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第15話 同行

「兵士を撃ったのは、ここで間違いないんだな?」

「うん、この茂みから撃って、こことあそこに倒れてる、はずだったんだけど……」


 トウリが意を決し、イリスたちに射殺した2人の兵士のことを話したのが数分前。この先の川辺に兵士の死体があるはずだと。

 だがいざその川へ着くと、そこに死体はなかった。


「お、これ血痕じゃない?」

「でもあまりにも量が少ない。雨でも降ったかな」

「その可能性もあるが、ふむ」


 3人の報告を聞いて、イリスは考えるように眉間の皺を寄せる。


「トウリの説明からして、2人が実は生き残り、この場を自ら去ったとは考えにくい」


 イリスの推測に、トウリは頷いて同意した。最初に撃った兵士はともかく、2人目に関してはこの手で確実に殺した。


「となると、死体が持ち去られたことになるが」

「動物なら跡がもっと汚いぞ」

「だろうな。となると、人か……エラ」

「隠伏だね」

「頼む」


 エラが鞄から四角い術具を取り出し、側面を回転させて術式を起動する。

 薄いベールが4人を包むのを見て、トウリはシークが言った「不思議なのをブワワ」を理解した。


「トウリはこれを見るのは初めてだったな」

「これは、エラの?」

「そう!」


 エラは目から光が漏れているのではと思うぐらいキラキラとさせていた。


「これは私の術式。今かけたのは姿が外から見えづらくするもので、薄らと見えるのが効果範囲。この術具は私のオリジナルでね、術式をより包括的にするためにここをアデッ」


 術の説明を捲し立て始めたエラを、シークが後ろから小突いた。

 一瞬シークの方を睨むも、自分がまた暴走し始めたことを自覚して彼女は少し照れくさそうに話を切り上げた。


「とりあえずこの中に入っていれば隠れやすくなるよと思ってくれればいいよ!」


 自慢げに胸を張るエラに、トウリは素直に感心していた。母の工房で様々な術具を見てきたが、日常使用からかけ離れた特殊な術具は見たことがなかった。


「匂いまで消せないけどねー」

「匂いで分かるあんたがおかしいの!」


 再び始まろうとした言い合いを、イリスは制した。


「ここから先は敵が近くにいると仮定して動く。ここにあったはずの死体は、恐らく動物ではなく何者かによって持ち去られたものだ。その正体は不明だが、フォルロットの人間とみた方がいいだろう。ということはつまり、我々は既に彼らの捜索範囲内にいることになる。さらに言えば、彼らは仲間が殺されたことを知っていることになる」


 ゾッとした寒気がトウリの体を走る。ようやく死体がなくなっていることの重大さを理解した。

 トウリが2人を殺したことにより、2人の捜索が行われ、そして殺されたという情報が敵に渡った。恐らく敵は復讐もしくは口封じ目的に、トウリのことを血眼になって探している。

 この先見つかれば、今度こそ確実に殺される。

 だが、トウリの腹は既に決まっていた。


「トウリ、ここから先は今までと比べものにならないくらいの危険地帯だ。君には後方で待って」「一緒に行く」


 イリスの言葉を遮るように、トウリが口を開く。


「連れてって。邪魔にならないようにするから」

「だがなぁトウリ」

「村の周りの森は、誰よりも知ってる。きっと役に立つから」


 言い聞かせるように口を開いたイリスを、再び遮る。

 イリスは、一度目を伏せる。沈黙が続く。そして、彼女の目が一気に見開かれた。

 そこにあったのは、トウリが砦で一瞬だけ見た、強者の目。


「私は戻れと言っている。この先、君を守り切れる保証はない。だから、より安全な後方で、

我々を待っていろ」


 ゆっくりと決定事項を述べるように語るイリスに、トウリは全身の毛が立つのを感じた。

 絶対に勝てない、強者。本能的にトウリはそう理解した。

 脳が警報をあげている。手に力が入る。心臓がバクバクと血を巡らせる。足が逃げるよう訴えてくる。


 だが、それでも。トウリはここで引くわけには行かなかった。


 村の生き残りとしてとか、両親のためだとか、そんな理由ではない。

 そんな綺麗な理屈は、彼女の前では砕かれるのが明白だった。


 トウリをその場に縫い止めていたのは、もっと身勝手な理由。

 一体誰のせいで、誰が両親を殺したのかを、知りたい。

 それは復讐心によるものなのか、それとも心で折り合いをつけるためなのか、分からなかった。


 ただ、確信めいたことが、1つだけあった。

 ここで逃げたら、一生両親の死の真相を知ることはない。


 そんなのは、絶対に、嫌だ。


「村に何があったのか。一体誰が、父さんと母さんを殺したのか。ちゃんと知りたい。危険なのは分かっている。見つかれば殺されるのも分かっている。それでも、知りたい」

「……」


 手に汗が流れるのを感じる。心臓の音がうるさい。

 だが、前とは、確実に違う。自分の口角が少し上がっていることに気づく。


 大丈夫。

 イリスの瞳を、ちゃんと見れている。

 トウリは、自然と形成されていく笑みを深めながら、口を開く。


「それに、ここまで連れてきたのは、イリスじゃん。最後までちゃんと、責任取ってよ」


 思わぬ反撃の言葉に、イリスは思わず威圧を忘れパチリと目を瞬かせる。そして続く沈黙を破るように、シークは我慢しきれず笑い声をあげた。


「イリスの負けー。いいぞトウリ、そういうの大好き!」

「イリちゃん、連れてってあげようよ。実際地理を知っている人がいると進みやすいし」

シークが楽しそうにトウリの肩に手を回し、エラがトウリの擁護をする姿に、イリスは大きくため息をついた。

「分かった分かった。これじゃ私が悪者だ。すまないトウリ、威圧しちゃって」


 そしてイリスは目線を合わせるようにしゃがみ、申し訳なさそうにいつもより少し躊躇いながらトウリの頭を撫でる。トウリはそんな彼女を許すように、自分の頭を彼女の手に押しつけた。

 少し驚きを見せながらも、自然とイリスにも笑顔が戻った。


「それじゃ、引き続き案内を頼む」

「任せて」

「よし、これよりクルズ村へと接近する。我々の目的はクルズ村の調査を行い、本国へとその情報を持ち帰ること。最優先事項は気づかれないこと、そのためやむを得ない場合を除き敵への攻撃を禁ずる。相手の動きを乱すことなく、我々の存在を一切掴ませず、情報だけをかすめ取る。いいな」


「「了解」」


 獰猛に深められる笑みと、自信に満ちた頼もしい視線。

 今までの道中、何度か警戒する場面があったものの、基本的には呆れるほど和やかな雰囲気が続いていた。

 だがここに来て、空気がガラッと変わった。トウリはこの3人が軍の部隊であることを、強く再確認した。


「トウリ、この先で村を一望出来る場所はあるか」

「いつも使ってた場所がある。そこなら村全体がよく見える」

「よし、それではそこを目指そう。案内を頼んだ」

「分かった」


 そして 4 人は森の中を歩いた。時折シークやイリスが何かに気づき迂回するように方向を変える。だが、幾度進路を変えようと、トウリの良く知るクルズ村の森。

 道に迷うことはなかった。

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