第1話 閃光
放たれた弾が真っ直ぐ木々の間を飛ぶ。反動で上にずれた照準を戻す頃には、鳥が木の枝から落ちていた。
「よし」
術銃の紐を肩にかけて、トウリは撃ち落とした鳥の回収に向かう。これで目標の3羽目。
木の根の張った地面を軽い足取りで進み、横たわる鳥を見つける。
大ぶりな体から特に血は流れておらず、どこに弾が当たったのかが一目で分からない。
狙い通り頭であって欲しいところではあるが、トウリは探すのを後回しにした。
どうしようかな、処理をここでやっても良いけど、いつもの場所でいいか。
まだ暖かい鳥の体を掴んで足に紐をくくりつけ、ぶらぶらとさせながら山を下り始める。
帰路の途中にある、獣道横が急斜面で少し視界の開けた場所で足を止める。
村を一望できるこの場所を、トウリは好きでよく訪れている。
鳥にくくりつけた紐を持ち上げ、木の枝へと繋げる。下を向くクチバシを左手で持ち、右手に腰の短剣を鞘から外し鳥の喉を切る。
ポタポタと垂れ始める血を確認してから、切り株へと腰掛ける。肩にかけた荷物を地面へと下ろしてから術銃を膝の上へと乗せて、少し汚れた側面を軽く拭く。
昨日の母さんの調整で、術銃がさらに馴染むようになった。
3羽とも綺麗に撃ち落とせた。2羽目とか、かなり距離があったのにちゃんと当たってくれた。
術式にも楽に繋げられたし、思い通りに動く。
これならもっと遠くのもの、もっと硬いものも撃ち抜けるかもしれない。後で母さんに報告しよう。
母に作ってもらい、父に使い方を教わった術銃はトウリにとっての欠かせない相棒だ。
小さな笑みを浮かべながら、トウリは拭き終わった長細い術銃を指先でなぞる。
肩に当てる厚い銃床から、術力を溜めた術力倉、幾重にも重ねられた術式を集約するように細く尖った先端へ。
どれをとっても高度な技術がつぎ込まれており、これを作り上げた母はやはり凄いなとトウリは改めて噛みしめた。まだまだ学ぶことが多い。
母に教えてもらおうと幾つかの質問を思い浮かべながら、トウリは術銃を再び肩にかけ、村の方へと視線を向ける。
これからお昼の用意でもするのだろうか、いくつかの家から煙が立ち上っている。
後できっと再開される井戸端会議の一時的な解散や、何かの競争をするかのようにいそいそと畑仕事に勤しむ親子などもいる。
ふと自分の家の前に2つの影を見つけ、トウリはもしやと思い腰から観測術具を取り出し覗き込む。
やっぱり父さんと母さんだ。父さん、もう狩りを終えたんだね。
待って何あのでかいの、すごいのを抱えてるけど。
あれは、雷鹿、かな。
えぇ、今日は雷鹿を狩るって知ってたらついてったのに。母さんも大はしゃぎしてる。
さっさと帰ろう。帰って解体見せてもらおう。トウリがほんのりとした悔しさと誇らしさを胸に立ち上がった、その時だった。
山向こうから、僅かな光が漏れた気がした。
気のせいとも思えるほど微か、しかし意識を引くには充分な違和感。仕舞ったばかりの観測術具にトウリは再び手を伸ばした。
だが、彼がその発生源を見ることはなかった。
瞬間、大きな閃光が村を包む。
光が、炎へと変貌する。
鼓膜を揺らす音圧。
山をも揺らす爆風を全身で受け、トウリは後ろへと吹き飛んだ。
今のは、なんだ。何が起きた。
トウリの知る「爆ぜる」という現象は、火起こした時に時折起きるパチンという小さくかわいいもの。そのためこの突然の爆発を、すぐ認識できるはずもなかった。
ただ一つ、彼に理解できるものがあった。地面へと打ち付けた体を必死に起こして、震える手で木を掴んで体を支える。
あんなもの、人間が耐えられるものではない。
村は、破壊されていた。
家は吹き飛び、燃えている。
辛うじてまだ建っている家も、いずれ燃えたぎる炎に飲み込まれるだろう。
村人もあっちこっちで倒れている。頭から血を流し道の真ん中で倒れている者、燃える畑の中を微動だにしない者、家の瓦礫に押しつぶされた者。
トウリは震える手で落としてしまった観測術具を手に取る。
確認したくない。見てしまったら、その事実を知ってしまうから。知りたくない。だけど、確認しなきゃ。3度目でようやく術式に繋ぐことができ、恐る恐る覗き込む。
トウリの家の前で、倒れている人の姿が、2つ。
とてもよく知っている、2人の姿。
父が母に覆い被さるように倒れているのを見て、トウリは気がつけば村へと急斜面を下っていた。




