25,肉〇器と呼ばれていた自動人形(オートマタ)。
孤児院。
「私を助けた以上、あなた様は私の主人になる義務があります」
数日たち、すっかり傷がいえた自動人形は銀髪の男にそういう。
エプロンドレスと大きなリボンも新調した身ぎれいな少女。ぼさぼさだった髪もきれいなブロンドのポニーテールになっている。
だが体中にある縫い傷が治ることはなかった。
本人曰く、そういう仕様らしい。いわば前主人の趣味というわけだ。
ともあれ。
助けられたのになんで上から目線なんだと思ったが、まあいいかと飲み込む。
「主人うんぬんはとりあえずとしてだ、まず名前を聞こうか?俺はマオー、お前は?」
マオーがそう問うと自動人形が首を傾げる。
「前主人が私に付けた名称という認識でよろしいでしょうか?」
マオーはなんか嫌な予感がしたが、とりあえずそれでいいやと答える。
「肉〇器と呼ばれていました」
嫌な予感が的中したマオーは手で目を覆う。舌を切り落としたことといい、前主人とやらは
凌辱趣味があるらしい。
「やっぱその名前は忘れろ。あと前主人のこともな」
マオーの言葉に無表情のまま答える自動人形。
「承服しかねます。あなた様は現時点で私にとって何者でもなく、命令されるいわれはありません」
それは遠回しにマオーに主人になればいうことを聞くと言ってるかのよう。
「あーわかったわかった、俺が主人でいいから」
マオーがやれやれと言った感じで手を振る。
「言質を取りました。それでは我が主人私目にお名前を授けてくださいませ」
途端うやうやしくする自動人形。自動人形なのに現金なやつだと思いながら名前を考えるマオー。
そういえば名前を付けるのは久しぶりなきがする。拾ってきた子供も大抵は既に名前を持っていたし。
いざつけるとなると難しい。
「そうさな…。イズベル…としようか」
ひねり出すように口にしたマオー。
「…イズベル。認識しました。よろしければ理由をお聞かせ願いますか?」
自動人形なのに名前の由来が気になるのかと思ったマオーだったが、生きようとする意思のある自動人形
なのだから別に不思議じゃないかとも感じた。
「お前を創造した魔竜のミドルネームからとった。まあまあいい名前だろ?」
マオーはそういったがイズベルは無表情のままだった。自分で聞いておいてその反応はないだろと思った
マオーだったが、ただなんとなく、気に食わないとという空気を感じ取ったマオーは
「なんだ?気に入らないのか?」
と問うと
「…いえ、認識しました。我が主」
と無表情のまま答えるイズベルだった。
マオーの感じたイズベルがイズベルという名を気に食わないというのは間違っていなかったようで。
イズベルを他の子供たちに紹介するときに
「お初にお目にかかります。私目の名前は肉べ…」
と言いかけたので、マオーがスパコーンと頭を叩き言い直させた。
「…イズベルと申します」
渋々そう言い直すイズベルだったが、懲りずに何度も繰り返した。マオーは違う名前に変えたほうがいいかともおもったが、かんじんの気に食わない理由を教えてくれなかったしマオー自信イズベルという名を気に入っていたから。
そもそも名付けてくれと言っておいて気に食わないとはどういう了見だと、自分から名前を変更してくれと言わない限りほおっておくことにした。
そんなこんなで数日後。
イズベルが孤児院に来たことで意外なところで問題が生じた。
「…あれ?」
この日もヴァニラとの夕飯支度係勝負に負けたマオーが炊事場にいくと、いつもいるはずのキクコがいない。
いつだってマオーより先にきて夕飯の準備をしていたのに。
まあ、子供なのだから遊びとかそういうのでいない可能性も考えられる。ただいつもいるはずなのにいないのは
きになる。
心配になったマオーは孤児院内を探したが、どこにもいなかった。
「エル。キクコを見なかったか?」
キクコと仲がいいハーピイのエルーシャにきいてみた。まあエルーシャは天真爛漫で誰とでも仲がいいのだが。
「んー。なんかイズベルと話してたと思ったら急に寄宿舎からでていったよー?」
不思議そうにそう答えるエルーシャ。…なんとなくだが想像がついた。
ありがとうといい、寄宿舎から出るマオー。
農場を探していると、丘にちょこんと膝を抱えて座っている妖狐がいた。
白い割烹着、金髪超ロング、三角巾を頭に巻いており獣耳がはみ出している。三本の立派なモフモフのしっぽを生やしている。
「こんなところにいたのか。心配したぞキクコ」
ちょこんとすわるキクコの隣に座るマオー。するとすす、と距離を少し話すキクコ。
「…なあ、なにがあったのか教えてくれないか?」
俯いているキクコの顔が少し見えた。目が腫れている。すごく泣いたあとにできるような感じだ。
「…ご主人は…浮気者です」
マオーは心当たりがあり過ぎてなんとも言えない気持ちになった…いや、今はそういうことではない。
