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まるですべてが嘘のように。  作者: スノウドウム
任務0 インザヘルパーティ
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第11話 『見初め鈍感』

 ステージから降りて貴族たちを見ると全員なんのことかわからない様子だった。そうだろうなとは薄々感じていた。

 世に出回っているものならまだしも、誰も〈ヘイトベイン〉の存在なんて知りもしない。

 誰かがこちらに向かって走ってくる。


「タッチー!何してんだー!」


「セナ!?」


「急にステージに上がっては貴族にお尋ねなんて、ぶっ飛んどるわよあなた!」


「うう…」


 どこにも落ちていなかったし、手っ取り早いのはこの方法しかなかったんだ、と言いたいところだが、よく考えればぶっ飛んでると言われても納得できる。結局は一人でできなかったわけだし。

 ギルアもいつの間にかセルミナの横に立っていた。


「少し声が裏返っていたの面白かったですよ」


 なんだこの人は…。

 ギルアの変な感想を聞かされたレインは貴族たちを見る。

 全員自由に行動している。自由だからこそ何をしでかすかわからないから怖いのだ。ヴァルスを見ると頭の上でバツ印を出している。〈ヘイトベイン〉を持っている人は見つからなかった、か。


 十一時になってしまった。

 賑やかだったパーティ会場の大広間も静かになる。電気を消されて暗くなり、大きなテーブルの上にあった料理は片付けられた。

 大広間を出ると長い廊下の先に左右に部屋がいくつもある。寝室が準備されているので悪党どもの襲撃が来るまで待機する。別に寝ても良いのだろうが起こされた時のダルさが戦闘を悪化させる。


「暇だなぁ」


 ベッドに仰向けで倒れる。真っ白な天井にシーリングライト。顔を右に向けると真っ白な壁に大きな絵画。顔を正面に戻し、左を向く。壁だ。

 暇すぎる。こんなに待つのであれば暇つぶしの物を持ってくるべきだったな。

 悪党の襲撃が来たらパーティ会場の入り口で仁王立ちしているギルアが耳につけた通信機で知らせてくれる。

 その時、レインの部屋の扉にノック音がする。貴族の輩は呑気に寝ているため静かに扉を開ける。


「俺だよ」


「なんだカノルか」


「メリーもいるですわ!」


 カノルの下に目をやると少女も立っていた。


「で、用件はなんだ?」


「敵襲が来るまで一緒に話でもどうだ?」


「確かに久しぶりに会ったし、なんだか盛り上がりそうだな。いいぞ、入ってくれ」


 レインは(座ってくれ)と言い、椅子を用意する。二人は対面になり、会話を始める。


「なんだ?俺がいなくて悲しくなったのか?」


「ち、ちげぇよ!俺はコイツがいるから心配ないさ!」


 カノルはメリーがレインの部屋のベッドの上でゴロゴロと転がっているところを指さす。

 カノルは真剣な目をしてレインに問う。


「俺はさっきレインの顔を見て、いつもより元気がないような気がしたんだ。いつもならする肩を組んだり、恒例のグータッチだってしたかったんだが、今のお前にはそんな気力がないような感じがしたんだ」


「別に俺は…」


「なんでも言ってくれ!全部吐けとは言ってないからな。お前の心の余裕を作りたいだけだ」


 一瞬隠そうと思ったが、やめた。こんなにも優しく話を聴いてくれるライバルが目の前で心配してくれているのだ。


「あの、三つくらいあるんだが…いいか?」


「もちろんだ!」


 カノルは膝に手を乗せ直し、レインの顔を見る。レインは口を開く。


「一つはリーナスがそばにいなくて心配してるんだ。いつも二人で行動していたんだが、初めてインザヘルで大きな任務に参加するのにアイツがいないと心細い」


「なるほどねぇ、相棒…ね」


 カノルは少し考え問う。


「あ、その場にいないなら想像したらどうだ?」


「想像?」


「想像は想像でも雑な想像じゃあダメだぞ。つまりは相棒がいないと寂しいなら相棒であればこんな時どうするか、こんな時どう考えるか、なんて想像してみたらどうだ?」


「確かに…。それなら少し気が楽になりそうだ!」


 やはり話を聴いてもらって良かった。カノルのする話はよく参考になる。


「ほら、よく言うだろ?好きな人のこと考えるとどんな時でも気持ちが和らぐって」


「いや、俺は別にリーナスことは好きじゃ…。あ、そんなこと考えてるお前こそリーナスが好きなんじゃないのか?」


「い、いやいやいやいや!そそそそ、そんなことないよ!」


「どうした?協力するぞ?」


「うぅ、お願いできるならしたい…です」


「よしきた!」


 以前からカノルはリーナスを目で追っているところをよく見ていたからなんとなくわかる。カノルが顔を赤らめて俯いている。可愛いところもあるじゃないか。


「二つ目は俺も恋愛事情なんだけどな」


「お、おう!そうだな!お前だけ言わないなんてずるいからな!」


 シャーロのことは最初からカノルに言うつもりだった。


「俺は…〈コンバット〉に惚れた」


「…ん?」


「だから〈コンバット〉であるシャーロに惚れた」


 カノルの理解が追いついていないようだ。無理もないか。

 約一週間前に初めてあった人に惚れたと言われてどのように思うかは人それぞれだが、多くの人は思うはずだ。「決断早くね?」と。

 横槍が入る。


「あなたの〈コンバット〉はシャーロですの?それはお気の毒ですわ」


 布団に包まりながらシャーロに難癖つけるメリーにカチンと来た。

 レインは立ち上がりメリーに向かって言い返す。


「シャーロの何が悪いんだよ!欠点なんて俺からみたら一つもねぇよ!」


「あなたは会ってからそんな経ってないんでしょうけどね、私はもう1年は一緒のところで暮らしているわ。そんな私から言わせてもらうとあの子はゴミ同然ですわ」


 メリーは冷静な口調で応える。


「ゴミ?シャーロがそんなこと言われる筋合いねぇよ!言っておくけどな、人のことをそんな言い方する奴の方がゴミという言葉が似合うな!」


「あなたそれ『一目惚れ』ってやつでしょう?見た目だけが可愛いって…馬鹿みたいですわ。とにかくシャーロの中身を見てから私に口答えすることね」


「見た目もあるけどな、約一週間俺はシャーロに何もされてない!たとえ何かしてたとしても、してくれたことの方が多いはずだ!」


「ほざくだけほざいてることですわ。私はしっかりと忠告したわ。後悔するわよ、鈍感どんかん


「だから見初めじゃね——」


「ストップストップストップー!喧嘩しないの!」


 カノルがレインとメリーの喧嘩を止めに入った。

 俺はシャーロの何がダメなのか理解できない。

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