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28,人間を甘く見るな。

孤児院の寄宿舎。

緊急的に子供たちを教室に集合させたヴァニラ。すでにツインテで露出度の高い格闘服をきていた。

つまり戦闘態勢。ただならぬ空気に子供たちがざわついている。

「はいはい落ち着きなさい、あたしが戻ってくるまでここから出ちゃだめよん?」

子供たちにそういうとぱんぱんと手を叩いた。すると雌蟷螂エンプーサがボン!と4体召喚された。

片膝と手を地面におき、ヴァニラに跪く。使い魔である。

「いいこと?あたしがあいつらの相手をしている間、もし伏兵が現れたらこの子らを守りなさいな。

指一本でも触れさせたら殺すわよ?」

「はっ!!」

勢いよく返事をする雌蟷螂エンプーサ、マオーに渡した記憶の水晶レコード・クリスタル

に映っていた雌蟷螂と同じ姿をしていた。


「…もう自分の身くらい自分で守れるよ、なんだったらあの侵入者を私が倒したっていい」


子供の一人、赤毛の少女ネムが不満そうにそう漏らす。ヴァニラに鍛えられて自信がついたのだろう。

他の子供たちも同調し始めた。遠巻きながら敵の実力をある程度把握できるほどまで、戦闘力がついていたのだ。

「駄目よ。あたしの仕事はあんたたちを守ること。いいからここはヴァニラお姉さまに任せときなさい」

それでも不満そうな顔をやめない子供たちに、ヴァニラの顔が鋭くなり目が紅く光る。

「…ああそれと、いいこと一つ教えてあげるわ」



『人間を甘く見るな』



今までにない重い声色でそう言い放ったヴァニラに流石の子供たちも黙ってしまった。しかしその表情はすぐに消え


「じゃあ、いってくるわねえん。いい子にしてなさいよー、がきんちょども」



ーーーーーーーーー



「神のゴッド・アイでしか破れないような結界の中にあったのが、ただの孤島で牧場や畑、寄宿舎があるだけ…?」

不思議そうに周囲を眺める三人。のどかな風景だ。だからこそ違和感。

そんな島を重結界で守る理由がない。

「とりあえずはあの寄宿舎にいくしかないか?強大な力も感じないし、拍子抜け感があるけど」

純白の全身鎧を装備した金髪の智天級の冒険者、エドガーが遠巻きに見える寄宿舎を指さしながらいった。


「気を抜くんじゃないわよ、私も知らない魔法の結界で隠されていた島だからなにが起きても不思議じゃない。プリエム、一応『神の眼』は装備したままでいて」


黒色のローブととんがり帽子、脇に魔術書が浮いている。彼女も智天級の冒険者、エレノア。

「あいよ。…でもここにお目当ての『マオー』って人がいるとは限らないよね。まあそんなこといっても

しゃーないけど」

軽くそう返す女神官。高級な白色法衣を纏い、金剛杖ダイヤスタッフを両手に持っている。

ビレッタ帽子をちょこんとかぶっている。水色のロングヘアー。豪華な装飾のついた片眼鏡をしている。

同じく智天級の冒険者。

「…勘だけど、あいつがいるかどうかはともかく何かしらの関係はあるとおもうわ」

三人がこの島にたどり着いたのは神器『神の眼』のおかげだった。『神の眼』はあらゆる結界を解除する

力と幻術や魅了術を防ぐ力がある。それは智天級や熾天級でしか扱えない超上位魔法でさえもだ。

『神の眼』を装備した瞬間、結界の張られていた孤島の方角に『神の眼』が反応したので特定できた。

そして『神の眼』を発動し島の結界を解除した。

そして現在に至る。

3人が寄宿舎に足を向けると、一人の女が寄宿舎から出てきて3人の方向に向かってきた。

3人は警戒して足を止めた。寄宿舎から大分遠かったがその女はゆっくりと歩いて三人

に近づいてくる。

女が10メートルくらいまで近づいたところで


「止まりなさい!!」


とエレノアは女を制止した。

女は鮮やかなマゼンタ色のロングツインテールで露出度の高い格闘服をきていた。病的な白い肌。絶世の美女と言える顔立ち。

しかしなぜであろう、途方もない不気味な感じ。

力はそれほど感じないが、銀髪の男マオーと同じような空気を感じたエレノアだった。


「結界を破ってまでなにか御用?そもそもどうやってここの結界を破ったの?『あなたたち程度』の実力じゃ解けない魔法のはずなのだけど」


不思議そうに問う女。この一言で3人の女への警戒度は跳ね上がった。『あなたたち程度』それは自分が自分たちより強いと言っていることと同義。しかし言葉とは裏腹に女から圧倒的力は感じられない。

