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30/34

30,楽園の終わり。

違和感。に。エレノアは気づいた。

気づきたくなかった。

しかし、嫌でもそれは頭にめぐる。

女は確かに死んだはずだ。


なのにこの気色悪い空間が一向に解除されない。


いや、術者が死んだからと言って必ずしも魔法が全て解除されるとは限らない。


だがエレノアの不安は膨れ上がる一方だ。


そして。


それは的中する。




































「そういうことだったのねえん。すごい執念だわあ」





聞き覚えがある甘ったるい声に3人は恐怖した。

恐る恐る振り返るとヴァニラが立っていた。


首のない身体がヴァニラの首を抱えていた。


「!!?」


3人はもう動けなかった。本当の意味で万策尽きたのだ。もう手は残されていない。

「…さてと」

自分の首を元の場所にのっけて傷口をつーと指先でなぞると傷がふさがっていった。

3人の決死の全てがこれで無に帰した。

「…ヴァニラ、後生だからこの二人は見逃してくれないか?俺の命で勘弁してくれ」

エドガーが力なくそういうと二人が否定しようとするが、力ない腕で二人を制止した。



「ん~、楽しめたからヴァニラ許しちゃう!!」



そう体をくねらすヴァニラにぽかんとする3人。


「仮にがきんちょたちに任せてたらあなたたちに殺されてたっていうぐらい、強かったしねー。

やっぱり人間は侮れないわー」


訳の分からないことを言うヴァニラに戸惑う三人だが次の言葉で凍り付く。


「とは言ってもあたしの眷属になるってことだから」


「なっ!?」


驚く3人に不思議そうに首を傾げるヴァニラ。

吸血鬼女王クイーンヴァンパイアであるこのヴァニラに吸血されて。眷属にされる。とても光栄なことよ?感謝しなさいな」

ああでもとヴァニラが続ける。

「エドガーちゃんだっけ?あなたは『あいつ』が実験体が欲しい言ってたからそっちに回すわ。

もともと命を捧げるつもりだったのだから問題ないでしょ?」

にこやかにそう笑う吸血鬼に最後の気力を振り絞り、プリエムとエレノアがヴァニラに攻撃しようとした。

「ふざけるなあああ!!!」


「!?」


ヴァニラの瞳が紅く光り妖艶な笑みを魅せた。途端エレノアは金縛りにあったのかの如く動けなくなった。


(…あら?まあどちらでも同じこと)


