16,親の心、子知らず。
あのあと。
クロスウェルの酒場でマオーら4人が飲んでいた。
真の依頼内容を聞いたレニは別にそんなこと聞く義理ないわよ!と案の定マオーに切れてきた。
「なんでそうお前は短絡的なんだ。それで金は貰えたとしてギルド長にも顔ってもんがあるだろ。
今後の依頼って考えたら受けて恩を売っておいたほうがいいに決まってる」
オーランド家はギルドのスポンサーの一つとルイーダは言っていた。ギルドは依頼の仲介料や酒場の収入で基本経営しているがスポンサーからの支援金も重要な資金源の一つだ。モンスターから街を守る存在でもある冒険者を囲うギルドは経営者としてはなくてはならない存在だ。人間や亜人種がいなければそもそも商売が成り立たない。なので依頼料とは別に支援金を送る。お互い無くてはならない存在なものの、支援されるほうの立場が若干低くなるのは仕方がなかった。
「そーですねー、気に食わなーいですけどー仕方ありませーんねー」
ローニャも不満そうにしていたがしゃーないといった感じだった。
「それよりもマオー。その貴族って名前と容姿以外なにも情報ないんだろ?それは相手も同様でさ。
よくよう知らんやつに決闘とか喧嘩売ることができるな…一応真剣勝負なんだろそれ?」
ザインのいうことはもっともで、冒険者である以上行き当たりばったりに戦闘になることも多いが事前準備が可能であればそれを欠かすことはない。生き残る冒険者は生きるべくして生きているのだ。
「なんか上位神官が何人か救護班として脇で待機してるらしい。だからある程度の大怪我をしても決闘が成り立つらしい。例の貴族が自信あるのは多分、ファーウェル製の装備でももってるんじゃね?あそこの武具って高性能のが多いからなー」
あまり興味がなさそうに答えるマオー。聖都ファーウェルというだけあって聖堂や神殿が数多くある。
故に祝福によって強化された武具が数多く売られている。無論それだけ高価であることも事実だが。
「なにそればっかみたい。所詮は金持ちの道楽ってわけね。お守り(神官)同伴なんて決闘が聞いてあきれるわ」
レニのそれは正論ではあったものの、本来貴族は領地を取りまとめる側で戦闘は本分ではない。例え戦争が起きたとて実際に戦うよりは司令塔をする側の人間。使い捨ての替えが利く兵隊と違ってなかなか替えが利かない。
であれば救護班をつけるのは当然と言えた。
「まあそのほうがあんまり手加減せんでいいから僕的にはありがたいけどな。ハイプリーストなら腕とか足切り落としても治癒できるだろうし」
さらっと物騒なことを言うマオー。相手をよく知らずとも余裕といった感じだ。それも当然で
かたや座天級の冒険者、かたや貴族。結果は火を見るより明らかである。
「なんなら殺っちゃえばーいいじゃないですかー。そしたらーお嬢様がー間接的にその貴族をー殺したってーことでー罪の意識に苛まれるかもお」
邪悪な笑みでさらに物騒なことを言うローニャ。若干引くザインとレニ。
「ローニャまでアホなこと言うな。決闘だかなんだかしらんが伯爵家の当主なんか殺ったらそれこそ
面倒なことになりかねない…適当に貴族の頭なでてやって、金貨100枚頂戴して終わりでいいんだよ」
はあとため息つくマオー。申し込まれた側だし、真剣勝負なのだから殺されても普通は文句は言えないが
そういう事ではないのだ。世の中は理不尽なことのほうが多い。
「じょおだーんですよー」
ローニャはそう答えたが三人は絶対冗談じゃねえだろと心の中でつっこみをいれていた。
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クロスウェルで一泊し、出立するマオー一行。御者はレルゲンからの別件で用があったそうでクロスウェルに待機することなった。
(説明が面倒だったんだろうな)
マオーはそんなことを思いながら馬車でゆられていた。
そんなわけでダーフォンからクロスウェルまでは御者が馬車の手綱を握っていたが、ファーウェルまではレルゲンが握ることになった。代わりにマオーがレイチェルと共に馬車に入ることになった。ザイン、レニ、ローニャの位置は変わらず。
「そういえば両親は何て言ってるんだ?ここまで大事になって隠してるってわけじゃないんだろ?」
馬車内。
マオーの対面に座るレイチェルに問うた。財閥当主ならこの話は俗にいう『良い話』のはずだ。
まあ上流階級の勝手なイメージなだけだが。
昨日と同じく控えめで暗めの色をしたドレスを着ていたレイチェルは縦ロールの髪を弄びながら答える。
「勿論知ってるわよ?お父様は貴族って存在が嫌いなのよ、なんか相手するのが面倒らしくて」
