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5,レイチェル・オーランド

『ファーウェルまで護衛させる理由?なんでそんなこと言う必要があるの?高いお金払ってるんだから

あんたたちはただそれに従うだけでいいのよ。大体、あんたとそのむさい男はともかく、そこの尻軽そうな女二人…こんな弱そうなのが座天級なの?』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「噂通りのいけ好かない奴だったわ!次会うときはあたしをロープで縛って頂戴!殺意を抑える自信が

ないわ!」

がたん!と樽ジョッキのビールを一気に飲み干しテーブルにガタンと音を立てるレニ。

あのあと。

顔合わせということでギルド経由で例の令嬢とあったが、世間話程度に護衛理由を

問うたらこんな返事がかえってきた。レニの怒りはもっともだったが

「依頼人を殺してどうする。気持ちはわかるがまあ、高い金もらってるのは事実だし聞き流しとけよ。

ところでローニャ…俺ってそんなむさい?」

お前も何気に気にしてんじゃねーかと思いながら黒ひげを煽るマオー。

「そんなことーないと思いますよー。ザインさんはむさいとういうより男らしいですー。あんな小娘のー

いうことー皆さん気にせずにーね?」

笑顔でいうローニャ。だがマオーは知ってる。あのときレニが食って掛かろうとしたとき実は一番殺気を纏っていたのはローニャなのだ。今のように笑顔を保っていたが、決して笑っていない。一番怖いタイプ。

「それよりも。となりにいた執事が気になるな。あれは相当腕が立ちそうだ」

そう話をきるマオー。

「あの初老っぽいやつが?なんかやけにガタイはいいとおもってたが…」

ゲソをかじりながら上を見上げるザイン。

「あー言われてみればそうかも。あのおじさん、何気なく周囲警戒してるぽかったもん。あたし斥候だからわかんだよねそういうの」

少し機嫌が向上したようなレニ。わがままお嬢様とちがってその執事は丁寧な対応をしてくれたからであろう。

「でもー。私はよくわかんなかったけどー、そんな強いなら私たち雇う意味なくないですかー?」

ローニャの言葉にその通りと頷くマオー。

「だからやっぱり護衛ってのは建前で僕になんかあるんだろうな。本来は僕個人の依頼であったらしいし。ギルド長が最初僕にだけってのもあわよくばって感じかね」

言いながらマオーもゲソを齧る。

「でもさ。個人の依頼だったんなら受けてもよかったんじゃね?…ってあれかすでにチームの依頼受けてたからか」

「どっちみっち護衛依頼ってことなら割り勘前提でチームで受けてたけどな。損して得取れってやつさ」

どういうことですかーとマオーに問うローニャ。

「僕だけ儲かってもしゃーないだろうよ。みんな儲かればそれだけチームの装備もよくなる。結果生存率も上がる。リーダーの辛い所だな」

マオーの言葉にレニがにやけながら一方的に肩を組み絡む。

「もー言葉にしなかったらもっとかっこいいのにねー」

「うるせえ。お前らもっと僕に感謝しろや」

「感謝してるんでーじゃあーお酒注ぎますよー」

「じゃあ俺は黒ひげおごっちゃる」

今宵も更けていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ダーフォンの街から出て二時間ほど。

街道を走る馬車二台と馬一頭。

先頭を走る馬を駆るザイン。中間の馬車の御者席に御者とマオーが並んで座っている。中にいるのがオーランド家令嬢と執事。

後方を走る馬車にはローニャとレニがいた。後方の馬車には荷物が積んであり、御者はいなくローニャが手綱を握っていた。

「なあ、あんたら座天級なんだろ?正直この街道利用して、ファーウェルまで何回も往復してるがそんな危険なこと一度もなかったぞ。なんで今回は雇われたんだ?」

マオーの隣の御者が声をかけてきた。ザ中年ザ使用人という感じの出で立ちの男。マオーはこの男になんの興味もなかったのでいままで黙っていたが、それは相手も同様だろう。暇つぶしの質問だろうがマオーも存外暇だったので答える。