プリエムはその少しあとに同じく硬直した。

「あなたも騒がれるとうるさいから口を開けないようにしてあげる」

エドガーにも紅い瞳を向ける。同様に動けなくなる。


「さあてと!どっちからにしようかなー。んーやっぱりおいしいものは最後にしようかしらん?」


いいながらエレノアの顔を優しく触れて、変わらずの妖艶な笑みでエレノアの顔に自分の顔を近づける。


「ああ。吸血する本人は喋れた方が盛り上がるわねえ」


ヴァニラが指をパチンとすると、エレノアの顔だけは自制が効くようになった。

「気分はどう?」

冗談ぽくそう問うヴァニラにありったけの敵意を向けた表情を見せた。


「殺せ!!お前みたいなバケモンに飼われるくらいなら死んだ方がましよ!!」


そう叫ぶエレノアに今度はにたあとしたいやらしい笑みを魅せるヴァニラ。

「じゃあ、ゲームしましょうか?あたしの吸血に堕ちないで耐えきったら望み通りころしてあげる」

二人もどっちが勝つか予想しててねん。と喋ることもできない二人に問いかけた。

そして。

ヴァニラがエレノアの首に、優しく嚙みついた。

「!!!!!?」

こくんこくんと一吸いされるたびに絶頂を超える快楽が全身を襲う。

ここで一旦、エレノアから顔を離すヴァニラ。

「どお?気持ちいいでしょお?」

まるで全身が性感帯となったようなエレノアは歯を食いしばって必死に耐える。しかし顔を真っ赤にして

足をもじもじさせる。

「…絶対にくっし…な…あああ!!」

エレノアの耳に軽く息を吹きかけたヴァニラ。それだけでまだ達してしまう。

ここでエレノア以外の二人の様子を確かめるヴァニラ。何もできない二人だったが大粒の涙を

浮かべていた。それを見て満足したように頷くヴァニラ。

「じゃあ、二回戦目」

またもエレノアの首に噛みつき、またもコクンコクンと優しく吸血するヴァニラ。


「あ、あ、あ、あ、はああああん!」


快楽は吸血が続くたびに増長され、エレノアはもう声を止めることが出来なかった。

ここでまたヴァニラはエレノアから牙を離す。


「どうする?今ならやめてあげるけど?」


いたずらにそうエレノアに問う。まるで返答は既に分かっていると言った感じで。

「………………てください」

つぶやくようにいうエレノアにヴァニラがえ~聞こえないーと焦らす。

「全力でお願いしたらもっと気持ちよくしたげるわよ?」

この一言が引き金となった。



「ヴァニラさま!!!吸血してくださいいい!!!?もう我慢できないですううう!!」



あの冷静な魔導士が見るも無残に落ちてしまった。仲間二人も何もできずに眺めるだけしかできなかった。

生きてきてこんな屈辱を受けたことがない。


「はい、一丁上がり。ご褒美よん」


今まで手加減していたのか次は下品にごくごくと音を立てながら吸血するヴァニラ。それに反して

この世のものとは思えない快楽を受けていたエレノアは快楽の果てに暗転した。

倒れてピクついているエレノアをよそに今度はプリエムに近づく。


「じゃあ、メインディッシュねえん」


また指を鳴らし、プリエムの顔だけの自由が許された。その瞬間エレノア以上の敵意を向け

唾をヴァニラの顔面に吐きかけた。


「このくそレズ吸血鬼が!!エレノアを返せ!!!」


目の前であんなことをされたのに物怖じしないプリエム。しかしそんな態度をすればするほど

ヴァニラの嗜虐心がくすぐられる。

ただヴァニラはそれ以外の思考がよぎる。

結果何もせずまた指を鳴らし、プリエムの口を封じた。


「…ねえ、なんでこの状況でそんなに反抗的なのお?その『片眼鏡』から意識を逸らさせるため?」


プリエムの表情があからさまに変わった。図星という事であろう。

本当に最後の抵抗だ。プリエムだって恐怖で泣き出したいくらいなのだ。悪あがきに過ぎないがこの吸血鬼は神器にそこまでの興味がなさそうだったので、自分が反抗的な態度をすることでできるだけ神器の

存在を忘れさせたかった。

だがそれもすぐに看破された。

ヴァニラがプリエムの片眼鏡に触れようとするとバチン!とはじかれヴァニラの指が数本吹き飛んだ。


「…さすが『神の眼』っていうだけの道具アイテムね。あたしですら触れられない強力な祝福が

施されている。魔界の魔器エヴィル・アイテムに通ずるものがあるわ」


つまらなそうに指が数本吹き飛んだ自分の手を眺めるヴァニラ。プリエムが若干ざまあみろという

表情をしたが、すぐにそれはなくなる。なぜならけだるそうに手を振っただけで瞬時に再生したのだ。

魔法を使うでもなく。

改めて理解する。

自分たちが相手をしていた化け物は、真の怪物であると。


「恐らく加護を受けた人間しか使えないようにしてあるんでしょうけど…迂闊だったわね。

プリエムちゃんがあたしの眷属になったら、あたしがあなたに命令して『神の眼』を使用

させてもいいのよね」


プリエムとエドガーは戦慄した。もっとも恐れていたこと。神器を奪われることもそうだが

悪用されることが一番最悪だ。そのために万が一奪われても悪用されないように祝福を

施していたのに。

「安心なさいな。悪いようにはしないから」

悪役の常套句のようなセリフを吐くヴァニラ。そしてまたにたあと笑う。


「続きはあたしのお部屋でしましょ?プリエムちゃん」



ーーーーーーーーー



「はえーー、でっかー!!マオー、このおっきいハエなんなん?」

12歳くらいの女の子が手を広げて驚いていた。ピンク色のボブカットでオーバーオールのような服を着ている。

健康的な褐色肌で既に出るべきところが出てきている。

少女の名はローズマリー。ミノタウロス種。

孤児院のある孤島に超巨大な蠅がおっさんのような感じで寝転がっていた。複数本ある足でぽりぽり体をかいている姿はおっさん臭さを増長していた。

「見た目通りハエだよ。魔界の蠅王『ベルゼブブ』という」

マオーもローズマリーの横で超巨大な蠅を見上げていた。すると二人に気付いたベルゼブブが巨大な赤い複眼を二人に向けた。

「マオーか…それとミノタウロスか?人間の姿をしているからよくわからんな」

さして興味もなくすごく低い声で発するベルゼブブ。

「よろしくだーね!ベルゼブブ!!あたしはローズマリー!」

見上げるほど大きいベルゼブブに聞こえるように元気いっぱいに手をあげて挨拶するローズマリー。

醜悪な見た目をしているベルゼブブなのに、蔑むとかそういう感情なく単純にあらたな出会いに楽しんでいるようだ。


「…一応、王族なんだぞ俺は。まあ、ヴァニラにこき使われている以上、偉そうなことは言えんな。…マオー、ヴァニラに言っておけ。急に呼び出すなと、あ、あと俺の腹の中で遊ぶなとな」


愚痴るようにこぼすベルゼブブ。

「知らねーよ。お前が弱いのが悪いんだろ」

「…ぐ」

マオーは耳をほじりながらにべもないことを言う。しかしそれは正論でもあった。勝負に負けたら眷属になるという条件で負けたら従うしかない。ベルゼブブには返す言葉がなかった。