…まあ、なんか本当に予想通りとなのかと思ったマオーはキクコに問う。
「もしかして、イズベルのこと?」
それを聞き、キクコは頷く。
「…ご主人が誰を好きになっても、誰を愛しても、別に構わないです。…ただ、私だけの『ご主人』
だと思っていたのに…ご…す…じん…あーん!!!!」
話すうちに感情が高まってしまったのか、泣き出してしまうキクコ。
つまるところ、イズベルがマオーの事を主人と言ったのを聞いて現在に至ったのであろう。妖狐の
主従関係とはかくも重いものなのか。従者なんて複数人いてもおかしくないと思ったが、まあそういう
種族特性なら仕方ない。
脇で泣いているキクコをどうしたらいいのかわからないマオーはとりあえず、泣き止むのを待つ。
ここで抱きよるとかそういうのは違う気がする。浮気者とかいわれているのだから逆効果まである。
泣きたいときは気が済むまで泣けばいいのだ。話はそれからだ。
しばらくたち。
「少し落ち着いたか?」
マオーがそういうとキクコはこくりと頷いた。
「それじゃあ話すけど、キクコはそもそも勘違いをしている」
マオーの言葉にえ?と反応するキクコだが、何をいっても騙されないぞと言わんばかりにプイと顔をそむける。
「まあききなよ。そもさんイズベルと俺は主従関係ではない…嘘じゃないぞ?ちゃんとした理由もある」
信じないぞと思いながらも、どこか期待もするような表情を見せるキクコ。
「兄妹関係で主従なんて成立しないだろう?そういうこった」
いきなりの爆弾発言にキクコはこれまでの思考が吹っ飛び、えええ!!??と仰天する。
「ご、ご、ご、主人とイズベルさんって兄妹だったんですか!?自動人形なのに!?」
みんなには内緒だぞ、当然イズベルにもだと反応するマオー。
「まあ当たり前だが血は繋がっていない。イズベルを創造したミズチ・イズベル・グララという魔竜
は俺の育ての親でもあるんだ。つまり俺にとってイズベルは妹といえる」
マオーは続ける。
「自動人形という特性上、主人というのが必要であるからイズベルはそう言ってるが本質は違う。
主従関係でなく実際は兄妹関係というわけだ。…納得したか?」
聞き終えたキクコはまたしても大粒の涙を流しだした。
「うわーん!!ごめんなさい!!ごすーじーん!!!疑ってしまってー!!!わだしは従者失格ですー!!!」
再び泣きじゃくるキクコを見てマオーがキクコを抱きかかえる。
「!?………ごすじん」
「失格かどうかは俺が決めることだろ。勝手な従者だなー」
キクコを抱きかかえながら寄宿舎へと歩き始めるマオー。
「…ご主人、あの、ちょっと、恥ずかしいです」
そう赤面するキクコ。
「俺は別に恥ずかしくないから」
「…やっぱり女ったらしです」
ーーーーーーーーー
職員室。
「我が主ご命令を申しつけてください」
イズベルがマオーにそう乞う。
「だから他の子らと遊べって。それが命令だ」
聞き飽きたようにうんざりするマオー。
「それでは、職員室の清掃を実施させて頂きます」
そそくさと掃除を始めるイズベル。だったら最初から聞くなよとため息をつきながら箒を持ったイズベル
を見るマオー。
まあ、自分がそうしたいのであればそれでいいかとも思い事務作業を続けるマオー。
(そろそろ収穫した野菜と畜産物の余りを出荷しないとだな…、雀の涙とは言え冒険者業以外の収入は
重要だ)
いずれ冒険者業から足を洗うためにも、わずかでも一次産業の収入を増やしていきたいと思うマオー。
ただ、その道のりは遠い。
「我が主。お金が必要であれば僭越ながら私に出稼ぎをご命令ください」
いつの間にかマオーのそばにイズベルが立っていた。
収支表を見ながら渋い表情を見せるマオーを見て色々と察したのであろう。
「あー、子供はそんなこと気にするもんじゃない。…まあそんなに手伝いたいなら明日から牧場の作業を一緒にやるか?結局ローズマリーに頼っちゃってるからなー」
ローズマリーというのは孤児院の子供の一人でミノタウロス種の女の子だ。発育が早く人間でいう12歳くらいの見た目をしていた。大の動物好きで自分から牧場の仕事を率先してやってくれている。マオーが別にやらなくていいのにといっても『好きでやってるからー』と返されるだけだった。
こいつといい、キクコといい、ローズマリーといい、とかく働き者が多い。悪い事じゃないがもっと勝手でいいのになあ。
「牧場の作業は私も参加させていただきます。ただ大変非効率だと考察します。『街で私を活用』すればもっと短時間で効率的に資金を得ることができると提案します」
…街で私を活用。いやな予感がしたがとりあえず聞いてみる。
「娼館というところで…」
あー、あーとイズベルを制止するマオー。
「どこの世界に自分の子供を娼館で働かせて喜ぶ親がいるんだ。…まあ中にはいるだろうけどな。とにかくお金のことは俺にまかせなさい。子供が余計な心配しない」
ここでようやくイズベルの表情に変化が生じたようなきがした。マオーは書類をまとめたちあがり
