第10話 『主催者による助太刀』
簡単な案内を終えると辺りが明るくなり、ヴェルスはステージの上から降りて貴族と共に会話や食事を始めた。
「ほら、毒なんて入ってないわよ!キルアちゃんの思い込みすぎだよ!」
「油断は禁物ですよ。あと食べすぎると万が一戦闘が始まった時に動きづらくなりますよ」
「大丈夫。私は苦しくなるまでなるまで食べるんじゃなくて、私の満足するまで食べる派だから!」
ギルアは首を傾げ、セルミナはレインの方を向き、共感を求めている。よくわからなかったからとりあえず頷いた。
その前に俺はシャーロにもらったヘイトベインを探さなければならない。ここは後にして探さなければ。
前にも似たようなことがあったような。リーナスからもらった星の形のしたアクセサリーを無くしてしまった時。どこに落としたのかも、そもそも落としたのかもわからずに目の前から姿を消した。リーナスも探すのを手伝ってくれたんだっけ。長い時間かけてやっとの思いでアクセサリーを見つけた。結局は自分の部屋の窓付近にあった。その窓付近が日陰だからというのもあって、これから死角まで探すのを気をつけるきっかけにもなった出来事だったな。
今もあの出来事のようにヒントのようなことがあれば良いと思ったが、ないな。とりあえず死角を探してみよう。
十分経過。背後から声をかけられる。
「何をやっているの?貴族の分際でその行動はあり得ないと思うのだが」
俺は外に繋がっている通気口から顔を離す。声の主は知り合ったばかりのルル。
「ワンチャン…ね?」
「あるはずないわよ。そもそもその通気口閉まっていたわよね?」
ルルがさっきまでレインが顔を埋めていた通気口を指さす。そこまで言われると少し恥ずかしい気もしてきた。
「…そっちはどうだった?」
「話を変えてきたわね。ううん。あなたが探しているようなものはなかったわ」
「そうか」
かなり危険な状況になってきた。ヘイトベインがなくては悪党と戦ってこちらに勝利はほとんどない。リーナスと二人で戦って負けそうになったグラッドとの戦闘。あの任務は初級。いや、初級よりも低いかもしれない。そんな相手でさえ勝つことができなかったのに今は一人だ。セルミナやギルアと共闘できれば良いが、そうとは限らない。
「誰かが拾った可能性が高いな」
「そのようね。片っ端から聞いてみましょうか?」
「いや、それだと時間がかかるな、この広間の閉鎖よりは先に取り返したい」
このパーティ会場の広間は夜の十一時に閉じる。あとは部屋で各自で楽しんでくれとのことだ。そして今は十時四十分。時間がない。いつ敵襲が来るかもわからないからその不安もある。
「そうだわ!ステージの上で聞けば良いのよ!ステージの上だったらみんなからの注目を浴びて探しやすいのではないの?」
「お、天才だな。でも、無断でステージの上に立って良いのか?」
「安心してちょうだい。もし、ダメならば責任は私が取るわ」
「頼もしいな。その時はよろしくな」
レインは「行ってくる」といい残し、走ってステージにむかって走った。
こんなに注目を浴びる場所に立つのはいつ以来だろうか。学生時代にあった大人数を前にして一人で話し続ける嘘の多い発表か。それとも社会人になった今、同社の同僚に経過を演説をする、全て正直な、苦し紛れの言い訳の入ったものか。いずれにしろ良い思い出ではない。
それで、今回で三度目か。今回は貴族を前に探し物のお尋ね。聞いたこともない字面だが事実は事実だ。
ステージ上に続く階段を急足で登る。レインがステージ上という高い位置に立ったため、貴族たちが騒つく。イベントに期待するもの。知らない男がステージに立ち、心配をするもの。
学生時代、社会人になった今以来の目立つ位置。見たことある顔は四人ほど。
今までとは違った緊張を感じる。噛まずにいうことができるか、こんな意見で納得してもらえるか。昔の不安とは違う。
心拍音を落ち着かせるために深呼吸をしてから声を上げる。
「こ、この中に白い、トランシーバーの形をしたものを拾った方はいませんか?」
場が急に静かになる。声が全員に届いたことは良かったが反応が怖い。相手が貴族だからというのもあってさらに恐怖心が湧く。
ダメだ。耐えられない。
「あ、えと…すいません。ごゆっくり———」
「はーい!みなさん。ご質問にはしっかりと答えてあげてください!探し物をしていて困っているのですから!」
「ヴェルスさん…!」
横からマイクを持って登場したパーティの主催者であるヴェルスに助けられた。小声でヴェルスが続ける。
「こちらが依頼したのですから、私はあなたたちの戦闘準備の土台を作り上げなくてはいけないです、ね?」
「あ、ありがとうございます!」
ウィンクをして下がってくれ、とサインを送るヴェルスさんには感謝しきれない。