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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第26話 『裏があるのは表が怖気ついている時だ』

 レインは絶望した表情でドリーマーに聞く。


「で、どんな記憶だった?」


「それはあなたが目を覚ましてからのお楽しみー」


「なんでだよ。今教えてくれよ」


「ま、わくわくと呼ばれるものをあなたに知ってもらいたいだけだよ。今更だけど『あなた』って呼ぶのなんかパッとしないよね」


「本当に今更だな。呼び方くらい何でもいいさ」


「私はもっと親しみのある呼びやすい名前がいいなって思うんだー」


 レインは膝枕されている頭を起き上がらせようとするが、上から頭を両手で押さえられてしまった。ドリーマーが仰向けのレインに両手で目隠しをした。レインは自分の手で目隠しをする両手を動かそうとするがどうも力が入らない。今動かせるのは口だけだ。


「何すんだ」


「人が一生懸命考えてるの。こっち見られると恥ずかしいというか、なんかそういうのあるでしょ?」


「わからなくはないが……。押さえつける力強くないか?」


「き、気のせいだよ。私そんな力入れてないし」


「被害者が言ってるんだ。少しは躊躇ちゅうちょしてくれ」


 今の会話からレインの体内時計で数分が経った。ドリーマーのレインの頭を押さえつける両手は動くことはなく、この数分間で両手から伝わる重量に慣れてきた。

 だが、邪魔なのは邪魔だ。ずっと膝枕状態なのは嬉しいのだが、流石にもう決まっただろう。


「えっと…もういいか?」


 レインが声をかけると両手が少し揺れた。

 急に声をかけて驚かせてしまったのかもしれない。

 ドリーマーが口を開いた。それも勇気を出した感じで言葉に力が入っている感じがした。


「ナナイロ…なんてどうかな?」


「……今回の任務の偽名よりはマシだな」


「そう、ならよかった。ごめんね。私自分の意見にいつも自信がないから伝えるのに時間かかっちゃった」


「別にいいけど、自信が無くても一度言ってみるといい。俺も最初は自信がなかったが案外聞き入れてもらえるもんだぞ」


「ありがと。確かにナナイロの記憶を見る限りそんな気はしたよ。ナナイロになら任せられそう……かな」


「何を任せるの?」


「あぁ、いや。こっちの話……。そろそろ起き上がってくれないかな?」


「そっちが押さえてたんだろ」


 レインは上半身を起き上がらせ、ドリーマーの横に座る。ドリーマーは俯いたままだった。その横顔はどこか悲しそうな表情を浮かべていた。教会のど真ん中に置かれるベッドに二人は静かに座っている。


「そろそろ現実でも起きる時間じゃないかな」


「もうそんなに経ったのか?」


「こうやってナナイロと話しているのが楽しいから夢の中の世界は現実の世界よりも時間の進みが早いの。」


「……そ、そっか」


 レインはドリーマーの言葉を聞き少し口角が上がったが、すぐに別れると知り真剣な表情に戻った。赤暗かった教会は今や真っ暗になっている。ステンドグラスを突っ切るのは月光へと変わっていた。


「話し相手になってくれてありがと。ナナイロが望むなら私はいつだってサポートするよ。現実世界のことでも何でも言ってよ」


「あぁ、その時は頼む。俺も案外ドリーマーと話してて楽しかった」


「そう言ってもらえると嬉しいな」


 レインはベッドから立ち上がり、教会の扉の方に向かって歩き出す。

 これでドリーマーともお別れか。さっき出会ったばかりなのに悲しいような、そんな気がして現実に戻りたくない。最後に一つだけ聞きたい。

 レインは教会の扉の前に来て後ろを振り返る。さっきまで座っていたベッドは片付けられていた。ドリーマーはまた木製の机に座っている。


「あのっ……最後に聞いていいか?」


 レインの声は教会に響き渡った。反響して自分の耳に戻ってくる。


「どうぞ」


 レインは深呼吸してからさっきよりも大きな声で問う。


「また、俺を夢の中に連れて行ってくれないか?次は土産話を持ってくる」


 自分で自分の声がうるさいとまで思うほどに大きかった。ドリーマーは一笑し、レインの顔を見る。


「もちろん。現実の私は暇だから、いつだってここにいるようにするよ」


 出会った当初は悪魔なんて思っていたが、今では本当のシスターとまで思ってしまった。机に座るシスターがあるか、なんて思われるだろうが俺は何度だって言い続ける。


「俺は夢のような、ドリーマーのようなシスターが好きだ」


 ドリーマーは唖然と口を開いたままだ。レインは扉の方に振り返り、ドアノブに手をかける。内心ではいろんな感情がぶつかり合っていた。去り際にカッコつけたかった。言われたドリーマーはどんな表情を見せるか。数多くの感情の中から確実に言えるのは、この出来事が嘘になってほしくない。そんなことだった。

 心の中で頷くレインは扉を引いた———が、動かない。レインは扉を押した———が、動かない。体重をかけて押してみたがびくともしない。

 後ろから爆笑するドリーマーの姿があった。


「あははは!私に全部丸見えなのにあんなにカッコつけといて、さらには扉の開き方までもわからないなんてっ…!あははは!!」


「ちょっとはいいとこ見せたかったんだよ。ほっといてくれ…」


 レインは顔を赤らめているとドリーマーが扉の目の前に来ていた。夢の中だからこそあり得る動きばかりするドリーマーはしゃがみ込んでいた。


「まぁ、確かにこの手の扉の開け方は珍しいかも…ねっ!」


 ドリーマーは扉を上に持ち上げた。扉はシャッターのようにガタガタ言わせながら当然のように上がっていく。


「珍しすぎだろ!俺の知ってる教会の扉はこんな開き方しねぇよ!」


「すぐ帰られたくなかったからわかりずらいようにアレンジしてみたの」


「斬新なアレンジだな…」


 レインは上に上がった扉の奥へと歩いて行った。

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