第32話 『広場で感じる大きな違和感』
二度目の目覚め。今度はメリーだけが部屋にいた。メリーがレインの意識が戻ったことに気がつくと近づいてきた。
そうでした。今から説教を受けるのでした。
レインは土下座をしてメリーに本気で詫びた。
「本当にすみませんでした。あれは不慮の事故でありながら、危険性も考えずに勝手に行動した俺のせい———」
「もういいのですわ」
メリーから思いがけない言葉が飛んできた。
レインは唖然とした「え?」という言葉が口から自然と出てきた。
ドリーマーの言っていたように、怒られないはずがないのだ。
「その、私にも悪いところはあったのですわ。……さっきは思いっきり蹴ってしまってごめんなさいですわ」
「あ、いや、そのことは気にしないでくれ。……って俺今裸じゃね!?……あれ?」
意識が飛んだのは服を着る前。つまり、裸のままその場に倒れたわけだ。だが、どういうわけか今自分の体を見るとスーツに着替えている。誰かが着せてくれたのか。
メリーがレインの怪異的な行動に首を傾げる
「なんでそんなに自分の服を見てるんですの?ナルシストにも目覚めたのですの?」
「何言ってんだ。ただ誰が自分の服を着せたのか気になっただけだ」
「それはレインが自分で着てたじゃないの。何でかわからないけれど目を閉じたまま着替えてたから、どこか覚束無い感じだったですわ」
ドリーマーが着替えさせてくれたのか。いや、安心している場合ではない。ドリーマーの言っていた新しくできるようになったことって、〈現実の自分との連絡〉ではなかったのか?ドリーマーが真剣な表情で嘘を言うように思えない。
レインが宙を見ながら一人で考えていると、メリーが視界に入ってきて大声を出した。
「とりあえず広場に行くのですわ!もうみんな情報収集を始めているのですの!」
「あ、あぁ。俺の作戦も一応用意している。それも試させてくれ」
レインは昨日のドレス姿のメリーについて行き、走って広場に入った。広場には昨日のように大きな机が置いてあり、貴族が溢れかえっていた。そこにはドレス姿のシャーロもいた。
あ、可愛いです。
こうも目の前に素晴らしいものがあってはかえって冷静になってしまう。きれいな白い髪に白い肌。更には白いドレスがよく似合っている。神聖なものとはこのことと思い知らされた。
横からメリーに肘で突かれた。
「ちょっと、シャーロにも言うことあるんじゃないの?」
「あ、そうでした。その……先程は無礼な行為をしてしまい誠に申し訳ございませんでし———痛っ!」
メリーに殴られた。謝りが足りなかったのか、そう熟考してしまった。だが、耳元で小さな声を出すメリーは的確なことを言っていた。
「今のシャーロの格好を見てもどうも思わないのですの?謝ることも大切だけど、シャーロの喜ぶことを言ってはどうですの?」
レインとメリーのやりとりを見てキョトン顔をするシャーロ。レインは深呼吸をしてからシャーロの方を向いた。
「す、すごく可愛いと思うぞ…!」
自分の考えや気持ちを相手に伝えることはいいことと思うが、今回のことに関しては別だ。ただ自分の考えを好きな人に伝えるだけでここまで緊張をしてしまうとは思ってもいなかった。
シャーロの顔面が火照っている。
「あ、ありがとうございます。レインさんも……その、似合ってます」
ほわぁぁぁぁ…!!
シャーロに褒められた!!何というか誰とも勝負なんてしてないが勝ち誇った気分!俺は……シャーロに認められたのだぁっ!
レインはそう心の中で大喜びをした。シャーロはと言うと何をしていいのかわからずキョドってしまっている。
二人とも違う意味で黙り込むとメリーは話を振った。
「えぁ……。そ、そうそう!そうですわ!シャーロの現状報告を教えてほしいのですわ!」
「現状報告……?あ、情報収集のことですね。それなら少し違和感を感じました」
急に話を振られたシャーロは最初は戸惑ったが、すぐに我に返り話を続けた。
レインもその言葉を聞き、我に返った。
「違和感?」
「はい。〈ヘイトベイン〉について不審に思われないように遠回しに質問をしてみるのですが、誰も聞く耳を持ちません。むしろ、無視をするように飲みに誘われるというか……」
「つまり、質問をしてみると相手のいい方向に話を逸らされるのですわね」
「あぁ、確かに俺もそれは経験した。一日目の夜で一番目立つところで〈ヘイトベイン〉の存在を聞いてみるが、貴族たちの反応は激薄だった」
シャーロとメリーが唸っているとレインは一人口を開いた。
そんなことは重々承知している。だが、決定的な証拠が欲しい。俺は冤罪が一番嫌いだ。
「今から話す俺の作戦を聞いてくれ」
二人はレインの作戦を聞くと納得してくれた。
二人の承諾は取れた。あとはセルミナさんとギルアさんにこの作戦を聞いてもらうだけだ。
レインはシャーロとメリーにその場で待つように指示をし、セルミナとギルアを探し始めた。
レインがパーティ会場に来て初めて感じた違和感である、ルルの存在についても何か解明したい。
セルミナを見つけた。昨日の夜と同じように取皿には山盛りの食材が乗っていた。セルミナがレインの存在に気づくとすぐに走って寄ってきた。
「タッチー!!いくらシャーロちゃんとメリーちゃんが可愛いからってセクハラは私良くないと思うよー!」
「セナ、それは事故だ」
「事故?シャーロちゃんがタッチの部屋から助けを求めてきたけど。いけないよ。仮にもあの子たちはまだ子供なんだから」
「すみません。ものすごく反省してます。だから、上の方にはどうか言わないでください」
それを聞いたセルミナは大爆笑していた。自分の心に決めて思い切って行ったこの気持ちを返して欲しい気分。
「あっはは!言わないよー!冗談だよ。これは私たちだけの秘密にしといてあげる」
「……それはありがたいです。ってあれ?」
セルミナの背後に人影が見えた。その影はセルミナの手に持つ食べ物の乗った取皿を取り上げた。
昨日の夜とは全く印象の違うギルアだった。目つきはよく、とても優しい口調で話す。
「いつまで食べるつもりですか?もう十時近いですよ。それにレインさんからの情報収集だってありますから」
「い、嫌だー!返してよ!私のエネルギーの源ー!」
身長的にギルアの方が圧倒的に高く、セルミナの取ることのできない位置に取皿を持ち上げてしまった。
「情報収集に関してはもう大丈夫です。この後、俺の作戦を実行してもいいですか?」
レインは作戦内容をセルミナとギルアに説明した。二人とも驚愕していたが、真実を確かめるために必要なことだと言うと、案外すんなり納得してくれた。