イズベルの頭をポンポンと撫でる。
「しかしながら私は我が主に多大な恩があります故、それを返していかないといけません」
殊勝なかんがえだがそのわりには名前が気に食わないとか反抗的な態度が多いなと思うマオーだったが
こういうタイプは今までいなかったので新鮮と言えば新鮮だった。
「しってるか?恩てのは必ずしも返さないといけないってわけじゃないのさ。そもそもお前は
ここにいるだけで俺の役にたっているしな」
そう笑うマオーに不思議そうな顔を見せるイズベル。
「…理解しかねます。単に私を愛でて楽しんでいるという認識でよろしいでしょうか?」
必ずしも間違っていないが、すごく嫌な言い回しにマオーは頭をかく。
「…たく、可愛げがあるんだかないんだか。…しかしある意味働きたいっていうお前に対して遊べっていうのもそれはそれで強制だったと言えるな…まあいいや、明日から忙しいぞーイズベル」
そういい職員室を後にするマオー。
「…」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
孤児院、深夜。
マオーの寝室のドアをトントンと叩く音がした。孤児院の仕事を終え、気分良く黒ひげを煽っていたマオーはほろ酔い気分であいよーと扉を開ける。
「夜分に失礼します。我が主」
イズベルだった。ちょこんと扉の前にいるエプロンドレス。無表情。
「どうした?」
孤児院のこどもが寝付けなくてマオーに添い寝を頼みに来ることは珍しい事ではなかったが、自動人形のイズベルがそういう事で来ることはないと思いそう質問するマオー。
「入室してもよろしいでしょうか?」
質問に答えず、そう問い返すイズベルに?と思いながらもまあいいかと招き入れるマオー。
「まあ座れよ」
マオーはベッドに座り、部屋にある椅子にイズベルを座るように促したが立ったままでいるイズベル。
「…私が我が主に尽くしたいと考えている理由は、恩を返したいだけではありません」
一瞬なんのことかと思ったが、ああ、昼間の事かと思い出すマオー。
「それで私なりにできることを考察して実施してきたつもりでしたが…全くもって理解不能ですが我が主曰く私がただいるだけで我が主のお役に立っているそうで」
働きたい理由が恩を返したい以外に理由がある。ほおと興味がわいたマオーはベッドの脇に置いてあった黒ひげをグラスに注ぎ、それを飲みながらイズベルの次の言葉を待つ。
「であれば…我が主は私に対して『報酬』を支払う義務があると要求します」
無表情でそういうイズベルにマオーはぽかんとした表情を一瞬見せる。
「…ははは!ようやく『らしく』なったじゃあないか。いいぞ、いいぞ。子供は図々しいくらいがちょうどいい。できる範囲でなんでも買ってやる。何が欲しい?」
ぽんぽんと自分の膝を叩き愉快そうに笑う主人に対して、言葉通りに理解不能といった表情を見せるイズベル。
…前の主人とは全く違う。
「それでは…私目を『抱っこ』してくれませんか?あのときのように」
予想外の要求にマオーはまたもぽかんとしてしまう。あの時というのはイズベルを『奈落』から助けた時のことだろう。
「そんなんでいいのか?」
「そんなんでいいです」
変わらず無表情のイズベルにわかったよと手を広げ手招くマオー。
「…」
しかし動かないイズベル。どうしてほしいか察したマオーは立ち上がりイズベルに近づく。
「よっと」
あの時のように御姫様抱っこをする。
イズベルを抱きかかえたまま、再びベッドに腰かけるマオー。
「これで満足か?お姫様」
そう冗談ぽくいうマオーに無表情のイズベルが若干赤くなるのを感じた。
「…我が主、私の名前のことなのですが」
イズベルが若干気まずそうにそう口に出すと、マオーはいいよいいよと遮る。
「好きじゃないんだろ?俺もちょっと意地になっていた。お前が気にいる名前考えなきゃな」
機嫌よさそうに話すマオーにばつが悪そうにするイズベル。
「…私は創造主の名前ではなく、我が主の考えた名がほしかっただけです…」
ああー、そういうことねと頷くマオー。
「だが言葉を返すようで悪いが、ちゃんと考えたぞ?お前の創造主、ミズチ・イズベル・グララは
俺の育ての親だ。…実の母のように想っていた。そんな人の名だからこそお前に付けた」
衝撃の事実に流石の自動人形も目を見開いた。
「…私目は従者失格ですね」
自動人形は後悔した。創造主の名だからと安直につけられたと思ってしまった自分に。
「…この流れもうやったぞ。とはいえじゃあイズベルのままで問題ないのか?」
マオーの問いに頷くイズベル。
「たとえこの身が朽ちたとしても、イズベルという名を誇りにすることを誓います。我が主」
そんな重く考えなくてもと、苦笑いするマオー。
「我が主」
「なんだ」
「このまま眠ってもよろしいでしょうか?」
「…ああ、一晩中つきあってやるよ」




