23,売女と銀髪の出会い。
ダーフォンのとある劇場。普段は演劇や演奏を披露する舞台で住民の娯楽の一つとなっている。
そこで一人の女が踊っていた。
観客席には人っ子一人いなく、後ろで演奏をする人もいない。
がらんどうになっている劇場の舞台で舞う女。
ピンク色の腰まで届くロングヘアー、グラマラスな体系で露出度の高い踊り子の衣装を着ている。
褐色の肌で美人と言える。自分一人だが笑顔は絶やさない。
彼女の名はローニャ・ガーディニア。
鉄扇を両手に広げ、華麗に舞う。
文字通り、蝶のように舞い、鉢のように刺す。それを具現化するような踊りだった。
踊りがおわり、ビシッとポーズを最後に決めるローニャ。
「相変わらずお前の踊りは素晴らしいな」
いつの間にか最前列の席に一人の男が座っていた。
銀髪の無造作ヘアーでスマートだがしっかりとした体、端正な顔立ち。軽装でショートソード二本を隣の席においていた。
彼の名はマオー。
ぱち、ぱち、ぱち、とゆっくり拍手をしている。
「なによ、まだいたの?もう出発してたと思ってたわ」
いつもの間延びした口調ではなくなっていた。だが笑顔は絶やさないでいる。
「お前の魅力的な踊りもしばらく見れないからな。プチ見納めってやつだ」
心にもないことを。内心そう思っていたが不思議とこの男に言われると悪い気はしない。
「…はあ、気が散るからいなくなってくれない?休日とは言え劇場貸切るのも結構お金がかかるのよ」
ローニャは劇場が休日の時、踊りの修行のために劇場を貸切ることがあった。普段は外で修行する
ことが多いが、たまに誰もいない劇場で集中して踊ることが好きだったからである。
「俺がいるくらいで集中できないなんて修行が足りてないぞ?そんなことでは次の領域へはいけない」
ああ言えばこう言う。別に集中できるとかできないとかではないのだけど。ただ一人で踊りたいだけだ。
冒険者は個々で修行や鍛錬をすることがほとんどだが、ある程度経験を積むとそれをさぼりがちであった。
理由は依頼自体がすでに修行のようなものであり、自然と鍛えられるからである。それと冒険者は
単純にクズが多かったから。
大金のために命を顧みない仕事、えてしてクズが集まりやすい。
しかしローニャは修行を怠ることがなかった。
ある強い目的があったからである。
「いいから続けろよ」
マオーがニヤニヤしながらいうとはあとため息をして、気にせず踊りを再開した。
しばらくして。
自分のレパートリーを完走して満足したローニャ。汗だくになっている。
「いやいや、満足したよ」
またもやゆっくりと拍手をするマオー、今度は席を立ち舞台に上がりローニャに近づいてくる。
「…!…ちょっと、こういうことは湯浴みしてからにしてよ」
汗だくのローニャに抱き着くマオー。
「『だから』いいんじゃないか。んんーいい匂いだ」
マオーの息遣いがすぐわかる。
「…この変態!」
まさかこれが目的で最後まで踊りを見ていたのだろうか。
「これからどうだ?しばらく会えないんだから付き合えよ『現地妻』の役割だろ?」
ローニャがばんとマオーを突き放す。
「どうせ断っても無理矢理連れてくんでしょ!?お風呂入ってからじゃないと殺すわよ!」
がるると唸るローニャにはいはいと肩をすくめるマオーだった。
ーーーーーーーーー
過去。
グロムフェルムという街で冒険者が殺される事件が多発していた。
力天級以下の男性冒険者が狙われていた。しかしこの事件は風変わりな共通点があった。
死体から何も取られた痕跡がないのだ。
ただただ殺されているのである。無差別殺人なら力天級以下冒険者だけ狙うのはおかしい
し快楽殺人としても同様だ。
もう一つおかしい点として。
どの冒険者も単独で殺されているのだ。ここまで騒ぎになっているのだから単独行動は控えている
はずなのに、結果一人で殺されている。
当然、殺人鬼として指名手配されていたがそのうち捕まるだろうと、力天級以下の冒険者以外にとって