「それはむしろ僕がききたいね。『今回は』ってことは前回もお嬢さん連れてファーウェルまで行ったのかい?」

マオーの問いに御者が顔を若干しかめる。すると小声で

「お嬢様とレルゲンさんにいうなよ?余計な事一切いうなって言われてるからよ」

という。

レルゲン。執事の名前。

「安心してくれ。冒険者ってのは口が軽い奴から早死にするもんさ」

マオーがそう答えると、御者の顔が緩まる。

「1月前くらいか…ファーウェルで貴族らの社交界があって、まあオーランド家も細いながらも付き合いがあってそれにお嬢様が参加しにいったのよ。そのときも俺が御者だったんだが」

オーランド家は貴族というよりは財閥だったはずだ。だがまあ巨大な資本があれば貴族とのつながりも多くあるだろう。

そこに不思議はない。

「そのときお供についたのは俺とレルゲンさんと侍女一人だけだったんだ。それもお嬢様が自分で私一人にそんな人を割かないでください。無駄ですわ。って館様に言ったんだぜ?ああ、館様はそん時他用で参加できなくてかわりにお嬢様がって感じなんだが」

あのお嬢さんは見た目15,6歳くらいに見える。当主の代わりに社交界に参加するのは早いと思ったマオーであったが

この場合大事な疑問はそこではない。

「さすがにそれって危なくないか?比較的安全な道中とはいえ、座天級とはいかないまでも護衛を何人かつけるべきだろ」

答えは見当がついているが敢えて聞くマオー。

「レルゲンさんだよ。あの人まじでつえーんだ。背景はしらねーが、結構前だが野党10人一人でボコってケロッとしていたのを見たことがある。多分館様もそれを知っててなんだろう」

なるほどとマオーは顎に手を当てる。

「その社交界で何かあった可能性があって。僕に…いや僕らが雇われた理由があるかもしれないか…」

マオーの様子を見て御者はため息をついた。

「その感じじゃあ本当になにも聞かされてねーんだな。まあ俺も興味本位で聞いただけだからいいんだけどその社交界以降、元から気難しい性格のお嬢様がさらにきつくなったっていうか」

「…その割には嫌いとかそういう感情はなさそうだな」

「いやー性格がちょいきついってだけで理不尽とかないからな。まわりが言うほど実際はそんな我儘じゃないんだぜ」

マオーはかおを上げる。

(ならギルド長への態度と言い、レニらに暴言を吐いたり…意味がわからんな。身内にだけ甘いとか?

僕にこんなことを聞いてくるこの男もこれ以上なにも知らないだろうし。…こんな情報だけじゃあ雑多なだけだな)


「マオー様。お嬢様がお呼びです」


馬車の小窓が開いて渋い声が聞こえてきた。慌てる御者を尻目にはいはいと頭で言いながら

何か御用ですかと返すマオーだった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レイチェル・オーランド。

