第23話 『教会の中の彼女』
数分後———
メリーは疲労が溜まりに溜まっていたため、すぐに小さな寝息をたてながら寝てしまった。レインは椅子に座りながら一人で考える。
なぜ記憶がないのか。俺がさっき何かしようとしていた記憶も消えてしまっている。今夜はこの記憶の問題で持ちきりだな。
すると、レインの脳内で知らない女性の声が聞こえた。
『そんなに気になるなら直接会おうよ』
「え、だ、誰だ!?」
レインは立ち上がり、声を上げて辺りを見渡す。しかし、周りに見える人は寝ているメリーだけ。だが、聞こえた声は明らかにメリーのものではなかった。
次の瞬間、レインの視界が暗くなった。意識が。まるで魂だけが取られていくかのように軽くなって。机に倒れるように眠りについた。
⬛︎
目を覚ますとレインは教会にいた。全体的に赤暗い。まず正面のステンドグラスに目がいった。花のステンドグラス。鳥のステンドグラス。何処か懐かしいようなそんな気がする。
木製の床に繋がっている椅子が多く並んでいる。振り返ると出入り口と思われる扉がある。レインは手をかけて開けようとするが開きそうになかった。
「なんで俺はこんな場所に……?」
レインは立ち上がり、前に歩いて進む。ギシギシと悲鳴をあげる木製の床は今にも穴が開きそうだ。さっきまで正面のステンドグラスから流れ込む光によって見えていなかったが女性が木製の机に座っている。
女性は教会のシスター服に身を包んでいるように見えるが少し違う。何かが欠けているようだった。髪の色は紫に見える。裸足というのはわかる。なんでこんな曖昧な情報かと言うと、ステンドグラスから出る光のせいでよく見えないからだ。
女性はレインを見るなり口を開いた。
「おはよ。結構起きるのが遅かったね」
「えぇっと、誰ですか……?何処かで会ったことあります?」
「いや?初対面だけど?」
そのままシスター服の女性は木製の机の上に立ち上がり手を広げて大々的に声を上げる。
「私はー…。そうだね。今はドリーマー。ドリーマーかっこ仮なんて呼んでくれれば良いよ」
彼女が立ち上がったおかげで顔がよく見えた。髪の色も紫よりも明るい紫、そんな色をしていた。
「あの、ドリーマー(仮)さん。ここは。どうして俺はこの教会にいるんですか?」
ドリーマーと名乗る彼女は何かを取り出した。ハンドガンだ。〈ダイアモンドエース〉によく似ている水色のハンドガンをこちらに向けていた。
え、この流れって……。
レインは慌てて両手を上げる。
「ちょっと待ってください!俺なんで狙われているんですか!?」
だがドリーマーはレインを狙う手を下げようともせずにそのまま引き金を引いた。
「ばーん!ばーん!ばんばーん!」
ドリーマーの声の銃声と共にハンドガンから出てきた弾はレインの頭部、胸部、腹部の縦三つを綺麗に貫いた。
あ、これ死ぬやつだ。死ぬ前にせめてシャーロの好みのタイプを知りたかったな。
レインは重力と弾に撃たれた反動に身を任せて後ろに倒れた。だが、痛みは全くなかった。上半身だけ起き上がらせ撃たれた体を確認するも弾が通ったはずの穴なんてものは探そうとしても見当たらなかった。
「どう?撃たれて何か感じた?」
「……どうって。いや、怖かったけど。てか、なんで俺の体は無事なんですか?今ドリーマー(仮)さんに撃たれましたよね?
ドリーマーは机の上から降りてレインに近づいた。そのままレインの手を引っ張り上げ立ち上がらせた。
「正直ビビった?今のは私も絶対ビビるなぁ」
「それは初対面の女性に撃たれたら誰だってビビりますよ。キューピットじゃあるまいし」
「私がキューピットでもあなたは絶対に撃たないわ」
「へー、優しいところもあるの———」
「だって顔が好みじゃないもん。ん、今何か言いかけた?」
「いや……なんでもないです」
第一印象は悪魔。キューピットの存在を知っているだけのただの悪魔だ。てか、この人全然自分の質問に答えてくれないんだけど。
「悪魔で悪かったね。私は世間からは天使って呼ばれたことがあるのにね」
「……?俺、口に出てました?」
「出てないよ。私も〈アビリティニスト〉だからテレパシー…的な何かで覗いたみたり?」
「なんで自分でもわかってないんですか」
「当ててほしいんだよ、君に。私の〈アビリティ〉が何かわかったら特別になんでもしてあげるよ」
さっぱりわからない。今どういう状況なのか。俺は今何処の教会にいるのか。ハンドガンに撃たれても俺が無事だった理由も謎だ。
ドリーマーは後ろで手を組み、レインの周りを彷徨いている。鼻歌を歌いながら彷徨いているため集中力が途切れる。
「あれ?その鼻歌聞いたことあるような」
「ヒントいちぃ。私は君の記憶を全て把握してるよ。君の隠し事も何もかも隅々まで」
俺の記憶がを把握されている。全知全能?いやゼウスじゃあるまいし。俺の知らないところで見られていた可能性だってある。歳だって多分上だろう。その可能性も考えて敬語も使っている。
「あの、歳を教えてくれませんか?」
ドリーマーは一瞬レインの方を見たがシカトし、口を開く。次はドリーマーの手から白い鳥が複数匹出てきた。
「ヒントにぃ。私は君の知っているものならここになんでも出すことができるよ。人間だって、神話のものだってなんでもいけるんだから」
手から白い鳥を出すことができる。いやそれ以外にも出すことはできる。あれ?全知全能?ゼウスなのか?いや、まだヒントがあるなら聞いてみたい。この問題に正解することができれば何でもしてくれる。何でもしてくれるなら早く年齢を聞きたい。敬語は疲れる。
アメシストよりもすごい〈アビリティ〉だと知り、レインは腕を組み、唸りながら考える。
ドリーマーは手を叩き、さっき出した白い鳥を消し、白い鳥の羽を掴み取った。その白い鳥の羽は徐々に黒く染まっていった。
「悩んでるねぇ。じゃあラストヒント。私はここでは何でもできちゃうの。できないことなんてない神なのよ」
「は…!ゼウス!」
ドリーマーは呆れた顔でレインを見る。如何にもうんざりという言葉が合っている表情をしていた。
「あなたゼウス好きすぎじゃないの?あなたの考えていることはお見通しだって。さっきからずっとゼウスゼウス言ってるのバレバレなんよ」
「それは、その…あまりにも的中してたから…」
「それに、ヒントで答えなんて言うわけないじゃないの。少しでも考えればわかることでしょ」
ドリーマーは黒い鳥の羽を上に投げ飛ばし、黒い鳥を出した。そのまま黒い鳥をシスター服の肩に乗せレインに詰め寄る。
「間違えた罰として後であなたに何かしてもらうからね」
「え、ちょっと待って。それはずるくないですか!?さっきそんなこと言ってなかったですよね!」
「私にだけデメリットがあるなんてことあり得ないんだから。人生舐めないでほしいね」
ドリーマーは再び木製の机に座り、シスター服の欠けていた部分を直した。本来のシスター服になりレインの中の何かがすっきりとした。ドリーマーはそのまま声を発する。
「私の〈アビリティ〉は〈夢幻の自由〉。つまりこの空間はあなたの夢の中だよ」