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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第15話 『嘆いた思いは届くことはない』

 ここで本気で戦わなくてはカノルに見せる顔がない。メリーはもう一度立ち上がろうとする。だが、全身に激しい痛みと力が抜けていく。

 吹き飛ばされたアメシストが顔色を変えず、ローブが破けただけで呑気に歩いてくる。


「いやぁ、君強いねぇ。触手を構えていたのに吹き飛ばされるなんて、僕久しぶりに驚かされたよぉ」


 倒れたメリーの前にほとんど無傷のアメシストが近づいてくる。


「悪党ってどうやって英雄に勝つと思う?強いものが力を振り絞って眠りにつく。その時を狙うのさ。全てを晒し出し、何も動けない、まるで捨てられた子猫のようだな」


「な、何を、言いたいの、ですの…?」


 アメシストはメリーの前に来るとしゃがみ、メリーの顔を覗き込んだ。メリーの傷だらけの全身はアメシストのいう通り、何もすることはできない。動かそうとする体は折れているような感覚がある。


「今からお前に恐怖というものを見せつけてやるよ。そこで這いつくばって見ているんだな」


「まさか…!」


 アメシストはカノルの倒れている方向に近づいていく。ローブの中の服のポケットからカプセルのようなものを取り出した。


「や、やめて…!やめろ…!」


「僕がこの君の無能なパートナーを最高の操り人形にしてやるよ!」


 アメシストが先の尖ったカプセルの下部分を押すと、横から虫のような足が出てきた。まるで死んだように足を丸めたカプセルはカノルの頭部に当たると中に入っていった。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 爆発音が聞こえた。メリーが戦ってくれている中レインはひたすらに結界を叩き続ける。

 くっそが…。奇跡でもいいから開いてくれ!

 壊れるはずがない。一般人のレインが叩き続けたって変化があるのはレインの手だけ。何もしていなかった手から血が出てきて傷ついただけ。

 俺がしたいのは自分を納得させることではない。相手が頑張ったと認めてくれるまでだ。

 倒れていたカノルの顔が頭に浮かび上がる。何処か悲しそうな顔をし、何処か何かを託すような表情をしていた。痛々しいカノルの足に目を向けられないのは自分の弱いところだ。

 リーナスに会いたい。何もしていないのに欲張りだとは思っているが、励ましの言葉が欲しい。精神と動きが安定しない。カノルの危険とわかりながら進む勇気に憧れて、カノルの自分を信頼してくれている表情に安心させられて、カノルの変わり果てた姿に震えて。何もできていない。

 俺は友達に対して何を考えているのだろう…。

 レインは結界を殴る手を止めた。こんなことをしていても無駄なのか。一人じゃ何もできないのは昔からそうだった。全員が単独で活動する中、一人だけリーナスと活動をしている。他とは違うことがかっこいいと思っているのではない。ただ単に怖がりなだけなんだ。周りからの視線も、いつ仕掛けられるかわからない罠も、何もかも。

 カノルがさっき言っていたことだって俺には何も意味なんてないんじゃないの……あ。

 レインの頭に一つの顔が浮かび上がる。 

 リーナス…!

 リーナスならどう考えるのか。そんなことをして何が変わるのか、それはやって見ないとわからない。

 初めて会って一週間くらい経った頃に言っていただろうか。


『なぁ、リーナス。俺の社長に提出する書類って知らないか?』


『おや?レイン。もしかして失くしたのか?あ、それとも構って欲しいのか?』


『…他を頼る』


『あ!待って!今仮説を立てるから!』


『ん?なんだ仮説って。書類を探すのをてつだって欲しいだけなんだが……』


『手こずったことを考えないとダメだ。ただ探すとしても時間がかかったらなんか言ってくるのはレインのほうだろ?』


『…リーナスのヘアピンを掃除機で吸い込んでしまったことは悪かったと思っている。だが、仮説を立てるとしても手掛かりなんてないぞ?』


『作るんだ、手掛かりを。逆から想像してみるんだ。レインが書類を見つけた後の未来から来たと考えて、まず初めに過去のレインに言うことは?』


『は?なんだよ急に』


『いいから。答えてくれ』


『じゃあ……書類の在処を伝える』


『素人が』


『な、なんだよ!それ以外何があるって———』


『僕は未来からいつに戻るかなんて一言も言ってないぞ?だとしたらどうする?』


『…書類を作り終わったところに戻る』


『あぁ、正解だ。書類を作り終わったと同時にわかりやすい場所に置いておけばいいな。だけど、僕が言いたいのはこの後。未来から来たレインならどう考えるか、だ』


『…?』


『ま、簡単に要約するとものを無くした時に何処に起き忘れたかがわかりやすい、だな。もしも、何処かもわからない場合は仮説を立てるんだ。時には仮説を自分なりに作り上げて成功させるなんてことも』


 そう言うリーナスはすぐに俺の探していた書類を見つけ出した。

 これは物を無くした時以外でも使える。今であればギルア、セルミナ、どちらでもいいから助けに来て欲しいところだがどうすればいいか、だ。

 ギルアさんを起こすと機嫌が悪い。それは眠りが浅いことを意味しているのではないのか。ここから地面の下はおそらく個室が横に続いている廊下の辺りだろう。結界が地面の中に繋がっていないとしたら。音を地面に通せばギルアさんに聞こえる。

 これはリーナスの言っていたあくまで仮説だ。だが、やってみないとどうなるかはわからない。

 レインはポケットから爆発を起こすことのできる弾が入っているマガジンを取り出した。〈ダイアモンドエース〉を取り出し、マガジンを挿入する。深呼吸をするとそのまま目の前の地面に銃口を向ける。


「…お願いだ。上手いこといってくれ!」


 コンクリートが弾け飛ぶ音と共にモールス信号を流す。『助けて』と。

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