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7,魔界四天王シュラハ

魔界四天王が一人シュラハ。…元だが。

魔王なき魔王城を守っていた。

人間界にとっては異世界となる魔界。魔王がいたときは

統治されていたが、魔王なき今群雄割拠…というよりは好き勝手に生きるもしくはそれぞれの

種族が徒党を組み生活する、王がいない元の魔界に戻っただけである。とはいえ魔王が圧倒的

力で支配していたというよりも、魔王の人柄やカリスマ性で個性が過ぎる魔族たちが好んで

魔王に仕えていたのが正しい。

シュラハもその一人である。

100年前竜国との戦争で魔王は死んだとされていたがシュラハは信じていなかった。

理由はもちろんあり、消えただけでいまだに遺体が発見されていないから。

それでも死んだとされているのは竜国ドラゴンキングダムの王、竜王も同時に消えたからである。

その戦争は竜魔大戦と呼ばれ、最終的に竜王と魔王の一騎打ちを経て終戦となった。

その際両者とも消え、相打ちと見なされた。結果竜国と魔界は休戦という形で一旦幕を閉じた。

だがシュラハは生きていると信じていた。狂信と言ってもいい。

それぐらい魔王に依存していた。

だが他の配下は違った。魔王がいたから魔界軍にいただけという者が大半であり魔王がいなければ

留まる理由がないと、しばらくはシュラハと共に魔王城で魔王の帰りをまっていたが時がたつにつれ

一人、また一人と消えていった。

魔界軍最高幹部である魔界四天王もシュラハ以外全員いなくなった。

シュラハにとって意外だったのは自分以外に最後まで残った四天王がヴァニラだったことだ。

シュラハはヴァニラのことがいろんな意味で嫌いだったが、一等先に消え去りそうな奴なのに

なんで今まで残っていたと疑問におもっていたので最後だからと問うた。

「ん~。シュラハちゃん寂しいだろうとおもって~でも流石に飽きたから抜けるわあん。

新しい『玩具』も見つけたことだしねえん。またいつか~遊びましょ~」


結局よくわからない回答をのこして消えていった。だから気まぐれなヴァンパイアは嫌いなんだ。内心二度と戻ってくるなと思っていたし、他の四天王も消えてくれてシュラハにとっては悪い事ばかりではなかった。


もし魔王が戻ってきた場合自分が魔王を独り占めできるじゃないか。



という不純な動機であった。

ただ現実は甘くなく自分も一応魔界四天王なのだから自分の直轄の部隊くらい残ってくれるだろうと

考えていたが、本当に現実は厳しい。

シュラハ直轄の軍勢は元2万であったが、現在は僅か千程度しか残らなかった。つまり魔界軍現在の

兵力はシュラハ一人とその直轄軍千人のみ。

魔王がいたころは総勢20万からなる軍勢だったのに今はこれである。

逆にいえばそれだけ魔王様のカリスマ性が凄かったわけだ。

そう思い惚れ直す反面、自分のカリスマ性の無さになけてくる。

まあ、千人残ってくれただけでも御の字だ…と思うことにした。幸いその千人はシュラハにとって

精鋭部隊だったし、右腕としてこき使っていたやつものこってくれた。


「魔王様、おはようございます」

空の玉座にそう挨拶をし一礼するシュラハ。もちろん返事は帰ってこない。

金色の髪をサイドテールにしているそのテールは腰まで届く。

深紅のロングスカートのドレススーツ、スマートなボディライン。

キリっとした切れのある美人顔。

完全な人型の女性の姿をしているシュラハだったが、種族はスライム族である。

つまり仮の姿。望めばどんな形にも形態変化できる。

それでもなお現在の姿であるのは、魔王にその姿が好みだと言われたからである。


玉座の間にはシュラハしかいなく、がらんどうになった異常な広さの間は、黒を基調とした

部屋模様とあいまって寂しさを感じる。

「せんぱーい!報告っすー!」

玉座の間が開き、甲高い声と共にまたも女が入ってきた。

ミニスカートのメイド服。濃い青色のセミロングに立派な一本角が生えている。

シュラハと違って出るところは出ている体。

「カルラ。魔王様の御前よ、静粛になさい」

振り向かず目を閉じたまま、ゆっくりと顔を上げるシュラハ。

「やだなー。だれもいないじゃないっすかー。もしかして昼間っから飲んでんすかー?