はさして興味がなかった。
所詮は他人事である。
閑話休題。
クロムウェルは娯楽施設が多い街だった。カジノ、歓楽街、遊技場、闘技場…あらゆるものがそろっていた。
そして娼館も。
一口に娼館といっても様々な形がある。
普通に並んで座っている娼婦を指名するところもあれば、ダンスショーをしている娼婦を眺めながら食事をし、気に入った娼婦がいれば指名するところもある。
ローニャ・ガーディニアは後者の娼館で働いていた。
ローニャは娼婦にはなかなかいない美人な見た目をしていたので、踊らずとも指名をとれていたのだが踊ることをやめなかった。それはローニャにとって踊ることが本来の目的であり、娼婦としては短時間で大金を稼げるという手段でしかなかった。
この日もローニャは一心不乱に踊り続ける。何かにとりつかれたように。
「ローニャさん、指名が入りました!」
ボーイがダンスが終わったローニャにそう話しかける。なにやら機嫌が良さそうだ。
「…ローニャさん、今回の客は金払い凄くいいですよ?サービスしてあげてください」
ひそひそ声でチップを見せるボーイ。
くだらないと思った。例えかね払いが良かろうと悪かろうと相手する回数が2,3回変わるだけのことだ。
それだけ。…まあ、あまりに淡々としていると美人とは言え、指名が入らなくなるのでそれなりに愛想は振りまく。
「指名ありがとうございまーす。エルミ(源氏名)でーす」
笑顔でローニャがそう挨拶をすると指名した男を見て少し驚いた。
「おう、よろしく頼む」
銀髪で端正な顔立ち。体格もよくいい男と言える。娼館など利用しなくても女に困らないようには見える。
むしろ女に貢がせていてもおかしくないほどだ。
しかし娼館が趣味の男もいるし何事も例外はあるとローニャは深く考えることをやめた。
「じゃあ、こちらへどうぞー」
そう笑顔で個室に案内するローニャだった。
個室。ローニャは人気嬢であったため比較的豪華な部屋があてがわれた。人気のない嬢は悲惨でくたびれた部屋しか貸してくれない、結果より指名が貰えなくなる。負のループ。
ローニャが男の服を脱がそうとすると
「いや、今日はそれ目的で来たわけじゃない。…ああ金は勿論払うよ。ほれ」
男は金貨を数枚ローニャに手渡す。大幅に色が付けてあるが怪訝な表情をしてしまう。
それ目的じゃない。それ目的でくるのが通常なのにそうではないのだ。
つまりろくでもない理由の可能性がある。
「そう警戒するなよ…って言っても無理か。じゃあ、本題といこう。最近ここで起きている『冒険者狩り』お前の仕業なんだろ?」
ローニャが一瞬止まった。だがすぐ気持ちをきりかえ
「やだなーお兄さん、こんな華奢なあたしにそんなことできるわけないじゃないですかー」
と男に返す。
すると男は懐からマジックカードを取り出しそれを握りつぶした。その後ボンと水晶のようなものが
現れた。
それは男の手の上に乗る。
「これは記憶の水晶という。まあ映像を保存できる魔法道具さ」
ローニャは戦慄する。その水晶にはローニャと冒険者が写っていて、その冒険者を殺すところまで
鮮明に移されていた。
「さて。これをギルドに持っていけば、お前の冒険はこれで終わりとなるのだが………おっと!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」
ゴトンと水晶が落ちた。
ローニャは隠し持っていた千本を両手に持ち、男の首を刺そうとしたがそれはかなわなかった。
両手を掴まれピクリとも動かせない。
「思い切りがいいな。だがこれでわかったろ?お前に俺は殺せない」
男がそうにやりと笑う。
「お゛らあああ!!」
男の股間を思いっきり蹴り上げた。通常の男であれば悶絶であろう。だがこの場合悶絶するのは
女の方だった。
「!!!!??あ゛あ!?」
脛に激痛が走る。まるで鉄でも蹴ったかのよう。ここで男はローニャを解放した。ローニャは咄嗟に
後ろに離れ、脛をさする。