ただただ不気味。

「…答える必要がないわ。だけどあなたには私たちの問いに答える義務がある。一つは強力な結界を張ってまでここで何をしていたのか。二つ目は銀髪の男、マオーってやつを知っているかどうか」

エレノアは袖を捲りながら女に問う。智天級冒険者の証である金色螺旋腕輪を見せた。智天級冒険者ともなると調査という名目で領主等の許可なく個人に尋問できる権利がある。

しかし女は何をしているかわからないといった感じで、首を傾げた。

「…なにそれ?そもそも不法侵入者のあなたたちの質問になんであたしがこたえなきゃいけないの?…ああでも『不法侵入者』っていう意味でいえばお互い様ね」

自分で言って、あちゃーと一本取られたとケタケタ笑う女。

「じゃあ半分だけ答えたげる。別になにもしてないわ。ここで静かに暮らしてるだけよ」

存外素直に答えてくれたが、肝心のマオーについての質問には答えない。しかもただ暮らしてい

るだけとは考えられない。それはプリエムとエドガー同様で様々な思考を張り巡らせていると

ねえんと口調が突然変化した女が3人に改めて問うてきた。


「こっちはあ、素直に答えたのだからあ、さっきの質問に答えてよおん?ギブアンドテイクでしょおん?」


甘ったるい声と邪悪な笑顔が相まって3人の表情が引きつる。思わず身構える。

「…まあ、どっちでも同じことねえん」

最初から答えなど期待してなかったかのように、女は胸元からマジックカードを一枚取り出した。


「!!?それ以上動くな!」


エレノアは思わず叫んだ。宙に浮く魔術書を開く。冒険者である以上、マジックカードの危険さは心得ていた。

どんな魔法を発動されるかわからないから必死で止める。敵かもしれないならなおさらだ。

しかし女はどこ吹く風でマジックカードを握りつぶそうとした。

「!?多重魔法弾マジックショット!!」

エレノアの前に魔法陣が発生し、青色の多量の礫が女に高速で向かう。

「せっかちねえん。攻撃魔法じゃないから安心してよん?」

女はエレノアの攻撃を無視してマジックカードを握りつぶした。結果エレノアの魔法は女に全弾命中したが

「なっ!!?」

無傷だった。咄嗟に放ったから低位の魔法だったが、無傷などあり得ない。同じ低位の魔法でも高位の魔導士と低位の魔導士では威力に歴然の差がある。そしてエレノアは高位の魔導士だ。星天術士スターフィクサーになれるものなど数えるほどしかいないはずなのに。

3人が驚愕していると島に再度結界が発生した。女が使用したマジックカードの効果であろう。


「さて。これで外敵対策はオッケーねえん。それじゃあ『ベルゼブブ』ちゃーん出番よー!」


女が手をぱんぱんと叩くと女と3人の取り巻く背景が一瞬でかわった。



「なんだこれ…!!?」


「…ええ!?」


「………!?」



さらに動揺が走る3人だった。女はそんな様子を見てケタケタと笑う。

しかし3人が動揺するのも当然で、さっきまでのどかな草原だったのに、例えるなら暗黒のような空間に変わった。

地面もぶよぶよとした湿気のある肉みたいな感じになっていて気持ち悪い。奥に見える壁のようなものもグネグネ動く

気持ち悪い肉のようなものでできている。

ところどころ触手が生えてうねうねしている。気色悪い、気味が悪い、気持ち悪いが合わさったような空間に突然女を含む4人が転移したのだ。



「それじゃあ、殺しあいましょ?」


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