私情かよと内心突っ込みを入れるマオー。
まあ気持ちはわからないでもない。上流貴族との縁組は財閥にとって魅力ではあるがそれだけ縁もふえるってことだから。
「それに私は三女でお兄様もお姉さまも既に結婚しているから…『お前の好きにしていいし、なにかあればレルゲンに頼りなさい。必要であれば金もだすから』って感じね。流石にお金まで出させるのは嫌だったから自分の貯蓄でなんとかしたのだけど」
なるほどとマオーは頷いた。オーランド家としては長男長女ともに盤石というわけか。なら三女のレイチェルは比較的自由にさせてもいいという考え。末っ子は可愛いというらしいし、まだ近くにおいていたいということもあるかもしれない。
「そうでもないわ。お父様とお母様は絶望的と言ってもいいほど忙しいから単純に私に割く時間がないってのが大きいのかも」
「それでご両親の仕事を手伝いたいってわけか?健気なこった」
マオーの言葉にむすっとするレイチェル。
「なによからかっているわけ?でもま客観的にみれば我儘女の道楽って思われても仕方ないとは思っているわよ」
ふう、と息を吐き憂鬱な表情を見せる。
「そうじゃねえよ。その年ならそんなことしなくてもいるだけで十分親の役に立ってるって言いたいだけさ」
えっ!と驚くレイチェル。
「あなた子供いたの?そんな風に見えないけど」
肩をすくめるマオー。
「実子じゃないけどなー。詳しくは何も言えないけど、とある事情で親の真似事やってる。自分でいうのはなんだけどな、可愛くて仕方がない。いるだけでいいのによく手伝いたいーってちょこちょこ寄ってくるんだ」
本来は隠すべきことだがこのくらいなら構わないだろうと、レイチェルの話を聞いていて思わず口走ってしまったマオー。
聞いていたレイチェルはなぜかとても嬉しそうにほほ笑んだ。
「何よそれー、聞いた感じ私よりずっと小さそうじゃない。失礼しちゃうわ。…でもなんか悪い気はしないわね、私を見て『その子』を思い出したんでしょ?」
あーでも今は婚約者って設定だからある意味だめかーと続けた。
「そうだったな。一応今は婚約者なわけだし隣に座るか?」
自分の隣の空いたスペースをぽんぽんと叩くマオー。対面に座るレイチェルを促す。
「…ま、まあ?ファーウェルにつくまでぎくしゃくしてたらあれだし!座ってあげるわよ!」
もじもじとマオーの横に座るレイチェル。キスをした時ほどではないが既に顔が赤くなっている。
「あだ!!?」
座った瞬間マオーのチョップがレイチェルにさく裂した。
「わかっているじゃあないか。ファーウェルまでにそのリンゴみたいな顔と挙動不審を直せ」
お父様にも叩かれたことないのに!と涙目でグチグチ言うレイチェル。
「!!?」
少し間を開けた位置に座ったレイチェルをマオーが抱き寄せる。落ち着け落ち着けと目を閉じるレイチェルだったが心拍数がどんどん上がっていくレイチェル。
しばらくして。
ようやく鼓動が落ち着いてきたレイチェル。顔もほんのり赤い感じまで落ち着いた。マオーは抱き寄せた後特に何もするわけでなく小窓から背景を眺めていた。レイチェルは改めて間近のマオーの顔を見つめる。
美青年でいて凛々しい顔立ち。さらさらの銀髪がそれをさらに引き立たせる。色白の肌だが頼りないという感じは一切ない。抱き寄せられているからわかる、目には見えないが鍛えられた身体ということを肌で感じる。
遠くを見つめているマオーの顔をぽーと見つめるレイチェル。
「落ち着いたか?」
静かにうんとレイチェルが頷くとマオーが抱き寄せた腕を緩めた。内心ちょっとだけ残念そうなレイチェルだったが
これは演技なのよと自分を言い聞かせていると
「なんならもう一回キスする?」
真顔でそんなことを聞くマオー。
「………ばか」
言いながらも抵抗しようとしないレイチェルだった。
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聖都ファーウェル。到着。
まさに大都会といった感じで人も賑わっている。入り口の門も巨大で壮大なものだった。
「相変わらず馬鹿でかいな、ファーウェル大聖堂」
馬車内で思わずつぶやくマオー。
ファーウェル大聖堂。
都内のどこからでも確認できるほどの巨大さを誇る。しかもただ巨大なだけでなく豪華な装飾やステンドグラスが施されている。
「まあファーウェルの象徴だしね。『円卓の12神官』ってやつらがそこにいるんでしょ?最高位の神官が活動する場所とは言え、神の使いなんだからもう少し質素にしたらと私は思うのだけど」
対するレイチェルはつまらなそうに返した。ファーウェルは聖都と言われるだけあって聖堂や神殿を各所に見られる。そのどれもが立派なものだった。
