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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第29話 『すでに何も信じられない』

 パーティは朝昼晩に食事付きで行われる。パーティ参加者は全員、パーティ会場の広場にて朝食を取る。昨夜と同じようにステージの上で何をやってもよしの時間だ。

 レインたちはこの時間をうまく利用することにした。広場に集まった参加者に片っ端から情報収集を始める。そんな計画を立てた。


「ねぇ、シャーロ。あなたドレス持ってないから一人だけ浮いちゃうんじゃないんですの?」


「それなら大丈夫です。しっかり準備してきたので」


「……シャーロって意外と用意周到ですわね」


 メリーが何を考えていたかわからなかったが、シャーロの答えを聞くとため息をついた。そう言うシャーロは再びベッドの方に歩き、バッグを取り出し、中身を漁り出した。その話を聞いたレインは自分の服を見てふと思った。

 俺って昨日風呂入れたのに入ってなくね?と。

 メリーからすると自分が先に寝てしまったので、その後のレインの様子は知らない。たが、戦闘服のまま寝てしまっているところを朝に見たシャーロとメリーからすると汚物に見えないわけがない。そうなるとメリーからは罵倒され、シャーロは口にはしないものの心の内で嫌悪するに違いない。

 二人がドレスに夢中になっているうちに風呂に入ってしまおう。

 レインは気づかれないように風呂場への扉を開けて中に入った。


「あ!ありましたよ!これが私のドレスです!」


「おぉ!真っ白で可愛いドレスですわ!とっても可愛いですの!」


 シャーロは白いドレスを広げ自分の体と照らし合わせてメリーに見せる。


「てか、よくそんな綺麗なドレスがあったですの。あそこには必要最低限のものしかないと思ってたからちょっと驚きですわ」


「これはネアリアさんに作ってもらったんです。ネアリアさんって〈コンバット〉の中でも器用な方ですし、趣味で裁縫とかやっていたので細かいところまですごく綺麗に作られているんですよ」


「え!?あのネアっちがですの!?ネアっちって体が不自由だからいっつもベッドにこもっているんじゃないんですの?」


「ネアっちって———。そ、そうですよ。あのいっつもベッドにこもっているネアリアさんです。このドレスはネアリアさんがベッドの上でも暇だった時にコツコツ作り上げたものです」


「そう考えるとネアっちってすごいですわ。よくも、まあ、こんな綺麗なドレスを座りっぱなしで作れたもんですわ」


 この二人はなんの話をしているんだ?そんなことより俺はシャーロのドレス姿を早く拝みたい。

 レインは洗面所で服を脱ぎながら二人にバレないように話を盗み聞く。脱ぎ終わるとそのまま風呂に入った。


「……あ、そうだ。シャーロってレインのことどう思っているんですの?」


 そう言いながらメリーは自分の着ていた、黒いドレスを取り出した。シャーロのドレスを優しく触れる手が止まった。

 シャーロの声色は明らかにさっきとは変わっていた。メリーと話している時の声とは違う、レインと話しているような低く、気力のない声になった。


「なんで急にそんなことを聞くんですか?」


「え、あ……いや、その。そう!あの人優しいからシャーロはどう思ってるのかなって……ね!」


 レインがシャーロのことが好きなことは言わないでおこうと、咄嗟に出た思ってもいない言葉がメリーを困らせる。シャーロは再びドレスの方に視界を戻し、表情を変えずにメリーの質問に答えた。


「どうも、こうも、私はまだ初めて会ってから三日しか経ってないんですよ。なのでまだレインさんのことは何も知りません。このままあの人のことを信じてもいいのかもわかりません……」


「それは———。ううん。私は信じるのですわ。私が死を確信した時、レインは体を張って助けてくれたんですの。それを見て信じないと言うのは〈コンバット〉の恥だと思っていいのですわ」


 シャーロは俯いたままメリーに答える。


「私には難しいです。体を張ってメリーのことを助けたのは確かにただの優しさだけで動けるようなことではないです。でも、それだけじゃわからないことだってあるんです」


 シャーロはメリーの言っていることが理解できない。いや、理解をしたくないのかもしれない。過去に何があったかはシャーロにしか知り得ないことだが、今のシャーロにはどんだけ有利な理由をつけて説得しようとしても、納得してくれるような雰囲気は全くなかった。


「……そっか。そうですわね。私もカノルとずっと一緒にいてわかったのですの。関係を深めることで互いのことをよく知れるのですわ。まだレインとシャーロは出会ったばっかり。傷つけあって、助け合って、関係が深まるのはこれからなのですわ」


「メリーが言ってること……。悪いように捉えるつもりはないですけれど、『騙されてる』って思ってしまうんです。関係を深めれば深めるに連れて、この関係もずっと作戦のうちの一つだったのではないか、なんて思ってしまうんです」


 シャーロは過去のトラウマを思い出したかのように震え出した。だんだんと俯いていた表情が見え、何かに怯えているかのような表情をしていた。

 シャーロはベッドの上に白いドレスを置いた。ドレスを置いた手には力が入り、拳を握っている。


「ねぇ、メリーは知ってますか?……どんだけ良いことをしても嘘でもいいから悪い理由を流せばその人は確実に罪に問われることになるのです。上手くいけば良いことをしたのに罰を与えるなんてこともできてしまうのです」


「な、シャーロは何を言っているのですの?」


「そのまんま意味です。私はそれをやられたんですよ。もう私は人を信じることはできません。だって無駄なんですから」


「そ、そんなことないですわ!カノルは最後までいい人だったですわ!いつでも私の味方をしてくれたんですわ!」


「それはその人だけです。私は全人類のことを言っているんです。メリーだって今私を殺して、レインさんを犯人に仕立て上げることだって可能なんですから」


 メリーは手が勝手に動いた。その手はシャーロの頬に向かって動いていった。パンっという音と共にシャーロの口から言葉が溢れでる。シャーロの瞳にはもう希望の光はないように見えた。


「ほら、今だってそうじゃないですか。上手くいかなければ人は手を出すんです」


 メリーは半泣きになりながらシャーロに言い放った。

 メリーはレインのこともカノルのこともシャーロのことも信じている。だからこそ言える言葉だった。


「違う!これはあなたのための……!シャーロのための、優しさの暴力ですわ!」

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