第28話 『表面の仮面より内面の顔』
「じゃあ本題に入りますよ。私の白い〈ヘイトベイン〉を
無くしたのはどこですか?」
シャーロは〈ヘイトベイン〉を無くした張本人であるレインに向けて質問をする。レインは頭をかきながら覚えている限りのことを吐き出した。
「無くしたのはパーティ会場の入り口だ。そん時パーティ会場の扉が開いてぶっ飛ばされて……。あれ?扉を勢いよく開けたのはメリーだった気が……。てことはこれはメリーのせいじゃないのか?」
「は?レインが扉の前に突っ立ってる方が悪いんじゃないですの!扉を勢いよく開けたのは、その…私の気が浮かれてたのはあるかもしれないですわ。でもシャーロに嫌われたくないからって私に罪をなすりつけるのはとばっちりですの!」
「たかがパーティで浮かれるなよ!そのせいで俺は体とメンタルを痛めることになったんだからな!俺が貴族の前で喋ってたのお前も見てただろ。どんだけ緊張したことか!」
「気が浮かれちゃうのは仕方ないじゃないですの!私こんな大規模なパーティ会場に行くの初めだったんですわ!それと結局貴族の前でレインが喋ってたやつはヴェルスさんの助けがあってのことですわ!あなた一人じゃなあにもできないですの!」
「なっ!そんなことねぇよ!さっきの戦闘俺がいなかったらお前死んでただろ!」
「それはそうですわ…。でも、事実は事実ですわ!レインはシャーロがいなくてまともに戦えてないですの!これだから見初め鈍感は困るんですわ」
「み、見初め鈍感は今関係ねぇだろ!」
シャーロは二回手を叩きその場落ち着かせる。優しそうな口調だが、目は笑っているように見えない。今にも戦闘に使う竹刀が飛んできそうだ。
「次喧嘩したら私一人で行ってきますからね。色々と喚いている暇があるのだったら情報収集でもしてきてください」
「ご、ごめんなさい…」
「ごめんなさいですわ」
シャーロは立ち上がり、メリーとレインの前をうろうろと回りながら話し始めた。真剣に考えているように右手は顎に当て、左手は右腕に乗せている。
「レインさんの〈ヘイトベイン〉を無くした場所はわかりました。でも、その場にいた人が〈ヘイトベイン〉を拾い上げた場合は動きも大きいはずですし、わかりやすいと思うのですが……。無くした近くに誰か不審な方はいませんでしたか?」
「ううん。不審な人はメリー以外はいないはずだが……」
「な、なんですのさっきから!私は純粋誠実にパーティ会場で彷徨いてただけですわ!!」
「何が純粋誠実だ!メリーはもう少し———。あ、いや、なんでもないっす」
シャーロの冷たい視線によって、レインの口は魔法をかけられたかのように封じ込められた。それと共に一人の貴族を思い出した。
ルルと話した時の違和感ってなんだ?ヴェルスさんのことも気になるがルルにも何か裏があるように思える。
「レインさん、どうかしました?」
「いや……なんでもない」
ルルのことは二人とも無関係だ。もし、問いただすとするなら俺一人がいいだろう。それにアメシストの言う関係者とは一人とは限らない。やらないよりはマシだろう。
「では調べに行くとしましょう。派手に活動すると怪しまれてしまいます。慎重に行動してください。それと、犯人が〈アビリティニスト〉であるなら話は別です。どんな状況であっても必ず確保してください」
「わ、わかった。だが、メリーはそんな長く歩けるのか?そこだけ心配なんだが……」
「大丈夫ですわ。これくらい調査してる時にはもう完治してるんですの。それこそレインこそ大丈夫なんですの?」
「え?何で俺?特に何も痛めてないぞ」
「体のことじゃないんですの。私が言っているのは武器のことですわ。夜の戦闘でアメシストに青い銃を取られていたんですの」
「……マジか」
完全に忘れていた。目の前でカノルがいなくなったことで頭がいっぱいだった。アメシストが〈ダイアモンドエース〉を持って行ったことも気づいていなかった。
だとしたらどうするのか。武器がないと自己防衛も何も、もしもパーティ会場に〈アビリティニスト〉が潜んでいたら即狩られてしまう。
「私のを使ってもいいんですの」
「え?」
「だから!私の鞭を使ってもいいんですの!二回も言わせないでほしいんですわ」
「いいのか?そうするとメリーは武器がなくなってしまうぞ」
「いいんですわ!レインの方が私より全然弱いんですの!それに勝手に死なれて困るのは私ですわ!レインは約束も守ることができないんですの!」
メリーはレインから目を逸らし自分の服を強く握った。照れ隠しなのか罵るようなことも言っていたが、レインには本心がバレバレだった。
メリーは優しい。そんな一言だけがレインのメリーに対する印象に残った。
メリーは鞭をアメシストの戦闘時のように生成し、レインに渡した。重量のある鞭が手に馴染む。〈ダイアモンドエース〉より少しだけ軽い気がする。
「その鞭はレインの銃と違って、人を完全に殺し切ることはできないですわ」
「え?何そのハンデみたいな制限」
「〈コンバット〉全員そんな感じですわ。ほら、シャーロの竹刀も人をギリギリ殺すことのできないようになっているんですの」
メリーは部屋の壁の模様に触って遊んでいるシャーロを指差して言う。どうやらシャーロはレインとメリーの話し合いが長すぎて暇になってしまったらしい。
「ふぅん。で、メリーはどうやって戦うのか?」
「さては、レインは私を〈アビリティニスト〉だってこと忘れてるんですの?私には〈陰影の阻害〉という〈アビリティ〉があるんですわ。とっても便利ですわ!」
シャーロの〈光芒の慈悲〉とメリーの〈陰影の阻害〉といい、深く掘れば掘るほど、何もかも二人とも真逆の性質を持っていると思える。
「名前の通り影を操って敵の邪魔をすることができるのですわ!鞭よりも断然こっちの方が強いんですの!」
「まあ、確かにかっこいいな。ちょっとだけ憧れるかも」
メリーはその言葉を聞き、両手を腰に当て、さらに自慢をしてきたが、暇すぎるシャーロに冷たい視線を向けられ、厨二病心を抉られた。そのため、メリーの自慢話は打ち切りとなった。メリーに悪気はないと思うが、悲しい顔をされ良心が痛む。