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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第17話 『紫に染まる』

 レインは深呼吸をする。いつ攻撃が入ってもいいようにメリーからは少し離れたところに移動した。

 これは時間稼ぎだ。ギルアでもセルミナでもどっちでもいい。結界を破壊して共闘を願いたい。

 仮説を作り上げていくだけだ。誰にでもできる。


「お前の狙いはこのパーティ会場ではない。そうだろ?」


「なぜだっ!なぜそれをっ!」


「見てりゃわかるさ。攻撃手段とかパーティ狙いならすぐに地面を破壊する事ぐらい派手に地面から出てきたお前なら簡単な事だろう?」


 レインは地面を蹴る。地面からは中が空洞とすぐにわかるような音が鳴った。つまりすぐ下にパーティ会場の部屋が広がっているのだ。


「お前、最初からパーティ会場の中にいたんだろ?」


「っ……」


「当たりのようだな。しかし、これは後でヴェルスさんを問いただすことになるな」


 レインは右手の指を広げ、物事を一つ言うたびに指を折り曲げていく。


「パーティ会場を地上から破壊しない。すでにパーティ会場にいた。この二つだけでもパーティ会場の中にお前の協力者がいることがわかる」


「だからなんだってんだ———」


 レインは全て見透かしたような、煽るような表情でアメシストを見つめる。だが目に光などというものは存在しない。


「その協力者は俺が殺す。どうせお前にもタイムリミットってのがあるんだろ?さっきから汗流してんのが丸わかりだ」


「貧弱なお前にそんなことができるわけ———」


「言わせねぇよ。俺が暴き出して殺すって。お前がカノルを殺したようにズタズタにッ…!」


 アメシストはレインの正真正銘の悪に染まった表情を見て一歩引く。英雄が黒く染まるところを見るのは初めてだからだ。レインはアメシストに向かって一歩一歩近づいていく。


「く、来るなぁっ!」


「お前が見たくない最悪の状態で協力者を返してやるよ…!顔面崩壊、手足破損、胴体粉砕。あぁ、眼球はプレゼントボックスに入れてあとで渡してやるよ…」


 アメシストはジリジリと死ぬ前のような感覚を味わい、耐えきれずレインに巨大な触手で攻撃を繰り出す。レインは数メートル飛ばされてから普通に着地する。隠し持っていた仮面でほとんどの威力を最小限に縮めたのだ。


「意外と仲間思いなのか…?だが、残念。強いやつだけを大事にしてちゃあ人生詰むぞ。あ、お前には無理か。もう手遅れの成り果てだもんなぁ!!」


「うるっせぇ!!」


 アメシストが怒鳴り声を上げる。気づけばアメシストの手は少し揺れているのが見える。


「僕だってお前らに仲間を殺された。能力者だった、そんな理由だけで。最初は話で解決しようとしたさ。それは無理だった。銃を突きつけられて僕の仲間は殺された。殺されまくった。大量の虐殺現場を僕は見たんだ」


「殺人者の悲しい過去なんて聞いてねぇ。俺は今の話をしてるんだ」


「僕にだって殺させろよっ…!お前らも殺してるんだからよっ!」


 アメシストはローブを翻し、触手を突き出す。

 あ、俺終わったか?少々煽りすぎたのかもしれない。時間稼ぎのつもりだったのだが俺は本当にカノルを殺したコイツが本当に許せなかった。

 音速で動く触手はレインに向かって突っ込んだ。


「…っ!って、あれ…?俺生きてる…」


 ビビって倒れたレインの目の前には小型の刃物で触手を受け止めているギルアの姿があった。なんだかすごい目つきが悪いような気がする。


「き、来てくれたんですか!ありがとうございます!」


 目つきの悪いギルアはレインの方を向いて言う。


「はやくどけ。重いんだよ」


「え?」


 レインはセルミナが言っていたことを思い出した。『眠い時のギルアちゃんに頼んでもものすごい塩対応をするだけで何にも会話にならないんだよー。あと寝てる時に起こすとものすごい怒ってくる』レインはセルミナが大袈裟おおげさに言う理由がわかった。

 だとしても塩対応の域を遥かに超えている。いつも敬語で礼儀正しいところしか見ていなかったからこそとても怖く感じる。

 ギルアはアメシストの方を見る。アメシストはドン引きした表情でギルアを見つめる。


「あんたか、私は少しばかり音に敏感でな。ベットのきしむ音でもよく起きるんだ」


「は?どうやって結界の中に入った———」


「ちょっと殴った。それだけ」


 あなたのちょっとの領域は隕石と同じくらいになるのか。この人に歯向かうようなことはしないでおこう。

 アメシストは左目を押さえて叫ぶ。


「…オープン・ザ・パンドラ!!」


 アメシストの右目からは三匹のユニコーンが出てきた。アメシストは手を広げてギルアに語りかける。


「君のレベルがどんなものか。僕のユニコーンたちで実験させてもらおうかな」


「好きにして」


 ギルアの正面から次々と突っ込んでくるユニコーンたちは鋭い角と〈インザヘル〉ではよく目立つ白い毛皮を持っている。

 だが、そんな美しく、珍しい生物が目の前にいたとしてもギルアは何も動じない。一匹目のユニコーンはギルアの小型の刃物で真っ二つに斬撃をくらい、灰となる。二匹目はユニコーンの角をへし折り、そのまま腹に刺し、同じように灰となる。三匹目はユニコーンの足を引っ掛けて転ばせ上に向けて斬撃をくらわし、頭が飛んだかと思えばすでに灰になっていた。

 このギルアの動きはほんの五秒ほどの出来事だった。

 アメシストはギルアの動きを見て驚きながらも称える。


「君すごいね。まさかこんなにも早く壊れるとは思っていなかったよ。だが、そんな君ともここでおさらばだ」


 アメシストは黒い方の目を輝かせ、空中に黒い穴のようなものを作り出した。

 ギルアが声を上げる。


「何をするつもりだ」


「僕は君には用がないんだぁ」


「……は?」


 アメシストは倒れたカノルを持ち上げると、黒い穴に入れた。


「僕はタイムリミットによりここまで、あとは君の言ったように協力者に任せるよ」


「待て!どこにいくつもりだ!」


「どこって、帰るだけだよぉ。あ、もしかしてそこのロリっ子のパートナーのこと?」


 アメシストは半分だけ黒い穴に入ったまま言う。


「それならちょっと借りるだけ。明日には強くして返すよぉ」


「待つ、のですわ…」


 メリーは力の入らない手で鞭を黒い穴に向けて投げるが届かずにその場に落ちた。

 それを見てアメシストは去り際にメリーに語りかける。


「天罰…ね。あれ少し効いたよ」


 召喚された黒い穴は消えた。

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