6,トロールと屍術士とマオー
街道を外れると草原が広がっておりその先は森林となっている。
その草原からトロール3体が馬車めがけて走ってきている。
トロール。
3メートルある巨体のモンスター。腰巻一つに雑な木の棒を武器にしている。
「ザイン!馬で注意を引きつけて馬車から遠ざけろ!」
「おう!!」
馬車を止め、マオーとローニャとレニは合流し、それ以外が乗る馬車を守るように囲っている。
ザインは指示通り馬で単身、トロール3体にむかっていく。
「ねえマオー。ここらへんでトロールなんか見たときないんだけどあたしの気のせい?」
弓を構えいつでも射てるよう視線はトロールのほうから切らず話しかけるマオー。
「いや合ってる。本来の生息域から大分外れてる。レニ、馬車の屋根に乗って全方位警戒しろ。
不自然が過ぎる状況だ」
了解!とふわりと跳躍し、馬車の屋根に移動する。
「ここにいるのも不自然ですけどーなんか色も違くないですかー?なんか紫がかってる感じー」
ローニャも両手に鉄扇を持ち身構えている。
「それもあってる。本来のトロールの色は緑だ。変異種の可能性もあるがそれもあり得ない。
3体全てが紫がかっている。滅多に表れないから変異種なんだ。見てろ、おそらくだがザインの
挑発を無視してこっちへ向かってくるぜあいつら」
「ああ!?なんでこっちこねーんだこいつら!!」
マオーの言う通り馬にのってトロール周辺を走り挑発するザインだったが見向きもせずマオーらが
いる馬車に向かってくる。
トロール。
その特徴として巨体で力も強い。単純な腕力で言えば主天級の戦士職と同等を誇るが力天級の冒険者
が討伐するレベルのモンスターに甘んじている。その理由が。
絶望的に頭が悪い。
攻撃方法は武器をぶんぶん適当に振り回すだけ。対処法だけわかれば下位冒険者でも余裕で討伐可能。
それもあり、マオーらにとって全くの脅威ではない。だがいつも以上に警戒していた。
もし絶望的に頭の悪いトロールが指向性をもって正しく力を行使したなら?
それは一気に主天級すら戦慄する脅威となる。
「ザイン!戻ってこい!あいつらこの馬車を完全に狙ってきてる!3人で死守しろ!!」
そう大声を発しながら逆にマオーは3体のトロールに向かって走り出した。
「ちょ!?マオーあんた一人でやる気!?」
レニが後ろから叫ぶ。
「まさか!一体は行動不能にするからあとはお前らで時間を稼げ!僕に考えがある!!!」
僕に考えがある。その間時間を稼げ。
リーダーがそういったのなら黙って信じて従うのがルール。
「「おお!!」」
間もおかず3人とも返事をする。その自信に満ちた表情はいかにマオーを信頼しているかを
如実に表していた。
疾走しながら両手にショートソードをもつ
「『刃の先鋭』+1!!」
マオーは魔法剣士である。カスタマイズは武器の切れ味強化をする魔法。
棒を振り回しながら走ってくる3体のトロールの腕を素早くかわしすれ違いざま、回転しながら
トロール1体のアキレス腱を両の剣で削いだ。
「ぐおあああ!!」
一体が醜い叫び声を上げながら倒れた。
そんな状況にもかかわらず残り2体のトロールが構わず馬車に向かっていく。
(やはりな。後ろ首に呪印がついてる。残りもそうだ…ならば)
懐からマジックカードを取り出し握りつぶす。
(鷹の目…発動)
中位魔法、鷹の目。文字通り視野が空を飛ぶ鷹のように広がる魔法。
『今』のマオーでは唱えられない魔法。なのでカードを使用した。
「…あそこか」
草原の先。森林に奇妙な人影がみえた。鷹の目は同時に魔法力も透視できる。
マオーはその人影に向かって全力疾走する。
(逃がすか!!巨人の歩み(ジャイアントステップ)!!)
もう一枚のカードをつぶす。脚力超強化。
あっという間に人影に追いついたマオーは首をつかんだ。
黒いフードに黒いマント。ねじれた杖をもち体は小さく。目深にかぶったフードからしわくちゃ
な肌が伺えた。
「ひいい…!??命だけはたす…ぐえあ!?」
マオーは何も言わず力を強くした。
「次許可なくしゃべったら殺す。とりあえずあのトロールをとめろ」
男がほんのわずかに首を縦に動かすと遠くのほうでずううううんんという大きな音が聞こえた。
トロールの倒れた音だ。まあ鷹の目を発動しているのでそれがなくても確認できたが。
「おまえ屍術士だろ?誰に雇われた?3秒以内に答えろ」
「名前はしらないんだ!!本当だ!仮面をかぶっていたから…ただ随分とガタイが良かった。
声質からいって45ぐらいの男か?本当にあとはしらないんだ。金貨50枚でやとわれて…」
マオーは黙る。まあ足がつくような以来の仕方はしないよな普通。
もったいないがカードでこいつの記憶を覗くか?…いや。
カウンターマジックがかかっている場合それはそれでこちらの手札がばれかねない。
ならどうするかこいつを。やるか生かすか。
…。
「きえろ」
何回も頷きそそくさと退散した黒マントの男。
「まあ。何かの役に立つかもな」
男の姿が見えなくなったころ、マオーは一枚マジックカードを握りつぶした。