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第12話 合流

「さて」


 我に返ったトウリが顔を真っ赤にしてイリスから離れると、イリスはため息交じりに口を開いた。


「もうそれ隠れる気もないだろ。ほら、さっさと出てこい」


 何のことかさっぱりと理解できないまま大きなハテナを浮かべていると、突然大部屋の扉が音もなく開くのが見えた。

 トウリの肩が思わずビクッと跳ね上がる。そして扉を戦々恐々とみていると、軽薄そうに笑う男性と申し訳なさそうな表情の女性が入ってきた。


「ほーら、ラっちがちゃんと気配消さないからばれちゃったじゃーん」

「ごめんね、イリちゃん」

「まぁそんな気にすんなってラっち!」

「お前には言ってない!」


 ギャーギャーと騒ぐ2人に、トウリはポカンと口を開けるしかなかった。


「まぁ良い。トウリ、紹介しよう。この2人が私の部隊メンバー、シークとエラだ」

「よう、よろしくな!」


 親しげに腕をあげたのは、シークと紹介された男性。

 彼は見たことのない独特な黒い羽織を纏っており、その薄着からは細身ながら鍛え抜かれた肉体と入れ墨の入った褐色の肌が覗いていた。

 まるで別世界の人に出会ったかのようで、トウリは思わず彼の姿をじっと見てしまった。

 そんなトウリの視線に気づいてか、シークは行儀悪くしゃがんでイタズラっぽそうにニッと笑顔を浮かべた。慌てて視線を外すと、微かにケラケラとした笑い声が聞こえた気がした。


「よ、よろしくね」


 そう言ってお辞儀をしたのはエラと紹介された小柄な女性。

 彼女はトウリとそう変わらないその身長がすっぽりと入る深い紺色の薄手のコートを着ており、その上には大きな鞄を肩からぶら下げていた。

 肩まである茶色の髪の毛を揺らしながら顔を上げると、少し人見知りそうな表情でずれた眼鏡の位置を直していた。


「ラっち緊張しすぎー」

「シークうるさい」


 ただ彼女の見た目に反して気弱な印象を受けないのは、シークとの言い合いが要因なのだろうか。

 トウリがそんな対照的な2人の掛け合いを不思議そうに眺めていると、イリスはクスリと笑った。


「なかなか面白いメンバーだろ。どうせこれからの長い行程を一緒に行くんだ、少しずつで構わないから2人と仲良くして欲しい。ほら、お前らもトウリを困惑させるんじゃない」


「ヘーイ」

「ご、ごめんね」

「あ、いや、大丈夫、です。あ、あの、よろしく、お願いします」


 そう言ってトウリはオドオドとした様子で頭を下げた。


「おう、仲良くしようぜー」

「こちらこそ!」

「よし、それじゃあ早速で悪いがすぐに準備を始めてくれ、今日中にフォルロット入りをしたい。作戦目標はトウリの村の調査。準備でき次第いつもの場所に集合」

「あいよ」「分かった」


 そう軽く返事をすると、シークとエラは部屋を出た。


「きょ、今日からもう行くの?」


 急展開についていけず、トウリは恐る恐る部屋に残ったイリスに問いかける。


「あぁそうか、詳しい内容を話してなかったか、すまない。まだ心の準備に時間は必要か?」

「いや、それは、大丈夫」


 イリスはそう答えるトウリの目を覗き込むように視線を合わせた。先ほどのこともあって、まだちょっと照れくさい。トウリは少し顔を赤らませながらも、大丈夫だという意思表示に視線を頑張って逸らさなかった。

 そんな様子のトウリに、イリスは満足そうに頷いた。


「本当に大丈夫そうだな、ありがとう。事情が事情なだけに、隠蔽工作をされる可能性があるからな、出来るだけ早く調査を行いたい」


 そう言ってイリスはトウリの柔らかい髪の毛を撫でた。顔の火照りが再び熱を持つのを感じる。


「僕は、準備とか、どうすればいい?」

「それは特に気にしなくていい。あぁ、君から預かった、というか押収したに近いか。君の装備は全て返そう。少し待っていてくれ、すぐに持ってくる」


 イリスは少し名残惜しそうにポンポンと優しくトウリの頭を触ってから部屋を出る。そしてそう時間も経たないうちに、彼女はトウリの装備一式を抱えて戻ってきた。その中に、しっかりと術銃の動力源である術力倉があった。


 本当に返してくれた……。唖然としたトウリの様子に、イリスはフッと笑った。


「言っただろ、君の武器の実演を見てみたいって」

「そうだけど……」

「フフ、楽しみにしているよ。それじゃあ、私は自分の準備をしてからまたここに戻ってくる。それまでは渡したものに不備がないか確認してくれ」


 そう言ってイリスは再び部屋を出た。

 言われた通りに装備の確認をする。綺麗に洗われた自分の服装に着替え、腰にベルトを巻く。ベルトにはしっかり観測術具と短剣が収められており、どちらも問題はなさそうだ。


 そしてトウリは、緊張した面持ちで術力倉へと手を伸ばした。

 異変はない。術銃にはめ込む。特に違和感はない。


 恐る恐る、術銃に術力を流し込む。


 数日ぶりの感覚が、体中を巡る。しっかりと、術銃が起動した。


「……おかえり」


 久しぶりに1つとなった相棒を、トウリはその術式をなぞるようにして指を滑らせた。


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