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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第33話 『作戦の裏で起きていた作戦』

 作戦を実行するため、レインは広場の外に出た。この作戦でレインがすべきことはヴェルスの足止め。昨日のようにヴェルスが姿を現すのに少々時間がかかるはずだ。

 レインはヴェルスと必ず鉢合わせる配置につき、メリーの〈ヘイトベイン〉を使ってシャーロの〈ヘイトベイン〉に連絡を入れる。


「準備はできた!作戦を実行してくれ!」


『はい!』


 今回の作戦の目的は貴族が人間がどうかの確認。わかりやすく言うと今回の反応次第で真実がわかると言うわけだ。


「さぁ、いつでも来い!」


 〈ヘイトベイン〉からメリーとシャーロの大声が響く。

 貴族どもに〈ヘイトベイン〉の情報を聞いてみると、話を逸らされる。そのことに単純に全員知らないだけかと考えるのは一般的だが、この場であり得る仮説を立てるとしたら、口止めをされているということだ。

 夜にアメシストが地面から飛び出してきた。そんなことが起こっておいて貴族が起きないはずがない。

 今の広場でシャーロとメリーにテロを起こしてもらっている。広場にいる貴族を脅すための銃声やら、なにやら物騒な音がレインのいる場所まで届く。

 だが、貴族の悲鳴は全く聞こえない。


『レインさん!言ってたとおり、貴族の表情は〈無〉です!』


 そうだ、これで疑惑が確信に変わった。黒幕が来るのを待つだけだ。

 レインの目の前に一つの人影が見えた。暗がりから現れたのは昨日と同じような格好をしたヴェルスだった。


「……どうしたんですか?広場に入らないのですか?」


 ヴェルスは広場から尋常じゃないほどの銃声が鳴り響く中、冷静にレインに質問をした。


「あぁ、少し探し物をしててだな。こいつの白色の方を昨日から探し続けてんだ」


 レインはメリーの黒い〈ヘイトベイン〉を指差しながら言う。アメシストと戦った時と同じような表情をヴェルスに向ける。


「お前、アメシスト・フィシクルって名前に心当たりあんだろ」


「はい?なんのことだかさっぱりです」


「……そっちがその気なら俺は何も言えないな。じゃ、俺は先に広場に入ってるぞ」


 レインはヴェルスから背を向けて、広場の扉に手をかけた。次の瞬間、後ろから気配がし、鈍い音が鳴り響いた。


「レインさん。この人、完全に黒ですね」


 ギルアがヴェルスの不意打ちを受け止めた。


「な、お前は危険人物の……!?」


「おぉ、やっぱり心当たりあるじゃん。ギルアさん、ここに来てからまだ一週間しか経ってないんだ。〈インザヘル〉で名が広がるスピードなんてそこまで早くない。つぅわけだ。お前、ギルアさんの存在をアメシストに聞いたんだろ?」


 ヴェルスは舌打ちをし、一歩引き下がった。ヴェルスの手元を見ると何かの金属で作られた鋭いものがあった。指が軽く触れた瞬間に血が出るほどほどに切れ味が良さそうだ。何故それがわかるのか。それはギルアの指先を見ると血が止まることを知らずに垂れ続けているからだ。

 ヴェルスは手元を輝かせた。


「そうですよ。ここまで気づくのが早いとは。少し感心しました」


「貴族ども……いや、今は頭に穴の空いた人間か。顔の表情は部屋の壁と同じ原理だろ?それにアメシストの時と同じように指示をされない限り、喋らない。そういうことだろ?」


「ほう、それも知っていたとは。では、今度は私が貴方に絶対に知り得ないことを教えてあげますよ」


「どうせ俺はそのことも知っている———」


「いいえ、今起きたことですから。試しに広場の扉を開けて見てくださいよ」


 レインはまさかと思い扉を勢いよく開けた。


「なっ……う、嘘だろ……?」


 そこには想像を絶する光景が広がっていた。血だらけになった広場の先には見たことのない〈化け物〉がいた。

 その血だらけとはメリーとシャーロとセルミナのものでもあった。

 声が出ない。息ができない。心拍数の動きが早くなり続ける。見たくない見たくない見たくない見たくない。もう死なせたくない。見殺しをしたくない。

 レインの膝が自然と崩れ落ちた。平然と目が広場の方を向いてしまう。見たくないのに見てしまう。だって、〈化け物〉の手には好きな人の頭が掴まれているのだから。好奇心とは怖いものだ。

 その後ろをギルアが小型の刃物を使って構える。


「作戦とやらは私たちの方が進んでいたようですね。ちなみにあの〈化け物〉は貴方の面識もある。ルル・ニコアです。言わなくてもわかりますよね?」


「〈アビリティニスト〉……。そんな〈アビリティ〉まであるのですか……」


「私の強敵はギルアさん。貴方でしたが、〈化け物〉相手に勝てるわけがありません。さあ、降参してこちらに来るのです。私たちの目的は貴方達の方ですから」


「どういうことですかっ……!全く理解できないです!」


「そのままの意味です。〈アビリティ〉のない貴方達は〈インザヘル〉ではとても希少。そういうことですよ」


「でしたら、戦ってここで死んだ方がいいですね。私の命は貴方達によって使われるためにできてないので」


 ギルアの小型の刃物は圧倒的にヴェルスの武器に劣っている。だが、戦闘とは武器で決まるものではない。自分の向上心によって鍛え上げられた自身によって変わるものだ。

 ギルアは動かなくなったレインに言った。


「これは私の責任です。任務に誘ったのは私ですから。レインさんは早く逃げてください」


「俺も……共闘します」


「いえ、将来有望なレインさんにはここで死んでもらわれたら困るのです。あと、レインさんには待ってくれている人がいることを私は知っています」


「でも…それだと……」


「先輩命令です。そして最後の注告です。逃げないとレインさんも巻き添えを喰らってしまいますよ」


 レインは唇を噛み締め、立ち上がった。そのまま走り出し、〈化け物〉をスルーして出口扉を開けた。

 今日は何度驚かされれば良いのだろう。

 レインの目の前に頭に穴の空いたカノルが突っ立っていた。

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