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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第38話 『妄想のヤり過ぎには気をつけて』

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 また同じ夜に戻ってきた。身体中の痛みは全くと言っていいほどにない。ほんの少しだけ体が痛むのはアメシストとの戦闘のせいだろう。今は深夜。早くルルの部屋に行ってしまおう。

 レインは扉に手をかけると、脳内に声が響き渡った。聞き覚えのある明るい声とその呼び方。


『ナナイロ!ちょっと待って!』


 ここで初めてドリーマーからメッセージが入った。少し焦った様子の声が聞こえる。ドリーマーの服装は初めて会った時のようにシスター服の姿を思い浮かべてしまう。理由は単純に似合っているから。


「その呼び方はドリーマーか?何かあったのか?」


『ごめんね。まだこのテレパシーをうまく使いこなせてなくって……。一つ有力な情報があってね」


「なんだ?また新しく能力を作り上げたのか?」


『ううん。そうじゃなくてルル・ニコアに関してのことなんだけど。彼女は〈殺し屋〉として働いていて、ヴェルスに雇われてるみたいなんだ。ヴェルスよりもいい報酬を使えばルルはこっちのものにできるんじゃないかな?あの人報酬によってはなんでもやってくれるし…』


「まあなんとなく感じてはいたがやっぱりそうだったのか……。というかなんでそんなこと知ってるのか?ドリーマーは接点ないだろ?」


『え…!あ、いや、さっき調べたら出てきたと言うかなんと言うか……!まあいいでしょ!情報はあるだけいいんだから!』


 ドリーマーは焦りながら理由を説明した。あたふたするドリーマーが思い浮かぶ。

 報酬によってなんでもするなんて調べて出てくるわけないだろ。

 ———なんて思うレインだったが、ドリーマーなら不可能はないと察して、言わなかった。言わないとしても脳内は読まれているが。

 ドリーマーは自分の過去を知っている。だからこそドリーマーについては完全に信じられる。ルルが雇われていると言うことは事実ということでいいだろう。

 だが、ドリーマーに対する一つの疑問が浮かび上がった。


「そういえば、俺が二回目にドリーマーと夢で会った時に戻ったら俺が眠りながら着替えていたらしいんだが。どういうことだ?」


『……いやぁ、眠っている間も見られちゃ嫌かなって。ついでに裸じゃ寒そうだし』


「触ってないな?」


『サワッテナイサワッテナイ』


 ドリーマーは嘘をつくのが下手すぎる。すぐに棒読みになっているのは聞いてて面白いが、嘘はよくないことだ。

 レインはメリーを起こさないように部屋の隅まで歩き、小声で話し続ける。

 部屋には常夜灯のようにオレンジがかった色の光が灯っている。なんだか気分まで暖かい。


「バレてんぞ。というかいつの間に眠っている人の体を動かせるようになってるなんて。ドリーマーこそ悪用厳禁だぞ」


『か、開発者がそんなことするわけないじゃないか!』


「してるから言ってんだよ…」


 ぐぬぬ、と唸り声まで聞こえてきた。悔しがるドリーマーの顔を見てみたかった。

 ドリーマーにどんな過去があったなんて知らない。もしかしたら男性経験の少ないのかもしれない。そうであれば気になってしまうのはわからないわけでもない。だが、そうは言ってもドリーマーは人の夢の中に入って記憶を見ることができてしまうアビリティを持っている。その人が感じた視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の全てを記憶の中で感じられるということだ。だとするとドリーマーがわざわざ俺の体を動かして〈触る〉意味なんてないのでは。


『……だもん』


 この体験から基づいた理論に問題があるのか、ドリーマーが小さい声で何かを言い放った。直接会って問いただしたいところだ。

 レインは小声のドリーマーに聞き直した。


「えっと……ごめん聞き取れなかった。もう一回言ってくれな———」


『私にだってっ!性欲はあるんだもんっ!!!」


 脳を伝って聞こえるはずのない耳がキーンとした。その声は脳内を反復するように頭に残り続けた。

 なんとなく赤面したドリーマーの姿が思い浮かぶ。いや、思い浮かばせようとしても、これに関してはどんな顔をしてるのかわからない。怒っているのかもしれないし、恥ずかしがっているのかもしれない。結局は赤面しているのだが。


『実は私は部屋でずっとこもりっきりでナナイロの記憶を見続けてたの!でもナナイロったらすぐに変なこと考えるから私まで頭がピンクになっちゃって……!解消しようにもなにもできないからっ!!これは仕方ないもんっ!欲には抗えないもんっ!!』


 ドリーマーは文句を言い終えた後すぐに開き直った。

 自分の中では辻褄の全く合わない口実がいくつか組み重なっている。文句ならいくらでも聞くが、言い訳に関しては俺は受け付けていない。

 レインは言い訳に似た自己弁護をした。レインの言い訳は事実は事実であった。


「ちょ、ちょっと待て!落ち着け…!俺はいつ変なこと考えた?俺は至って真面目に未来をどう変えようかと考えていたぞ!……あ、あ、あと〈解消〉って……」


『ほらほら!変なこと考えてるっ!!私は別に〈解消〉についてはどんな方法かなんて言ってないもん!〈解消〉なんて他のことで気を紛らわせればそれも〈解消〉って言えるし?い、今の反応からしてナナイロが考えてる〈解消〉って変なことでしょ!ピンクのやつでしょ!エッチなことでしょーっ!!』


「い、いや……まあそうなんですけど。あ、そうだ」


 レインはとびきりピンクな妄想をした。それも夢の中の大人びた姿のドリーマーで。俺の周りにはロリっ子しかいない。大人びたドリーマーなら合法と言えるだろう。

 頭の中でテレパシーを伝ってくる悲鳴が聞こえる。


『ぴぎゃぁぁぁっ!!!ちょ、ちょっとぉっ!?なななな何してんの!?やめてぇ!!』


 悲鳴の途中で声が聞こえなくなった。ドリーマーは耐えきれずテレパシーから消えた。

 妄想力なら自信がある。それもリーナスにだってドン引きされるくらいには妄想が上手いと自慢できるほどに。


 ドリーマーがいつテレパシーに戻って来てもいいように身構えてはいたが結局戻ってこなかった。少しやりすぎたと反省はしているが、謝る気は全くない。この現実世界の状況でピンクなこと考えていたら流石にサイコパスを超えて、すでに人を殺しているだろう。


「まぁ……今妄想したばかりだが……。俺、一人で何してんだろ」


 レインはベッドに横たわっているメリーの寝顔を拝んでから部屋の扉を静かに開き、廊下に足を踏み出した。

 ルルの居場所はわかっている。今度こそは勘ではなく明確にわかっている。アメシストの空中から飛び出した部屋の隣の部屋だ。

 ルルはすぐにヴェルスとの連絡を取れると判断していいだろう。言葉を慎んで会話をしないければならない。ルルの気に触るような発言は完全に控えなければならない。そうでもしなければまた過去に戻ることになってしまう。何度も連続する〈過去改変チェンジザパスト〉には絶対にしないために慎重に全てを行うのだ。

 今は解決策だって持っている。有利に立ち回れるかは今の自分次第だ。

 レインはルルの部屋の扉をゆっくり開いた。

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