「…あ、もう用済みらしい。…たくお前といいこのミノタウロスといいもっと王族に敬意をだな…」

そうグチグチボヤキながらボン!と大量の煙が発生し一瞬でハエが消えた。

代わりにヴァニラがそこに立っていた。


「あら?マオーじゃない。帰ってたの」


とくに何もなかったといった感じのヴァニラだったが、目でマオーにローズマリーを離すように促す。

「…ローズマリー、先に宿舎にいっててくれないか?それと悪いが他の子供たちももうしばらく宿舎で

大人しくしているようにと伝えてくれ。ヴァニラと大事な話があるんだ」

マオーが真剣な顔でそういうと

「う、うん!わかったよー!」

と、宿舎に向かって走り出すローズマリー。



ーーーーーーーーー



「で。首尾はどうだったんだ?」

マオーがそう聞くとヴァニラがとても嫌そうな顔で話し出した。


「『ミズチ』の力が必要ね…すげーやだけど」


本当に嫌そうな顔をするヴァニラ。

「…そんなに強敵だったのか?そうは見えないが」

今のヴァニラを見る限り、大分余力…というか全然消耗しているようにみえなかった。

「侵入者の三人自体は大したこと…いやそうでもないわね。問題はやべえ道具アイテム

を持っていたのよ。詳しい説明は後でするけど、結界を無条件で解除できる。魔界で言うなら『魔器』に匹敵するわ」

マオーの表情が明らかに険しくなる。『魔器』とは魔界の至宝。それに匹敵するアイテムともなれば

最悪、マオーやヴァニラに匹敵する実力者が、バックにいるかもしれないということになる。

「それ自体は別にいいんだけどね、面白そうだし。ちなみにそれって『神の眼』っていう名前

らしいんだけど、強力な加護が施されているせいで触れないのよ」

マオーはヴァニラでも触れない加護なのかと唸る。

「そのせいで『神の眼』を装備していた神官から剝がすことが出来ないのよ。…まあ神官の命を

無視する方向性でやればどうとでもなるけど『あれ』はまだ生かしておかなければならない」

ヴァニラが珍しく難しい表情をしていた。不謹慎だがそんな顔も素晴らしい。

「だからとりあえずあの三人は冷凍して、魔界のあたしの屋敷に転送したわ。ベルゼブブちゃんが

いるからよっぽどのことがないかぎり、奪われることはないと思うし」

ここでなるほどなとマオーが納得する。


「その『神の眼』ってやつが他にどんな力を隠しているかわからんから、ミズチに解析させる必要がある

ってことか」


魔界のマッドサイエンティスト、ミズチ・イズベル・グララ。


「ご明察。隠された能力で、追跡とか盗聴とかもっとろくでもない能力が備わっていたとして。それを知らずに所持していたら愚の骨頂といえるわね」


かといってとマオーがヴァニラの言葉を引き継ぐ。


「そんな有能な道具アイテムをタンスの肥やしにするのは勿論のこと、処分するのはもってのほかということか」


そゆこと~とマオーを指さすヴァニラ。

「多分だけど特別な祝福を受けた神官しか触れないし扱えないって仕様ね。だがら『あれ』をあたしの眷属にして『神の眼』を間接的に使用するって考え付いたのだけど。なーんか『あれ』だけあたしの魅了が効かないのよね。多分それも『神の眼』のおかげだと思うけど、あたしの魅了が効かないと眷属にできないし」

実のところ。あのときエレノアたちが金縛りにあったのはヴァニラの魅了術によるものである。しかしプリエムには効かなかった。なので影縛りという吸血鬼のアクティブスキルによりプリエムの行動を制限した。


「まあ、現時点で『あれ』を眷属にできたところで、『神の眼』の解析をした後じゃないと危険で使えたもんじゃないから。ミズチの協力は…必須ね。………すげーやだけど」


ミズチが嫌いなのはわかったよとやれやれと肩を竦めるマオー。

「ところで戦った三人はどうだったんだ?なんか大したこと…あるわねとか言ってたよな?」

マオーがそう問うとヴァニラがそうそう!と食いついた。

「あたしも人間に対する認識を少し改めないといけないかもね。なにせ『第一拘束具』を解放した状態の

あたしの首を切り落としたのよ、あいつら」

マオーが、へえ…と感心する。そんな芸当ができる奴が監視者センチネル以外に人間界にいたのか。


「全員で力を合わせて文字通り命を賭してあたしの首を見事に落としたわ。元からそんなに舐めてるつもりはなかったけど、なんていうか…執念というものを見せてもらえたわあ」


ヴァニラが恍惚の笑みを見せる。察するに想像以上の奥の手と搦め手を駆使してヴァニラの首を切断でき

たのだろう。

と、ここでヴァニラが何かを思い出したかのように笑みが消えてマオーを見つめた。


「マオー」


「なんだ?」



「ここ(孤児院)はもう引き払ったほうがいいわね」


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