「少しは冷静になったか?男が全員金的が弱点とは限らない。…まあそんなことはどうでもいいが。
じゃあ取引といこうか」
落ちた水晶を拾う男。ポンポンとそれを弄ぶ。
「…なにが目的よ。金?」
男の目的がわからない。ただ殺せそうにない。かといって水晶をギルドに渡されたら自分が殺される。
ローニャの頭はこの危機をどう切り抜くかでフル回転されていた。
「簡単なことさ。俺の質問に2、3答えてくれるだけでいい。前払いだ」
そう男が水晶をローニャにポンとなげた。ぽかんとするローニャ。
「…意味がわからないわね。ここであたしが逃げたり嘘つくとかかんがえないわけ?」
ローニャがそういうと男はまたカードを握りつぶした。
「審判の魔法を発動した。これでもうお前のうそは看破できる。あとこの状況で
逃げるほど馬鹿なら俺の見込み違いだったと思って諦めるだけだな」
男の言うことはもっともであった。仮にここで逃げ切れてもこの男には知られているのだ。他にも
証拠をつかんでいるのかもしれない。ならば逃走という選択肢は愚行と言える。そもそも圧倒的
実力差も見せつけられているのだ。逃げ切れるという考え自体がアホだ。
「得心したようでよかったよ。じゃあ最初だが、なんで冒険者を狩っているんだ?」
そういって男はベッドに座った。ローニャは男と距離を保ったまま答える。
「…狩っているというよりは、力試しが目的よ。あたしは娼婦をする傍ら、殺しの技術を磨いている。
理由はある男に復讐するため」
男がどうしてこんなことを聞いてくるのかわからない。しかもこんな手の込んだことをしてまでだ。
だが素直に答えるしかない現状。
「なるほど。それであそこまで踊りが洗練されていたのか。死体からなにも盗らないのも納得がいく。
男の冒険者をねらっていたのは一人にしやすいからか?」
そうよとローニャが答える。
「ちょっと誘惑したらホイホイついてくるからちょろいものね。わかれた連中もまさかあたしみたいなのに殺されているなんて思わないだろうしさ」
ふむふむと、満足そうに頷く男。目的は見えないがとりあえずローニャをギルドに突き出すようなことは
かんがえてなさそうだ。
「それで?復讐できる力は身についたのか」
男の問いに、ふうとため息をするローニャ。
「…残念だけどまだまだ足りないわね。あの野郎だけを殺すだけなら可能だろうけど、ガードが堅いのよ。常に護衛が何人かついているわ。…それにあの野郎を殺すだけじゃまるで足りない…あの屋敷で見て見ぬふりをしていた連中も全員八つ裂きにしてやる。…そのためにはまだまだ力が足りない」
話していると復讐の炎が心の中で燃え上がる。奴らをなぶる画を想像するだけで、どんな苦境も耐えられる。
どんな醜い男の相手だってできる。
自然とローニャは憎悪に満ちた表情になっていた。それを見ていた男が口元を歪ませる。
「質問は以上だ。無事取引終了だな、まあ元から騒ぐつもりは無かったが」
そしてここからが重要だと男が続ける。
「俺の名はマオーという。これから冒険者になる予定なんだがその仲間を探している。一人でやってもいいんだがそれは『不自然』らしいからな…お前、俺の仲間になれよ」
マオーと名乗る男の発言にはっ!と鼻で笑うローニャ。
「なんであたしがあんたなんかの仲間にならなきゃいけないのよ。下っ端の冒険者なんかやるよりここで
娼婦やっているほうがよっぽど楽に儲かるわ」
ローニャは復讐のために強さ以外にも金が必要だった。いい装備や道具、マジックカードをそろえるために。
ローニャは人気嬢なので良客が多かったため下手な冒険者より収入があった。
「俺と組めば座天級までは約束するぜ?そのあとは…まあ状況によるな。それと俺がお前を鍛えてやるよ。こんなところでケチな冒険者を相手したところで今ぐらいがお前の頭打ちだ」
マオーの言葉にローニャが固まる。座天級といえば超一流の冒険者だ。そんなことをまだなってもいないくせに軽く約束する男。だがローニャ自体、自分の実力が伸び悩んでいるのは感じていた。