こっちが仕事してきたのにー」

後頭部に手を組みながら笑い、答えるカルラ。

そんなカルラを見て深くため息をつくシュラハ。

「…まったく。そんなのわかってるわよ。気分だけでも魔王様を味わおうって心ぐらい

察しなさい。白けるわね」

「そーゆーの自分理解できないっすねー。いないのにいるよう感じるなんて無理っすよー」

やれやれと両の手を上げるシュラハ。

「まったく…修行が足りてないわよ?カルラ。私クラスともなれば、目を閉じて瞑想し

ながら目を開けると、そこには魔王様が見えてくるわ…おぼろげだけど」

それを聞き、何とも言えない表情をするカルラ。

(それって瞑想じゃなく妄想じゃないっすかねー)

「あー幻覚でいいならわちきの友達に頼んだらどうすかー?いい感じにキメさせてくれるっすよー」

思いついたかのように指を立てるカルラ。。

「ジャック・オー・ランタンでしょ?もうすでに試したけど、駄目だったわ。そういう致命傷になるデバフ系魔法は大抵『女王種』耐性でカットされるから…強すぎるってのも考え物ね」

ふう、と残念そうにため息をつくシュラハだったが

(いや、試してたんかーい!)

と脳内でつっこみを入れるカルラだった。

「でも魔王様はわちきも結構好きだったすけど先輩ほどじゃないっすね。ヴァニラねえとかもお熱だった

みたいだし、そこまで入れ込む一番の理由ってなんなんですかー?」

これはカルラの素直な疑問だった。自分で言った通り魔王様はそれなりに好きだけどみーんなここまで

群がるほどなのかという疑問。こういう質問を堂々できるあたり、シュラハとカルラの関係性が伺える。

「…そうねいろいろあるけど。手を伸ばせば届きそうなのに決して届かないものって魅力的じゃない?

