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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第5話 『白の嘘』

 ギルアに抱きつきながらセルミナは元気よく言う。


「と、とにかく!今日の夜に出発するから準備だけしておいてね!」


「わ、わかりました!」


「と、言ってもレイン君の持ち物って銃しかないよね」


「え?まあ、はい」


 ニヤニヤと笑いながらセルミナは少し自慢げに続ける。


「私はエス、エム、ジー。通称サブマシンガンだからね。一気に弾を使い切っちゃうから大きいバックが必要なのよ!でも持ち運びやすいから———」


 どこが自慢できるのかわからないセルミナの話が遮られた。ギルアがセルミナの襟はねを掴んで無理やり連れて行く。腕をバタバタさせてその姿はまるで親に連れて行かれる子供のようだった。


「ちょっとちょっと!まだ私の話の途中!」


「そのような自慢話は後でいいので、あなたはもう行きますよ。昼のうちに済ませておく資料が山ほどあるのでしょう?」


「嫌だー!助けてー!」


 そっと俺は小さく手を振ってあげた。頑張ってきてね!という応援の意味も込めて。

 ホテルの廊下を引きづられるセルミナの目には涙が浮かんでいた。


「裏切り者!!」


 なんだか胸が痛んだ。俺にも一日中机に向かって資料を書き続けていた時があったからだ。腰が痛み、目の下によくクマができていたのを覚えている。

 レインは自分の頬を両手の手のひらで叩き嫌な思い出を忘れようとした。

 今の方が辛いか。早く〈インザヘル復興計画リバイバル〉を終わらせて帰ろう。

 そう思い、ホテルの自室のドアノブに手をかける。が、ドアノブはびくともしない。何度も試そうとするが扉が開かない。なんで鍵閉められた?

 あ、中にリーナスとシャーロがいるか。


「ドアが閉まったみたいなんだが開けてくれないか?」


 廊下でレインが大きな声で部屋にいる二人に話しかけるが、中から返事がない。少し経ってから鍵を開けた音がした。それと同時にレインが扉を開ける。


「助かったよリーナス…あれ?シャーロ?」


「はい、シャーロです」


「あの…リーナスは?」


「窓から自室に戻りましたよ」


 なぜわざわざ窓から…。俺が扉の前で話しているから出ることができないからか。どうしても自分の部屋で何かしたかったのかな?

 シャーロは上目遣いをしながらレインを見つめる。


「その顔、何もわかってませんね」


「え、何が?」


「いえ、独り言ですからわからなくても大丈夫です」


 そっぽを向くシャーロにレインは首を傾げる。シャーロは黒いリボンを髪に結びながらレインに言う。


「私も一度帰りますね」


「やっぱり帰るところあるんだ」


「帰るところが無かったら今は色々とまずいでしょう」


「え?あ、うん。そうだね」


「なんですか」


「いや、今の言葉に少し引っかかるところがあって。今の言い方的にシャーロは昔帰るところなんてなかったんじゃないのかなって」


「…そうですか…」


 シャーロの声が少し小さくなった気がした。シャーロは俺とは遠い世界を生きているような、そんな感じがした。隠し事に理由なんていらない。本人が言いたくないのなら黙っているのが一番良い。


「ごめん、シャーロを詮索するようなこと言っちゃって」


「いえ、気にしないでください」


 シャーロを傷つけてしまっていないだろうか。もし、今のことで心の傷をえぐってしまったりしたら俺の心がただじゃ済ましてくれない。

 シャーロはレインの部屋の机の上に置いてあった白色の()()()()()()()の形をした物を手渡してきた。


「リーナスさんが忘れていきました。レインさんは使い方わかっていますよね?」


「ごめん、触ったことないからさっぱりわからないです…」


「…説明しますよ」


 シャーロは()()()()()()()の形をしたものを持ち上げて言う。


「この機会の名前は〈ヘイトベイン〉です。こちらのスイッチを押したまま要件を言っていただくとできる限り私がすぐに駆けつけます」


 シャーロは〈ヘイトベイン〉の中心部分にある赤いボタンを指差しながらレインに教える。


「上についてるアンテナみたいなのは何?」


「こちらを引っ張ると爆発します」


「え」


 少し黙ってからシャーロはあまり口にしたくないような、嫌そうな顔で続ける。


「嘘です。うぅん、本当は教えたくないのですが…」


「なんかごめん。今はアンテナを引っ張ると爆発するって覚えておくよ」


「すいません、そうしていただくとありがたいです」


 レインはヘイトベインの上部についている黒いマーカーで書かれたようなものに目がいった。


「えっと…その黒いバツ印は何?」


「これですか。これは特に気にしなくても良いのですが。私のヘイトベインとわかるようにマークが付けられているだけです」


「そうか。じゃあシャーロの他にも同じような助っ人がいるのか」


「そういうことです」


 シャーロのような助っ人って何人いるんだろう?こんなものがあったら生活が縛られすぎて生きづらい気がするけれど

 シャーロは〈ヘイトベイン〉をレインに差し出した。


「大まかな説明はこんな感じですが、わかりましたか?」


「おう、完璧だ」


「そうですか。では私はこれで」


 〈ヘイトベイン〉を手渡したシャーロはすぐに扉の方を向いて歩き出した。レインは思い出したかのようにシャーロを止める。


「シャーロ。ちょっと待って」


「はい?」


 絶対に俺が持っているよりリーナスに持たせた方がいいだろう。リーナスは〈ヘイトベイン〉をいつでも使えるのに対し、俺は戦闘しながら使うなんて危なくて仕方がない。


「この〈ヘイトベイン〉はリーナスに渡しといてくれないか」


「無理です」


 シャーロは再び扉の方向に体を向け、立ち止まって話す。レインから見たらインザヘルで生き残るその小さな背中に信頼できるものがあった。


「そのヘイトベインは私がリーナスさんから取りました」


「……なん———」


「『なんで』、ですか。出会って一日も経ってませんのに聞き飽きましたよ」


「…」


「リーナスさんが忘れていったというのは嘘です」


 シャーロは手を後ろで組み顔だけをレインに向けた。

 口角が上がって見えるのは何故だろうか。


「今日の夜に使ってください」


 自信に満ち溢れたシャーロの言葉はインザヘルで厳しい生活を救ってくれるような気がした。

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