奇麗な金髪で縦ロールのロング。華奢な体つきで少女と形容したほうが近い。可愛らしい顔つきを

しているが生意気なその表情はいかにも我儘お嬢様らしさを際立たせている。控えめといった感じのドレスを着ていた。

馬車内はレイチェルとレルゲンが並んで座り、マオーが対面に座っている。

「ねえ。中間点のブルーベルまで結構あるじゃない?なにか話してよ。冒険のこととか」

予想通りだった。もしかしたらなにか進展のある話が聞けると思ったが期待外れだった。

とどのつまり、暇つぶし。

「きいてもつまらないですよ。座天級ってのは意外に地味な仕事のが多いから」

とくになにもないといった表情で答えるマオー。正直、付き合う義理がない。

「全く、唐変木ねー。なんでもいいのよ。冒険者になった理由とかでも。私の暇つぶしぐらい

サービスで付き合いなさいよ」

目をとじやれやれと言ったジェスチャをするレイチェル。レルゲンのほうを見たが不動の表情と姿勢で鎮座している。

オールバックの白髪と髭と執事服で見事なナイスミドル…いやとめろよ。

「わかりました。自分のことは話したくないので、僕のよく知ってる冒険者の出で立ちというか、冒険者になった経緯の話でいいですか?」

諦めたマオーはため息をつきながらそういうとレイチェルは満足そうに頷いた。

「そうですね…。彼女と形容しますか。彼女が少女…いや幼女だった時に遡る。彼女は幼くして両親から捨てられ里親に引き取られた。その里親は比較的裕福な家庭で貧しい孤児院に引き取れるよりはいい生活がおくれると思われたが、実際はその逆だった」

マオーは続ける。

「彼女はその里親に引き取られるなり、すぐに性的虐待を受けることになる。毎日毎日、里親の欲望というなの汚れた精液まみれにされる。体の外も内も。あなたの半分にも満たない矮躯で」

マオーがレイチェルの表情をうかがうとあからさまに表情がおぞましいという感情をあらわにしていた。

「マオー様、こちらからのご要望にもかかわらずもうし…」

レルゲンが止めようとすると

「私がいいだしたことよ!続けて」

マオーは無表情のまま続けた。

「そんな生活が数年続き、彼女の心の大部分は破壊されていた。しかし破壊されていない唯一の心が残っていた。それは希望なんて光ではなく、暗くぐつぐつとした…ーー『復讐心』」

続ける。

「『…殺してやる』そう決意し彼女は里親の家を脱走した。ぜったいにいつか必ず殺してやると頭にはそれだけうかべ失踪したが現実はそんなに甘くはない。身寄りもなく学もなく体力もなくしかも女ときたもんだ。そうなるともうまともに働く場所はなく、せっかく遠く離れた街に死に物狂いで逃げ落ちたのにやることは変わらない。娼館で男の相手をすることだった。もっともぼろぼろの体で本来なら違う街までたどり着けるわけがない。途中で倒れているところを人買いに拾われたということさ。既に男を喜ばせる方法を心得ていた彼女はそこで人気者となった。皮肉じゃないか。殺したいくらい憎いやつのおかげで生きて行けるなんて」

レイチェルはもはや真剣な表情で聞き入っていた。

「しかしそんな中でも彼女の中で復讐の炎は消えることはなかった。娼館で男を誘う踊りを練習しつつ、それを殺しに利用できないか考える。考える。練習する。練習する。男を食いながら踊りを昇華させる。昇華させる。舞踏から武闘へ。その踊りは男を誘う踊りではなく男を殺す舞となった。その技術は冒険者ですら通用となるスキルとなる」

ここでレイチェルが初めて口をはさんだ。

「その人って…」

「お嬢様が尻軽といった内の一人ですよ。確かにあなたの言う通りだ。彼女は今日という日を生き抜くまでに尻軽にならざるをえなかった」

マオーの言葉にゆっくりと俯いてふつふつとするレイチェル。下唇を噛んでいる。

「…あっはっはっは。案外可愛いところがあるじゃないですかお嬢様」

マオーがいきなり笑いだすとなによいきなり!と顔を上げるレイチェル。目が少しうるんでいた。

「嘘ですよ。そんな過去はありませんし大体僕は仲間の過去をよくはしってません」

「なっ!!!??}

わろうとしたレイチェルにマオーがただし!!とわりかえす。

「さっきのは噓ですが、冒険者ってのは似たような…いやそれ以上の肥溜めよりひどい過去を引きづっているやつもそれなりにいます。それは知っていてください」



「マオー!!左サイド草原から300メートル先にトロール3体確認した!こっちへむかってるぜ!!」



ザインの大声が馬車内に響く。

「ああ!今行く!レルゲンさんお嬢様を頼みますよ。そして決して外に出ないでください。御者も

ここへ入れていいですか?」

無論ですとレルゲンがこたえる。


(さて…鬼が出るか蛇が出るか)


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