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2,魔界孤児たち(魔人属、ネムの場合)+冒険者としてのマオー

くたびれた職員室。古ぼけた木製の机で帳簿を見ながら顎に手を当てる銀髪の男がいた。

(結局冒険者としての収入で9割賄っている状態だなあ…牧場と農場の収入で完全に運営していく

のは現状、夢のまた夢ってか…さっさと冒険者から足洗いてえなあ)

溜息をつきながらふと横に目を向けると、机にちょこんとすわり本を読んでいる少女がいた。行儀が悪いと注意すべきだがこの子はそんなことがわからないほど馬鹿ではない。幸いこの部屋には自分と少女しかいない。思いながら帳簿に目を戻す。

 (正直自分が冒険者業が嫌いで。牧場とか農場をやっているのが好きなだけで。要は自分の我儘なだけだ。

冒険者業をやっていくこと自体は容易だし、好き好んででこのこらを養っているのでそれぐらいはやるべきだ。施設運営を手伝ってくれているヴァニラの給料も少しづつでも上げてやる必要もあるしで。ヴァンパイアは気まぐれなのでいつ突然いなくなるかわからないから…そもさんなんであいつはいつまでもここにいてくれるんだ?)

「ねえマオー、一つ聞いていい?」

いろいろと考え込んでいたマオーに少女が問いかける。マオーは珍しいなと思いながら少女に顔を向ける。

鮮やかな紅い髪と吸い込まれるような黒い瞳。無垢ではあるが無表情なそれは、マオーはたまに気味が悪いと思わないところもなくはなかったが、基本的には可愛らしい少女である。マオーは珍しいと思ったのはこのような事務仕事をしているときに少女はマオーに声をかけることはほとんどなく、ただそばにあるだけであった。

マオーにとってはただ自分のそばにいてなにが楽しいんだろうと思わなくなかったが、仕事の邪魔をしなかったので特になにかいうこともなかった。

「いいよ。かわりに机から降りて、ネム」

こくりと頷き、椅子に座りなおすネム。ちょうどいいと思って交換条件としたがまさかこれを狙っていたのかとおもったが、考えすぎであろう。

「なんでわたしたちみたいの拾って育ててるの?」

マオーはフリーズした。ここまでクリティカルな質問をされたのははじめてだ。現在魔界は戦争中であり、魔族の孤児が大勢いる。マオーはその一部を保護し、この孤児院にて養っているのだ。無論孤児なので無償である。

考えてみればその疑問も当然で、魔界と戦争中の竜国ドラゴンキングダム。魔界の孤児が増えている元凶。名前の通り竜族が集まる世界なのだが、マオーはその竜の血がながれている。そう思えばこの疑問が投げかけられるのは当然と言えば当然だが、マオーはそれでもフリーズしてしまう。

それはつまり。

(…単に趣味なだけです)

不純な動機だからであった。

いや趣味だから不純ではないのであろうが『子供を拾って育てるのが趣味です』こう文字にするとなんともあれではないか。多分ネムはもっと高尚な理由があるとおもって聞いているのだろう。かといっておそらくもっともらしい嘘を言ったとて、この子は看破するであろう。なんとなくであるがこの子はそういうのを見抜くタイプだ。

ならば答えを言わず、考えさせるという選択肢をとる。これはこれで卑怯といえなくもないが、こんなことを聞いてくるネムサイドにも問題はある。子供は無邪気であればそれでいいのだ。

「それは答えない…答えられないと言ったほうがいいか。一言で答えられるほど事は単純ではないし例え話したとて理解できない。これはネムを馬鹿にしているわけではなくて。ある程度成長していけば自然と答えが見えてくる…それがこたえかな」

自分て言っていて何言ってんだこいつはと思うマオーだった。いっそ正直に話すかもっともらしい嘘ついたほうがまだよかったんじゃないかと後悔が押し寄せてきていたが、一方のネムは得心した表情で目をキラキラさせていた。

(…騙せた?まあネムも子供だから、俺の取り越し苦労か)

「マオー。あたしお勉強してくる。バイバイ」

とてとて職員室から出ていくネム。これまた珍しいことだった。マオーに言われるまでマオーのそばから離れないネムだったが、自分からいなくなるのは初めてだった。

…それはそれで少し寂しい。

と思いながらも一方でそれも成長なのかと一人ごちるマオーであった。

これ以降、ネムは病的といえるほどに文武ともに励むようになる。



都会とも田舎ともいえない中途半端に栄えた街にある冒険者ギルド。

冒険者にとって冒険者として認定を受ける場所であり、依頼を受ける場所であり、冒険者同士で飲みながら情報交換する場所である。そして自分とともに冒険をする仲間を求める場所。

