1話
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
地面も空もない。自分の身体すら曖昧で、まるで夢の中のような感覚だった。
「目覚めたか」
声が降ってくる。目の前に現れたのは、人とも神ともつかない、存在。
「君の魂は、死を迎えた。けれど、その最期の行動が選ばせた。――第二の生を、与えよう」
(……死んだのか、俺)
そうか。そうだった。あの時、咄嗟に体が動いて、誰かを助けようとした。そのせいで、俺は――
「君の生き様に、ふさわしい『銘』を授ける」
神のような存在がそう言った瞬間、頭の中に一つの言葉が刻まれる。
『情けは人の為ならず』
(……は?)
「人に施した善意は、巡り巡って自分に返ってくる。君の行動にふさわしい銘だ」
(……皮肉、だな)
思わず笑ってしまった。
(巡り巡って自分に返ってくるだって?でも俺は、他人を助けようとして死んだんだぜ?とんだ仕返しが返ってきたもんだ。それもまあ、自業自得だが )
神は一瞬だけ、目を細め、口元を緩めた。
「嘲笑するか――まれに、そう感じる者がいる。“銘”に対して心から皮肉を吐く者。己の行動を肯定しながらも、与えられた意味に抗う者」
「君のような者には、二つ目の能力も与えよう」
(能力?)
空気が震える。胸の奥が熱くなり、一つの言葉が刻まれる感覚。そして視界に文字が浮かび上がった。
命銘完了『情けは人の為ならず』
効果
「他者に与えた良い効果が自分にも適用される」
そして
「与えた善意の分、奪う力を持て。“裏銘”アヴェンジスキル――君に与えられる第二の力だ。名を報恩と呼ぼう」
裏銘『報恩』
「行った善行の分を他者から取り立てることができる」
(与えて、奪う……)
「君の目的は、この世界に存在するどんな願いも叶える希鍵を手に入れることだ。他の命銘者と競い合え。『銘』を手にした者は、必ず希鍵を目指す。――与え、奪い、進め。己の“生”の意味を、探しながら」
そして、世界が――開いた。