近づけば近づくほど遠くなっていくのよ」

シュラハの返答に?な表情を見せるカルラ。まそういう反応になるわよねと、これ以上の説明はするきは

ないとばかりに

「ところで。なんの報告に来たのかしら」

と問うシュラハ。

それにおおー!!そうでした!!と今までの会話が吹っ飛び姿勢を正すカルラ。

「ドラゴンキングダムの軍勢が魔人の領域を制圧して砂漠地帯の我が軍勢が守る防衛ラインに攻撃を

仕掛けてきています!」

シュラハは無言で頷く。

「やつら調子にのって軍勢をどんどん増やしていって、奴らの拠点含めておよそ5万まで膨れ上がっています!」

先ほどと打って変わって真面目に元気よく報告するカルラを見て、シュラハは微笑しながら答える。

「予定通りね。もちろん言われた通り程よく粘ってほどよく苦戦してるふりをしてるんでしょ?」

はい!と返事をするカルラ。

「もういいから楽になさい。あなたって馬鹿そうに見えてやはり優秀よね」

それをきき、はーと大げさにため息をつくカルラ。

「馬鹿はよけいっすよー…。大変なんすよわちきもけっこー。みんなからなんでこんなめんどい戦い方

しなきゃらなねーのとか、ぶつくさ言われてなだめんの大変なんすから。ていうか自分もそろそろ知りたいんすけど」

「中間管理職ってそういうものよ。とはいえ、私がいうのもなんだけどあの偏屈たちをよくまとめてるわ。さあ、答え合わせと行きましょう。ついてきなさい」

言いながら、カルラの脇を颯爽と通り過ぎるシュラハ。ドレススーツが華麗にたなびく

「え?え?先輩!待ってくださいよー!どこいくんすかー?」

慌ててとてとてとついていく。

「時間が惜しいから移動しながら説明するわ。…そういえば。みんなに会うのも久しぶりね」

シュラハの言葉に

「先輩!!!現場にいくっすね!?」

と嬉しそうに飛び上がるカルラだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔王城展望台。

魔王城下町を一望できるその景色は絶景と言える。魔王がいたころとは比べるべくもないがそれなりに

多種多様の魔族で賑わいをみせている。シュラハは防衛上、魔王城の内部は一般公開してはいなかったが

庭園までは一般開放している。それはみなにも魔王城を見て魔王様を思い出してもらいたいから。

みなの想いが重なればあるいは…。

そんな思いを馳せながら城下町を見下ろすシュラハ。

(魔王様…シュラはいつまでもあなたさまをお待ちしております)

そっと目を閉じ、そしてゆっくりと目を開ける。風がシュラハのロングサイドテールとドレスをたなびかせる。

気持ちを切り替えるように。

「先輩、次元断裂門ディメンジョンゲートのカードありますけど」

横にいたカルラが手品師のようにしゅっと二本指をたててひねると指の間にいきなりカードが挟まれていた。

「取っておきなさい。転移系カードは何枚予備があってもいいわ。特に上位以上はね」

言いながら、シュラハは背中に力を入れる。するとまるで生えるようにゲル状の紅いスライム液が背中から

でてくる。そしてそれは大きな翼に変化していく。あっという間に紅いスライム状の翼が出来上がった。

「さてハーピイの翼…。『ルクレツィア』をイメージしようかしらね」

そうつぶやくと紅い翼がみるみるとハーピイ特有、ピンク色の羽毛の翼に変化していく。

そして完璧なハーピイ…しかも上位種とすぐにわかるほどの立派な翼。

それがシュラハの背中に生えた。スライム族なのに上位種のハーピイの翼を手に入れたのだ。

「いやーいつ見ても便利な体っすよねー。しかも『ルクレツィア』様の翼を形状変化できるんだから

やべーっすわ」

シュラハが形状変化する姿を何回も見ているカルラであったが、やはり何度見てもすごいものは

すごい。

「そうね。便利よ?とっても。なんでほかの(スライム種)子たちはやらないのかしら?」

嫌味でもなく本気でそう思っているように疑問するシュラハをみて

(先輩以外のスライム種でこんな芸当できるやつなんているんすかねー)