ギルド内の酒場。端にある4人テーブル席に一人で座っている銀髪の青年がいた。

昼間なのであまり人がいないので問題ないのだろう。

軽装で二本のショートソードを腰にぶらさげている。戦士というよりは剣士という出で立ち。

カラフルな指輪をいくつもはめている。

(やはり人の作る酒はうまいなー。なんていうか…丁寧な味だ)

黒ひげと呼ばれる茶色の蒸留酒をぐびぐびと煽る。ボトルがすぐに空となった。

「おーい。お姉さん。ボトル追加してくれないか」

銀髪の青年がメイドっぽい服を着た女性に声をかける。

「マオーさん!いい加減メルって呼んでくださいよ!おねーさんじゃありません」

美人というよりは可愛いと言ったかんじのメルは頬を膨らませながらマオーにつかつかと近づく。

「そ、れ、に!昼間っからこんなに強い酒がぶがぶのんでいいんですか!これから仕事じゃないんですか!」

空になったボトルをマオーの前で左右に振るメル。

「あー…、メルさん。青い髪がキュートなメルお嬢さん。次のボトルで終わるからどうぞ恵んでやってください」

マオーが手を合わせてお願いすると

「もー、これで最後ですからね!」

言いながら厨房に戻ったメルだったが、先ほどとは打って変わってなぜか上機嫌そうだった。

マオーは深くため息をついた。とんでもないレベルで余計なお世話だとおもったが、なるほど。たしかに

人間の中では相当度数が高い酒なのだろう。それを素面で飲み続けるのは…目立つか。一応感謝しつつ

次にきたボトルをチビチビ飲むようにするマオー。

(しかし店員なんだから黙って酒持って来ればいいのにな。踏み倒したことなんてないのに…つくづく

ようわからん)

少しでも長く味わえるようにこんどはロックで楽しむ。グラスをカラカラとさせる。

どすん!といきなりマオーの前に行儀悪く腰を掛ける大柄な男が現れた。グラスから多少の酒がこぼれる。

全身鎧、グレートソードを背負っている。無骨な表情でマオーを睨みつける。

「…なにか用ですか?」

大男にとくに何と言った感想もないといった表情で問いかけるマオー。

「相変わらずすかした態度取りやがって。今日こそは受けてもらうぜ、男の真剣勝負をよ」

マオーはあー…と天井を見上げる。そういやなんか前に挑まれて、めんどくせーから次受けるよって

あしらったっけ。興味なさ過ぎて忘れていた。

「なあ、なんでそんな僕と勝負したいのか…あー、えっと、名前なんていうでしたっけ」

これに関してはマオーも興味があった。別にこの大男に対してなにかしたという記憶がない。

たしかにすかした態度と言われればそうかもしれないが、別にこの大男は自分からマオーに

絡んできたのだ。文句を言われる筋合いはない。

「てめえ…人なめんのも大概に…」

胸倉をつかもうとした瞬間。

「タイガさん!!またマオーさんに絡んで!店内で乱暴すると出禁にしますよ!」

メルが腰に手を当ててたっていた。

「あっ…う、め、メルさん…これは男の勝負で…」

一転して動揺するのを隠せないタイガ。

「なーにが、男の勝負ですかくだらない。喧嘩っ早い人なんかあたし大っ嫌い!」

「はあああー!?」

メルの馬頭に地面にうなだれるタイガだった。

「マオーさんもタイガさんは同じ『座天級』の冒険者なんですから、名前ぐらい覚えないとですよ」

なんかこっちも飛び火した。まあでも男の勝負とやらを受けなくて済みそうだ。マオーは

小さく頷くとメルは満足そうな顔してその場をさる。

…まあ、しかし。ここまでわかりやすいこともない。

ただそれがなぜ勝負に繋がるのは理解できない。マオーをボコったところでなにが変わるというのだろうか。

ただ単に気に入らないからという理由かもしれないが。

「よ!マオーにタイガ。またもめてんのか~?」

「マオー!あんたいつも留守でしょ!どこほっつき歩いてんのよ!」

「まあまあ、マオーさんもいろいろ事情があるんですよ~」

新たな登場人物が3人。

「さて、これから仲間と仕事の話だから。タイガさんは遠慮してもらっていいかな」

マオーの言葉に舌打ちをしながら退散するタイガであった。

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