2話
「……うわ、マジで転生したっぽいな、これ」
気が付くと柔らかな草の上に寝転んでいた。空は青く、鳥の声がする。見渡す限り、森と丘が広がっている。
右手に何かの札が握られていた。カードのような、板のような、そこには『スキルカード』と書かれていた。
スキルカード:タクト
【筋力】C
【敏捷】C
【知力】C
【魔力】C
【精神】C
命銘:『情けは人の為ならず』
効果
「他者に与えた良い効果が自分にも適用される」
裏銘:『報恩』
効果
「行った善行の分を他者から取り立てることができる」
所持スキル:筋力強化【200秒】
効果
「任意の対象の筋力を強化する」
(前世では拓道でタクトだっだが、これがこの世界での俺の名前か。そして能力は全てCか……ま、平均ってところか?一応銘にあったスキルっていうのもあるのか。それに裏銘の文字だけ赤いのが気になるが)
起きようとしたその時、もう一つ、ポーチの中に薄い冊子のようなものが入っているのに気づく。
(なんだこれ……“マニュアル”?)
冊子の表紙には、こう書かれていた。
「命銘世界マニュアル」
【目次】
1:命銘とは何か
2:スキルとスキルブック
3:裏銘とその運用
4:希鍵について
(ご丁寧にどうも…)
取り敢えずページを読み進める。
【1:命銘とは何か】
命銘とは、君の生き様に与えられた“意味”であり、この世界における君の本質的な力である。
銘はスキルや属性に影響を及ぼし、唯一無二の能力をもたらす。
【2:スキルとスキルブック】
スキルはレベル上昇または、この世界の各地に存在する「スキルブック」に触れることで習得できる。
スキルブックに触れると、内容に応じたスキルがスキルカードに自動的に刻まれる。
スキルには階級があり、使用には魔力や精神などのパラメータが影響する。
【3:裏銘とその発現】 ※裏銘保持者のみ記載、閲覧可
裏銘とは、命銘に込められた意味に反発・懐疑・矛盾を抱いた者のみに発現する。
裏銘は、命銘と対を成す存在であり、通常の命銘者には存在自体が知られていない。
【4:希鍵について】
この世界には、“どんな願いも叶える”という希鍵が存在する。
命銘保持者の最終目的は、この希鍵を手に入れること。
願いなき者も、いずれ必ず希鍵を求めることになるだろう。
あれこれ書かれちゃいるが要するに”希鍵”とやらを手に入れろってことか。あいにく特別叶えたい願いなんて思い浮かばない。前の世界に戻りたいとも思わないし、まあ、無いなら無いで、
「ただ漠然と生きてみるのも悪くないか」
一度死を経験したからこその達観かもしれないが、そう思った。
――と、その時だった。
木々の向こう、森の方から微かに人の叫び声が届いた。
(……誰かいる?)
マニュアルとスキルカードを仕舞い、立ち上がる。
「早速善行を積んでみるか」
森の奥へ、風が揺れた。