と内心呆れるカルラだった。

「さあいくわよ。私の足につかまりなさい」

飛び上がり雄大な翼をたなびかせる。羽が数枚華麗に宙を舞う。

「はいっすー!」

一方軽快にぴょんと飛び、シュラハの片足に捕まるカルラ。

「飛ばすわよ」

それはまるで本物の野鳥のように華麗な飛行で魔王城展望台を後にした。



魔界と言っても四六時中暗黒ではなく、基本的には人間界と同じく昼は明るいし夜は暗くなる。

ただ環境が厳しいことが多いのでそれゆえか禍々しい動植物が多かった。荒廃している土地も

多い。

シュラハとカルラは防衛ラインのある砂漠地帯に向かっていた。

「まあ、色々と理由はあるのだけど…まとめて始末するのが目的ね。現に手加減したせいで

調子に乗って今も数が増えている。ちまちま削るよりも一気に」

華麗に優雅に飛ぶシュラハ。一方カルラは片手でシュラハの足にぶら下がっている。

「でもーだったら別にわちきらだけで撃退できるっすよー?先輩が直接手を下す理由って…もしかして

他の手段があるとか?」

見上げる感じになるカルラ。

「いえ。私が直接手を下すで間違ってないわ。あなたたちの実力はぎりぎりまで隠しておきたいから。

その点私の力を行使するのは問題ない、むしろ力の一端を見せるいい舞台が整ったわ」

シュラハは続ける。

「竜魔大戦のとき私とあなたたちは魔王護衛軍として基本的に城に籠っていたから、直接戦場に

赴くことはなかったからね。つまり竜国はあなたたちの情報はほとんどない。私にとってあなたたちは

最後の部隊にして切り札でもある。とっておけるならとっておく。今回は私単独で奴らをさくってせん滅して彼らには何も成果を得ず、退場してもらうわ」

さくってせん滅とは…と苦笑いをする。自分たちでも撃退できるとは言ったものの5万の大軍をさくっと

しかも単独でせん滅させるという、そして恐ろしいのがなにもないといった無表情でいいはなったところだ。

たしかに3下の竜族たちではあるが竜族なのには変わりはない。つまり他の種族にくらべて強い。

「もー…先輩だけでいいんじゃないっすかー?どんな方法で戦うのか知らないすけどそんなことを言われるとわちきらの存在意義を疑っちゃいます」

シュラハが強いのは知っている。だがそれは、単体での戦いを見ているからで大多数を相手にした今回の

ケースは初めて見る。

「あくまで。今回はよ。この件が片付いたら流石に竜国も、次侵攻してくるなら簡単にはいかないわ。

その時こそ、あなたたちの出番よ。奴らの主力は、どうせ竜国にのこっているはずだから。私の力を見て

奴らがどういう反応、対応をするかは見ものね」

なるほどと頷く。自分たちの手足である直轄軍の実力を完全に伏せ、自身の圧倒的力の一部だけ見せつける。

元魔界四天王は力の引き出しがいくつもある。それを一部見られても全く問題がない。

「まあ、どっちでも同じことよ。泡食って逃げ出してそのまま侵攻をやめてくれたらそれで良し。時間をかけて再侵攻してきてもそれはそれで時間稼ぎできるからそれでよし。間髪入れず竜国の主力を投入してくるならそれはそれで対策できてるからよし」

カルラが首を傾げた。

「最後の竜国の主力が攻めてきたらの対策ってなんすか?ぶっちゃけ先輩レベルの竜族がいても不思議じゃないと思うんすけど」

「…言いたくないわ」

シュラハの反応にあ、これは言っても答えてくれない奴だと理解し

「じゃあいいっすー」

とこれ以上の追及はしなかった。


(まあ、正直いうとその対策は私にとって最低の対策であり、仮にそうなってもギリギリまで使わないつもりだ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数十年前。

ヴァニラが城を離れる時、シュラハに一枚のマジックカードを渡してきた。

「…どういうつもり?」

ヴァニラはいつも通り、いやらしい笑みを見せている。

「シュラハちゃんがもしピンチでどうしようもなくなったらあ、そのカードであたしを呼び出しなさいな。助けてあげるんーーちゅっ」

投げキッスをするヴァニラだったがシュラハは無視する。

「…。さっさと失せなさい」

「んー相変わらずいけずー、でもシュラハちゃんのそういうとこ。大好きよん?」

ケタケタと笑いながら霧のように消えたヴァニラであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして現在。

カードを見ながらそんなことを思い出すシュラハだった。

実のところその場で破り捨てようとおもったが、できなかった。それは別にヴァニラを恐れているとか

そういう事ではない。

単純に強い。

戦闘力。特に白兵戦において四天王最強と名高いヴァニラ。

そんなやつが助っ人してきてくれるのだ。

冷静に考えればそれを捨てるなんて愚の骨頂である。単純な私情でいえば恋敵であるヴァニラの力

を借りたくはない。

だが、単独で戦況を一変させるほどの実力者だ。曲がりなりにも魔王の代わりに魔界を守っている

自分だ。私情はすて、使えるものは全て備えとする。

備えはいくらあってもいい。

通常であれば。

いつもふざけていてケタケタと笑うヴァニラだから、絶対に来てくれる前提の考えでいるのは危険という

見方もあるが、不思議とシュラハは必ず呼べば来てくれるという確信があった。

大嫌いだが信頼はしていた。

認めたくはないがヴァニラはどこか魔王様に通ずる強さがある。それがわかるからいくら大嫌いでも

憎めはできなかった。そしてどこか頼ってしまう。

「…まだまだ修行が足りてないわね、私も」

ぽつりとつぶやくと

「なんか言ったすかー先輩ー?」

カルラの顔を見てなにも答えず微笑し

「さてそろそろつくわね」

前方に砂漠地帯がみえてきた。

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