「一つ聞くけど、なんであたしをさそったのよ」
座天級かどうかはともかく、この男は少なくとも自分よりは強い、それもかなり。しかも見た目もいい。
自分なんかわざわざ誘わなくても、ギルドに行けばいくらでも仲間などできるだろうに。仮に美人の女が
目的でも自分くらいの見た目の冒険者だっているはずだ。
「お前の踊りは特別な意思を感じられるいいものだ。それが復讐心からきているならなおさらな。最初は興味本位で冒険者狩りを調べていたんだが、思わぬ拾い物をしたよ」
ローニャは少し戸惑う。目の前の男は冒険者を殺していることや復讐を生きがいにしている自分になんの蔑みや嘲りもなく評価している。そもそも娼婦という決して印象の良くない生業をしているにもかかわらずだ。
「…まだ仲間になるって言ってないわよ」
『思わぬ拾い物をしたよ』ともうすでに決まったかのように話すマオーにとりあえず反抗したが…
心は揺れている。
「そうか?じゃあ考えてる間に一発抜いてくれ。金ははらってるんだしな」
そういいながらベッドの上で仰向けになるマオー。ズボンを脱ぎ、ぶるんと猛りきった竿があらわになった。
それを見たローニャがわなわなとした後。真剣に考えていた自分がアホらしくなり
「わかったわよ!そのかわり条件があるわ!」
とさけんだ。
「あたしの復讐は絶対に邪魔させないわよ!!できる力がついたと思ったらすぐ決行するし、一切手出し無用!!」
それを聞いたマオーは不思議そうな顔をした。
「当たり前だ。お前の復讐劇はお前だけのものさ」
本来であれば心を打たれる発言だとローニャは思ったが、下半身丸出しなので台無しだった。
「ところで」
「なによ」
「さっさと抜いてくれよ」
「一人でやってろ!!ばか!!!」
すったもんだの後。
「俺も条件を二つつけさせてもらおうか」
とマオーが二本指を立てる。なによとローニャが返すと
「いつも笑顔でいろ。それと少し頭の弱そうな女を演じたほうがいいな」
といった。
「なにそれ。あんたの趣味?」
やれやれといった感じの表情を見せるローニャ。
「アホか。辛気くせー顔で踊ってたらせっかくの踊りも魅力が下がるだろ?常に笑顔を意識する癖をつけろ。あとアホな子を演じることで男を油断させさらに誘惑しやすいように。色香は女にのみ許された重要な武器だからな」
「………」
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現在に戻る。
「…いくの?」
ベッドから降りて服を着替えだすマオーにローニャが話しかけた。
「ああ。今度は3か月後くらいか。その間二人を頼むな」
表向き、ザインが副リーダーということにしていたがマオーはローニャを影の副リーダーとしていた。
理由は単純に二人より強いし、頭も回るからである。ただそれは二人も知らない。
ローニャの本当の性格も強さも。
「あたしは割り切ってるからいいけど、レニのことはどう思ってるの?少しは相手してあげなよね」
ベッドに寝ながらそう問うローニャ。
「してるよ。だてにクズ男をやっていない」
そんなことを返すマオーの背中を見て、はあーと深くため息をつく。
「なーんでこんなのに惚れちゃったかねえ、あたしもレニも」
「お前こそ随分レニの肩を持つんじゃないか」
普通なら恋敵のはずなのに。
「エルフだからあたしよりずっと年上なんだろうけど、なーんかあんな妹がいたらいいなーって思って見っちゃったり」
着替え終わったマオーが部屋から出ようとする前。
「そういう考えは危険だな、いざというときに切り捨てることが出来なくなる。目的を達成するまでは
死ねないんだろ?」
そうローニャに忠告した。
バタンとドアが閉まった後
「…わかってるわよ、そんなことぐらい」
そうふうとため息をつく。
さておき。
「マオーが囲っている孤児院かー、いつかいってみてみたいなー」




