに礼を伝える。そしてイリスは「さて」と言いながらおもむろに立ち上がり、扉の方へと向かった。


「あらあら」

「?」

「トウリ君はこの練習をした方がいいかもね」


 ソニアは何かを察した様子だったが、トウリは何のことか分からなかった。そうこうしているとイリスは扉の前へと歩き、「フン!」と思いっきり押し開いた。


「イダッ!」「アタッ!」


 そして力強く開けられた扉に何かがぶつかる音ともに、2つの悲鳴が聞こえてきた。


「お前らは本当に盗み聞きが好きだな」

「イテェー」

「いやぁ……職業病かな?」


 扉の向こうから頭を押さえているシークと苦笑いを浮かべるエラが現れた。ため息を吐くイリスも相まって、トウリは強烈な既視感に襲われた。




「うん、全部命中しているね」

「すげぇ!」

「弓矢でも難しい的を正確にあてるとか何」


 王都郊外の開けた術試験場で、トウリはソニアに術銃と彼自身の実力を見てもらっていた。

 その2人の後ろで、絶賛野次馬と化したシークとエラと、何かを深く考えこむイリスがいた。


「うん、まだ術力の制御で上達できる部分はあるものの、充分に貫通力調整ができている。術銃制御も基本的な部分は問題ないようだね」

「はい」

「改良の余地はいくらでもあるけど、トウリ君の実力は狩人としては文句なし。良くご両親の教えを守っているね」


 トウリは照れ臭そうにはにかみながら、ソニアはフフと穏やかに笑う。


「ラっちもあの的当てれる?」

「火事を起こしてもいいなら」

「それ的当てじゃないじゃん」

「だって攻撃術式は専門外だし」


 ヒソヒソでもない音量でシークとエラが内緒話をするなかで、イリスは手を口に当てながらソニアから術を教わるトウリを見ていた。


「さてトウリ君、最後に超長距離の狙撃を見せてほしい。今撃った的のさらに奥の的を見えるかい? 約1500メルド先の」

「あの木についている赤く塗られた丸ですか?」

「そうそれだよ。どうかな、いけそうかい?」

「うーんどうでしょう、やってみますが難しいです」

「それでは私が観測手を務めれば、どうかしら」

「出来るんですか!」

「出来るとも、何せ貴方のお母様と一緒に観測手という役割を作ったのだから」


 再び驚きの事実に目を丸くしながら、トウリは嬉しそうに「お願いします!」と応える。


「なぁラっち、観測手ってなに」

「え、知らない」

「術バカなのに?」

「今それ関係あるかな」


 後ろでシークとエラがじゃれ合う中で、ソニアはカバンから箱のような術具と折りたたまれた三脚を取り出した。


「先生、その術具は?」

「これは観測術具ですよ。といっても、トウリ君の持っているものとは少し違います。覗いてみますか?」

「是非!」


 ソニアが手の大きさほどある観測術具を広げた三脚に固定して術力を流し起動する。

 的が見えるよう調整すると道を開けるように横にずれ、今度はエラがその観測術具を覗き込んだ。


「すごい! なんですかこれ、いろんな表示が」

「対象までの距離や風、後は推定貫通力など。全ては狙撃術士を手伝うための数値ですよ。フフフ、ハンナさんはこう言った数値を全部頭で計算していたのですが、私はめんどくさがりなので。全部術具に任せられるように改良しました」


 なんてことないように、とんでもないことばかりを言う。トウリもエラも若干顔が引きつってしまった。


「それではトウリ君、早速やってみましょうか。3人も、恐らく見てもらった方が観測手の役割を理解して頂けると思いますので」


 ソニアの言葉を合図に、トウリが地面で腹ばいになり、ソニアから借りた小さな三脚で術銃を固定しながら狙いを定める。ソニアはそのトウリの後ろに立てた観測術具を覗き込んだ。


「赤い的、見えるね」

「はい」

「それじゃあ、焦点調整と点測をお願いね」

「はい」


 突然飛び出した用語にハテナを浮かべるイリスたちをよそに、トウリはその言葉に懐かしさを感じながら焦点を的に合わせて、照準器の目盛りで的の大きさを測る。


「0.78」

「そうね、じゃあ貫通1の上方9.4にしましょうか」


 随分と穏やかな指示に、トウリは術銃の狙いを数値通りに上へと修正し、撃つための術力操作と準備を行う。久しぶりの超長距離だけど、大丈夫。ゆっくりとした深呼吸で、体の力を抜く。


「狙撃用意」

「右に0.6」


 すぐに飛んできた数値に従い右に照準をずらし、狙撃術式を放つ。ブレる照準器の視界で、弾の軌道がほとんど見えない。当たっただろうか。すぐにそんなトウリの疑問が解消された。


「上方9.4」


 どうやら外れたようだ。でも焦らない。再び術力操作を行う。貫通1とはいえ、もう少し丁寧に弾を生成する。


「狙撃用意」

「右に0.8」


 狙撃術式を放つ。


「命中、お疲れ様トウリ君」


 術銃から顔を上げ、トウリはフゥーと大きく安堵の息を吐く。どうやらうまくいったようだ。立ち上がるとにこやかな笑顔のソニアに迎えられた。

 そんな2人の後ろで、シークは目を凝らすように的を見ており、エラはぽかんと口をあけ、そしてイリスは眉間の皺をさらに深くさせていた。


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