第4話 『インザヘルの中でパーティ』
相変わらずどこでもメイド姿のギルアがドアから一歩離れたところに立っていた。
「話ってなんですか?」
「あなた、今お金ないでしょう?」
「ぅえ!?い、いや、ありますとも!」
「図星のようね。そんなレインさんにお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「う、はい…」
金がないことを隠そうとしたが、一瞬でバレてしまった。隠そうとした理由はギルアと一緒に仕事をする可能性があるからだ。一度、レインはインザヘルの外で共同作業をしたことがあるが、ギルアの戦闘スタイルは爆弾を使うため荒々しく、味方に被害を出さずに帰還したことが一度もないのだ。
「リーナスさん抜きで私と一緒に仕事をしてくださいますか?」
ほらきた。でも、いつもとは違う。リーナス抜きでとはいったいなぜだろうか?
「なんでリーナスさんを抜きにするのかって思ったでしょう?」
「よくわかりましたね…」
「全てお見通しですよ」
まるで心の中を読み取れるかのようなギルアを少し引いたが、それには羨ましい気持ちもあった。今好きな人ができたからな。
シャーロの顔を思い浮かべて気が緩むレインを前にギルアは指を一本ずつ立てながら言う。
「一つ目の理由としては任務を行う場所が地下であり、彼女の得意分野である遠隔支援をすることができません」
「それは確かにそうだな」
「二つ目の理由は意思をはっきり持っている彼女は絶対にこの任務を台無しにするとわかっているからです」
「ん?」
「三つ目の理由は地下で近距離のスナイパーライフルを撃たれてしまうと一般人に怪我を———」
「ちょっと待ってください?俺は今からどんな任務を…?そこまで異常な任務でなければリーナスだって任務を台無しにしませんけど」
「場所はパーティ会場で任務を行います」
「は?」
インザヘルの中でパーティをするって、どこの変態でもそのようなことを考えようとは思わない。それとパーティ会場で任務って…。とりあえず最後まで話を聞いた方がいいのか。
「任務実行日数は三日間。任務内容はパーティ会場に乱入してきた悪党を返り討ちにするというシンプルなものです。パーティに参加する一般人を誰一人負傷させてはいけません」
「そんな鬼畜な任務二人で成功なんてできるんですか?ましてはギルアさんと共闘した人で怪我なしで帰還した人はいないって……はっ!ごめんなさい!」
気をつけようとしている本人の目の前では言うことではなかった。
レインは頭を下げて謝り、ギルアは「よく言われますから大丈夫です」と、言ってあまり気にしていない様子。
「心配しなくてももう一人いますよ。セルミナさん、出てきてもいいですよ」
ギルアがそう言うと、ギルアの背後から黄緑色のポニーテールの女の人が出てきた。白いワイシャツに白のスカートを履いていた。顔も整っており、何よりもエメラルドのように輝く瞳が目立った。
「ばあ!」
「うわぁ!?びっくりした!」
急に出てきて驚かせに来るとは。彼女はお腹を抱えて笑っていた。
「ギルアちゃん!この子採用!」
「何にですか」
「あんたらの将来のコンビに決まってるっしょ!」
「私の将来のコンビは社長一択ですが?聞き捨てなりませんね。勝手に私の将来を決めないでくださりたいのですが」
「ギルアちゃんの人生に一度関わった私にはギルアちゃんの未来を強制的に変えることができるのだよ!」
「あの…誰でしょうか」
驚いてからずっと腰を抜かした俺は急に飛び出してきた女の子に勇気を出して聞く。
「あ!私はセルミナ!一応、治安定務第一官位やらせてもらってるよ!」
勝手に将来を決めたセルミナを睨んでいたギルアだがすぐに真面目な顔に戻り、話を続ける。
「今回の任務では私は爆弾を封印しますのでこのバカミナさんとの行動が多くなると思いますが頑張ってくださいね」
「ちょっと!私の名前ひどくない!?」
「もう二度と奇抜な発想を出さないと言うなら元に戻しますよ?バカミナさん?」
「えへ〜、でもギルアちゃんに罵られるならこれはこれでいいかもしれないなぁ」
セルミナがギルアに目を細めて顔を近づける。もう数ミリ近づいただけでくっつきそうな距離でからかう。正反対にギルアの顔は全く笑っていなかった。むしろ殺気が漂っていた。
「私は呼びやすいので愚か者でもいいんですよ」
「あれ?さっきより嬉しい気がするような!」
「面倒臭いので無視しますよ」
「嫌だー!それだけは!気をつけるからー!」
「気をつけるではなく、やめてください」
セルミナはギルアに泣きついてメイド服を引っ張る。ギルアはため息をついてセルミナを引き離そうとするがなかなか離れない。
勝手にギルアの将来のコンビを組まされ、そしてギルアに嫌がられて、一番の被害者は俺…だよな?
セルミナはギルアに泣きつき、ギルアはそれを引き離そうとし、レインは心の中で静かに泣くカオスな空間が出来上がった。
もちろん全ての話はドアの向こう側にいるリーナスとシャーロにも聞かれていた。