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第13話 部隊

「何かくる」


 先頭を歩くシークがそう言って足を止めると、和やかな雰囲気が一気に引き締まる。と言っても、トウリ自身は先ほどからずっと緊張しっぱなしだったが。


 現在、一行はエルトワ王国からフォルロット王国へと潜入する最中。しかも通っているルートというのは、トウリがエルトワへ入るときに通ったハルプス回廊沿いではなく、大きな動物の跡を見つけ避けた山を通る迂回ルート。

 生い茂る木々の間を慣れたように通るイリスたちと違い、トウリは心臓が飛び出そうなぐらい緊張しながら歩調を合わせていた。


 トウリは当然このルートを通ると知ったときに危険性を訴えた。だが彼らは気にせず「まぁ大丈夫だから」と言い、今に至る。一体何がどう大丈夫なのか分からないまま、トウリは再び生存の危機に直面していた。


「10時方向かな」


 シークが慣れたように報告をすると、イリスがその方角を探るように視線を送る。そして何かを見つけたかと思えば、ふっと口元を緩め一気に警戒を解いた。


「風猪だ」

「お、ラッキー」


 そんな2人の様子とは裏腹に、トウリは未だ心臓をバクバクとさせていた。


 風猪って聞こえたけど。風猪と言えば、角に術式で風を纏って木をもなぎ倒せる力のある動物。こちらに気づいてないならまだしも、さっき向かってきているって言ってなかったか。それに対してなんか「ラッキー」とかって言ったのか。一体何がラッキーなんだ。


 トウリは大混乱で頭を抱えていた。そんな様子のトウリを見て、後ろに居たエラは苦笑いしながら同意した。


「分かる、分かるよ、私も最初そうだった」

「え、だって、風猪って」

「大丈夫。良く見てて」


 そう宥めるように優しく語りかけたエラの言葉に恐る恐る従い、楽しげに話すシークとイリスの様子を伺う。


「2人とも支援いらないよね?」

「いらん!」

「あぁ、トウリと一緒に居てあげてくれ」


 そう意気揚々と2人が答えると、木の陰から風猪が現れた。こちらに気づくとブッと鼻を鳴らし、地面を抉りながら走ってくる。そんな恐怖の対象でしかない存在の進路に、2人が立ち塞がった。


「まずは止まってもらおうか」


 先に動いたのはイリス。彼女は少し短い薄い剣を鞘から抜き、風猪を向かい打つように走る。


「危ない!」


 風猪の突進がイリスに当たろうかという瞬間、彼女は身を微かに翻し、その突進を避ける。

 そのすれ違いざまに、彼女はその剣で足の関節を綺麗に断ち切った。突然動かなくなった足に、風猪は勢いのまま斜面を滑る。

 それでも術を解かないのはさすが風猪というべきだろうか、角に纏った風のせいで地面を抉りながら転がっている。突進に比べれば勢いはないものの、むしろより無差別に周りを巻き込む術式はたちが悪く、とても近づけそうにない。


「来た来た!」


 そんなことをお構いなしに、シークが近づく。

 左手には見慣れない長細い布。その布を投げて器用に角に巻き付ける。

 そして今度はそれを引っ張り上げると転がる風猪の勢いが完全に止まる。


「はい、一丁あがり!」


 そして右手にはその黒い布が巻き付けられた小さな斧を振り上げ、風猪の首元へ振り下ろす。ビクッと大きく痙攣し、次第に風猪の動きが止まる。

 その様子を見てシークはニッと満足そうに笑みを零し、角に巻き付けた布をそのままにズルズルと絶命した獲物を引きずり合流した。


「ね、大丈夫だったでしょ」


 口をポカンと開けたトウリに、エラは笑いながら言う。


「ラっち火起こしてー」

「火なんかつけたらさすがにバレるわ!」

「えぇー」


 言い合いの始まった2人をよそに、トウリはまじまじと風猪を見た。

 足の関節は切り裂かれており、逆にそこ以外の胴体には一切剣による傷はなかった。

 一体どうやって走っている風猪をここまで的確に狙えたのか。

 角には風猪の術にも耐える強靱な黒い布が巻き付いており、首元に深い傷が入っている。傷を見ても、1撃で綺麗に神経を断ったのだろうと推測できる。

 どちらも、人間業とは思えない所業。しかし、実際に目の前で起きた事実を否定することも出来ず、ただただ驚きのままにシークの肩に担がれた風猪を見る。


「どうだ、私の部隊は強いだろう」


 いつの間にか合流したイリスがそう自信満々に言う。コクリとうなずけば、イリスは満足そうにトウリの頭を撫でた。


 この危険地帯に似つかない和やかな部隊の雰囲気の理由を、トウリは少しだけ理解できた気がした。

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