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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第21話 『英雄同士が取り合った』

 レインはメリーの髪についた泡を流しきり、シャワーを止めてから問う。


「髪、自分で拭けるか?」


 メリーは自分の髪の毛を触ろうとする。メリーの手は肩の辺りで動きが止まった。どうやらこれ以上後ろに手が回らないみたいだ。


「……頼みますわ」


「だと思った。俺に任せろ」


 レインはタオルを取り出し、メリーの髪を拭いていく。

 何度も言うがメリーは髪が長い。その分髪についた雫は残りやすく、完全に拭き切るのは一苦労。

 レインの視界にドライヤーが入った。


「メリーっていつもドライヤーで乾かしているのか?」


「え?ドライヤーってなんですの?」


「知らないのか?風を送り出して髪の毛を乾かすやつだよ」


「私はいつもタオルだけで済ませているのですの」


「よくそれでその髪を保ったな」


 レインはさっき触ったサラサラな髪を思い出した。レインは洗面台の上に置いてあったドライヤーを掴み取った。


「せっかくだし、やってみるか?俺もあまり使わないから熱かったら言ってくれ」


「じゃあ、お願いしますの」


 レインはメリーの髪にドライヤーをかける。ドライヤーから出る少量の風に髪がなびく。

 綺麗だ。メリーの黒い髪に触るたびにそう思ってしまう。しかし、メリーはなぜドライヤー知らないんだ?流石に誰でも知っていると思った。


「メリーって……。いや、〈コンバット〉たちってドライヤーも知らないような場所で暮らしているのか?」


 メリーは少し考えてから答える。


「レインのよく知っているような言葉を使って言うと()()に近いですわ。私たち〈コンバット〉は全員能力者ですわ。だからレインたちのような〈インザヘル〉を復興させようとする無能力者に利用されるものですの」


 それを聞いたレインのドライヤーを動かす手が鈍くなった。一定のところに熱が集中する。


「は?俺それ知らないんだけど……。なんで〈コンバット〉たちが()()入れられなくちゃいけないんだよ」


「私もはっきりわかるわけじゃないけど一番しっくりくる理由は無能力者が能力者、〈アビリティニスト〉全般を敵視していることですわ。なんてったって誰が見ても危険ですの」


「ちょっと待って。〈コンバット〉って好きでやっているわけじゃないのか?〈ヘイトベイン〉で呼ばれて戦う仕事みたいなのではないのか?」


「全然そんなことないのですわ。私たち〈コンバット〉は何も害を出してないのに拘束されているのですの。さっきも言ったけど私たちは無能力者の計画であるインザヘル復興大作戦リバイバルに利用されているのですの」


 初めてそんなことを聞いた。てっきりレインは自ら仕事を選んで強制的に得られた能力を良い使い道にしようとしているのだと思っていた。


「……いやじゃないのか?自由を奪われて苦しくて生きづらくないのか?」


「もちろん最初は嫌だったですわ。だけど今はこれで良かったと思っているのですの。自由が無くなったからどうこうではないの。新しく楽しいことを見つければ良いのですの」


「そういうもんなのか……」


「食わず嫌いはダメ、そんな感じなんですわ…って熱っ!!」


 メリーの髪に当て続けていたドライヤーはずっと同じ位置で止まっていた。レインは慌ててメリーの髪を持ち直し、ドライヤーを使って乾かし出す。


「……ごめん。ちょっと衝撃的すぎて」


「良いのですわ。ドライヤーはやってもらっていることだし、〈コンバット〉の話にとっては私も最初はレインと同じ反応をしたのですの」


 メリーの髪を乾かし始めてから数分が経った。レインはドライヤーを止めた。潔癖症と言われたメリーは部屋に落ちている数本のメリーのものと思われる髪の毛を拾った。

 いや、落ちている髪の毛全部長いな。

 レインはそう思いつつもドライヤーを片付けるためコンセントを巻いていく。

 メリーは髪の毛を拾い終わりレインに顔を向ける。


「いつかは散っていくのですわ」


「え?洗いすぎると禿げるってさっき俺が———」


「ち、違うのですの!私の言っているのはレイン達のような戦闘員と、〈コンバット〉のことですの!」


 メリーは右手の人差し指を自分のふんわりとしたもみあげに絡めて続ける。


「戦い続けても終わりが見え始めるのはずっと先ですわ。誰かを失いながらも突き進まなくてはいけないのですの」


「まぁ、それはその通りだな」


 メリーは拾った髪の毛の一本を引っ張りながら言う。何処となく恥ずかしいのか顔が赤く見える。


「さっきはごめんなさいですの……。シャーロのことは言い過ぎたのですの……。だから、その、仲直りの握手とか……」


 メリーから手が差し伸べられる。


「そうだな。ここは協力すべきだろうな。……俺も悪かった。俺も少し口調が悪くなった」


 メリーとレインは手を取り合った。恐怖と対抗するための同盟が結成された瞬間でもあった。戦闘員を失った〈コンバット〉と〈コンバット〉が不在の戦闘員。どちらかが欠けていては戦うことなんてできない。だからこそ、今だけでも協力関係を結成するべきなのだ。

 メリーは急に真剣な顔つきになり、レインに告げる。


「別に意地悪で言うつもりはないのですの。これだけは聞いてほしいのですわ」


「あぁ、意地悪だったとしても聞いてやるよ」


 メリーから聞いた言葉はレインの頭にずっと残ることになる。


「シャーロは私と違って〈コンバット〉になったことを納得していないのですわ。だから、いつだって無差別に殺そうとしてくる」


「殺させねぇよ。そのために俺がいるんだろ?」


 メリーは安心した顔つきに戻り、握り合った手を離した。解放されたという捉え方もあるが今はそう捉えてはいけない。


「……ちゃんと聞いてくれてありがと」

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