第13話 『知人から友人へ』
俺が撃ち抜いたのか?いや、そんなはずはない狙ったのは念力の使える手を撃った。それに目の前で銃弾が破壊されたのは俺が一番よく知っている。頭部の穴は明らかに銃弾より大きな穴だ。
となると、事前に仕組まれていた…。
「おい!レイン終わったか?」
カノルの声が聞こえる。レインは敵の仮面をそっと付け直し、カノルのもとへ走る。
「あぁ、終わったぞ!これだけなら楽勝だな!」
「ま、そうかもな!お前も強くなったんだからな!」
カノルがレインの頭をわしゃわしゃとかき撫でる。
敵の頭に空いた穴の件は疑問を余計に持たせて戦闘の邪魔となると嫌だから黙っておこう。
二人は少し大きなコンクリートの上に座った。
セルミナとギルアは…少し言い合っている…。いや、セルミナが一方的に話しているだけだった。セルミナが泣きながらギルアに抱きついた。
「どうした?セルミナさんとギルアさんを見て微笑んじゃって。なんかあったのか?」
「ん。あ、いや。俺もあんな風に仲良く出来る友達いないからな。少し羨ましくて。リーナスには接触というものしないからな」
「俺は別にしても良いぞ?俺にならセクハラでもなんでもないだろ?というか今したろ?頭かき撫でたじゃん」
「え、俺は友達とあんな感じにしたいんだけど」
「俺ってレインの友達じゃないの?」
「え」
「え」
友達という感覚がわからない。どこまでしたら友達なのか。どこまで仲が良ければ友達なのか。昔のトラウマが蘇る。ダメだ。あれは完全に忘れると決めたんだ。
レインは首を横に振って蘇る記憶をかき消す。
「俺は仕事場で初めて会った時から友達だと思っていたけど」
「俺はカノルのことを一人のライバルと思っていたんだけど…」
「どうして俺がライバルになるんだよ」
「真面目な話すると、働く前の試験の時も初めての任務の時もそうだった。俺は毎回カノルに負けてるだよ。運動能力もコミュニケーション能力も戦闘時に咄嗟に思いつく考えだってカノルには勝てなかった。今だってさっきみたいに話を聞いてもらっているし。立場は完全にカノルの方が上に———」
「そんなこと言うなよっ!」
カノルが立ち上がった。ああ、そうだ。こういう人のために本気になるところもすごくかっこいい。いつの間にか憧れをライバルと決めつけて勝ち抜きたかったのは俺だ。相手は友達と思っていてくれたのに。
「ひどいよな、俺って」
「そんなことない!レインが陰で努力していることは知っている!レインが〈インザヘル〉に来ていることもその証拠だ!レインだって俺に勝っていることだってあるよ!優しさだってそうだ!リーナスさんに好かれていることだって俺は羨ましいよ!」
カノルは手を差し出す。
「な?まだいっぱいあるぞ!俯いてんな!一緒に伸ばしあおうぜ!今度はライバルじゃなくて友達として!」
レインはカノルの手を取って立ち上がる。
「ありがとう。元気出たよ、友人」
夜の〈インザヘル〉の街並みを背景に二人の手が握り合った。
「二人とも…ゲイですの?」
少女が二人の手の間から声を上げる。悪気の無いような顔のメリーは二人の手を死んだ目で見つめていた。
「あぁ!もうメリー!良いところなのに!」
いつものカノルに戻った。一番安心して落ち着く感じ。俺はこういう関係が良かったのかもしれないな。いや、もっと早くからこうするべきだったんだな。
「…ふふ。ゲイじゃねぇよ」
小さくつぶいやいた言葉はカノルに聞こえることはない。
セルミナとギルアが歩いてくる。
「この近くには敵の気配を感じられません。今日はこんなものでしょう。明日に備えて寝ましょう」
ギルアは大きなあくびをして眠そうな顔をしながらパーティ会場の入り口に向かっていく。セルミナはレインの前で立ち止まって体を大きく広げる。
「ねぇ、この戦闘服破けて無いよね?この前変えてもらったばっかりだから心配で心配で…」
「見るならギルアさんに見てもらった方がいいんじゃないですか?女性の戦闘服にあまり詳しく無いので間違ったこと言ってしまいそうなのですが…」
セルミナは即答する。
「眠い時のギルアちゃんに頼んでもものすごい塩対応をするだけで何にも会話にならないんだよー。あと寝てる時に起こすとものすごい怒ってくる」
「いや、二つ目のは誰でもキレるんじゃあ…」
「まぁ、それはそれとして、お願いー!」
「じゃあ俺で良ければ」
女性の戦闘服はとてもかっこいい。伸び切った襟に軍服のようなしっかりとした素材の服。第一官位の人にしか渡されない貴重な素材で作られた服だからここで触るのが初めて。
「…失礼します」
「失礼されまーす!」
前の方は自分で見ればわかると思うから背中の方を触って確認する。
おぉ…!こんなにも俺の戦闘服の材質と違うのか!
攻撃されても多少は大丈夫なように硬く作られた背中部分の装甲。硬い装甲は真正面から受ける攻撃にはめっぽう強い〈ディアライト〉という希少な物質で作られている。関節部は動きやすいように少量の〈ディアライト〉が使われている。〈ディアライト〉自体、風船のように軽くて、赤く燃え盛る炎にも強く、どこぞの金属のように茶色に錆びることはないとても優秀な物質なのだ。
レインは憧れのものを間近で見た子供のように目を輝かせる。
「か、かっこいい!かっこいいですセルミナパイセン!」
「えへぇ。そうでしょ!そうでしょ!もっと言ってぇ!」
あれ?セルミナさんも戦闘服マニアなのかな?
どこか入れ違った会話が弾む。
「この配色といい、このデザインの良さ!これは元の素材があってこそ成り立つのですよっ!」
「ちょっとぉ!そんなに言われると照れるんだけどぉ!」
「いやいや、これは褒めちぎらないとダメですよ!こんなもの滅多に見られないので、カメラに収めたいです!」
「えっへぇ、そんなにぃ!仕方ないなぁ。私この任務終わったら暇だし全然付き合うよ!」
「ええ!良いのですか!?すごく、とても、かなり、めちゃめちゃ嬉しいですっ!!」
「こっちもこんだけ言われると断るわけにはいかないでしょ!」
知らなければ良かった真実と誤解させて喜ばせてしまったことに若干の罪悪感を後に抱き、気まずい空間を展開させることになる二人だった。