「神官だからこそ豪勢にしなきゃダメだろうよ、信仰は金にこそ集まるもんだぜ?弱者を救うのにも
金がかかるからな」
マオーの言い分は身もふたもないがもっともであった。
「わかってるわよそんなことぐらい、でもなんかさ。…あ着いたわね」
ファーウェルにもオーランド系列の宿泊施設があった。今日はここに宿泊だけで明日が決闘の予定だ。
今日は解散というときにレイチェルがマオーに話しかける。
「疲れているところ悪いのだけど、このあと例の貴族…マグリットと顔合わせがあるから、正装してきてくれない?顔合わせだけだからすぐ終わると思うわ」
マオーは正直面倒だと思ったが、まあ顔ぐらいは拝んでおくかと頷く。
「お前らは先に酒やっていいぜ?」
マオーがそういうとザインら三人はりょーかーいと散っていった。疲れていたのだろうかこの日のレニは比較的おとなしかった。
単純にマグリットに興味がないだけかもしれないが。
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宿泊所の一室。
レルゲンが用意した正装とやらに着替えたマオー。
襟とスカーフ、オーバーコートにトラウザー。全体的にぴっちりとした服装。
(よくこんなの普段から着れるな…そこだけは尊敬するよ)
サイズはあっていたが窮屈感は否めない。これならまだ鎧を装備したほうがましまである。
だが愚痴っても始まらないとマオーは続ける。
指輪を三つ外し魔法を発動する。
「次元格納」
マオーの目の前に本状のファイルが現れた。それを手に取りページをめくる。
なかには大量のマジックカードが保管されていた。
(さて…髪型を変えるカードなんてあったっけ?なんか下らねーけどあってもいいかってそんなの買った気が…お、あったあった)
マオーが一人の時はこの方法でマジックカードを取り出している。使用頻度の高いカードは懐に忍ばせて
即座に発動できるようしているが。次元格納なら大量のマジックカードをファイルで保管し別次元に隠せるので便利だった。次元格納は中位魔法なのでレベルダウンの指輪をフルで装備している
マオーでは発動できないのが玉に瑕だった。
(まあ、こんなもんか)
魔法で髪型を変えた。普段のマオーは少し長めの無造作ヘアという感じだが、バックウェーブに変えた。
このほうがなんとなく貴族っぽいんじゃね?というマオーの偏見だったが。
「さて…いくか」
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「遅いわ…よ!?」
エントランスで既に待っていたレイチェルとレルゲンだったが、マオーの正装姿に驚いた。
「これはこれは…素晴らしいですね。正に理想の紳士ですよマオー様」
レルゲンが満足そうに頷いた。
「…に、似合ってるんじゃない?多分」
マオーは顔を若干赤くしたレイチェルの頭に軽くチョップした。
「マグリットにこれから会いに行くんだろ?スイッチ切り替えろ」
わかったわよ、とぱんぱんと自分の頬を叩き気合を入れなおすレイチェル。
「レルゲン。馬車を用意してくれ」
かしこまりました、マオ様。と一礼するレルゲンだった。
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マグリット邸につくまでの馬車内。
用意した設定。
まずマオーの名前はマオ・パルマに変更。偽名を考えるのが面倒だったので伸ばさずにマオ。パルマは
オーランド系列にパルマという経営者がいるらしく、その養子ということにしたのでパルマ。
オーランド一族のパーティでレイチェルと意気投合してそのまま付き合うことに…だそうだ。
「まあ最悪ばれてもってのはあるわ。パルマさんには許可貰っているし、ばれたところで明日の
決闘に勝てばどのみちマルグリットは私から手を引くことは変わらない」
そううまくいくんかね…と内心面倒なことになる可能性もあると思うマオーがいた。たしかに決闘には勝てるだろうがマオーの正体がばれた場合、どんな難癖をつけられるかわかったもんじゃない。たしかにレイチェルの理はかなっているが人間そこまで潔い奴ばかりじゃない。むしろ多くがその逆だ。その貴族は好青年らしいが追い込まれたときそれを維持できるかはまた別の話だ。
マオーがそうぼんやり考えていると馬車がとまった。
「マオ様、レイチェル様、到着しました」
わかったとマオーが馬車を先に降り、レイチェルをエスコートする。レイチェルが少しぎこちないがまあ許容範囲の反応だった。
(ま、それはさておきちゃんと仕事はこなさないとな)




