14,偽装婚約
「マオー、こいつら勝手に倒れたんだけどどういうこと?」
森林から戻ってきたマオーにレニが話しかける。
「屍術士だ。首を見てみな、呪印がついてるだろ?」
ザインが仰向けに倒れたトロールの巨大な顔を軽々と片手で持ち上げる。
「お~、本当だ。変だと思ったんだよな。いくら切っても大していたそーにしてなかったし」
よく見るとトロール2体ともぼろぼろになっていた。マオーがアキレス腱を切って止まったトロールは
そのまま動かずだったのできれいだった。目や急所に矢が何本も刺さっている。わりかし凄惨な見た目だ。
マオーが屍術士を倒さなくても問題なく倒せていただろうがこの場合
「あからさまにー、お嬢様のー馬車を狙っていたのが問題でーすね。ちなみにその屍術士に目的はきいたんですかー?」
にたりと笑いながらローニャが言う。マオーと同じく何かしら察していた表情だ。
「勿論。だが煮え切らなくてさ。まあ大方察しはついたし『クロスウェル』に着いたら…もしくはつく前に教えてくれるんじゃね?さすがに『本当の理由』ってやつを」
肩をすくめながら答えるマオー。屍術士が言っていた仮面の男はレルゲンであると確信していたマオー。
ではなぜトロールに自分らを襲わせたのか。これを計画したのがレイチェルかレルゲンかはわからないし
これが彼らの望む結果かはわからないが、明らかに護衛目的とは考えられないのでいい加減理由をそろそろ話さないとレイチェルサイドも前に進まない。
「ことと次第によっちゃあ、依頼も断ることもある?」
レニもなんとなく理解したようでマオーに問う。
「うんにゃ、よっぽどのことがないかぎりな。なんにせよ金貨100枚は見逃せねーだろうよ」
確かに。とマオー以外の3人が頷いた。
どの世界でも金が尊いのは変わらなかった。
ダーフォンと聖都ファーウェルの中間に位置する街、クロスウェル。ダーフォンからファーウェルまで
馬車でも二日弱かかるので、クロスウェルで一泊するのが一般的だった。マオーたちも例に漏れず
クロスウェルで一泊する予定だった。
そして到着。
結局あのあと理由についての話はなかった。レルゲンがお礼を言ってくれたことと、レイチェルが思いのほか動揺しながら「だ…大丈夫だった!?怪我してない!?」とマオーたちの心配をしていた。
と、なるとこれを計画したのはレルゲンなのだろうか。だとすればその理由は?余計わからなくなったもののいずれわかるだろうともう考えるのをやめていた。
なのでトロールは座天級なら余裕ですよと、適当に答えて安心させたマオーだった。
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クロスウェルはファーウェル以外でも多くの街や村を経由する街なので栄えていた。となれば宿泊施設も多く存在しておりオーランド系列の宿泊施設もあったのでそこに宿泊することになっていた。
「はえー。いままで高級なとこって泊まったことないんだけど、豪華ねー!…あだ!?」
施設に入るなり、目をキラキラさせはしゃぐレニにごつんとげんこつするマオー。
「はしゃぐな、恥ずかしい」
「なによー、なにも叩くことないじゃないーこんな美少女相手に」
ムスーとしながら若干涙目で頭をさするレニ。
「まあーでもーなんか場違い感ありますよねー」
オーランド系列経営の宿。いわゆる高級店という奴である。冒険者は座天級でも宿に大枚を使う奴は物好きや特別なことがないかぎりいない。そもさん長期の依頼ではテント暮らしも多いので宿に金をつぎ込むという発想がないのだ。そんなこともあり安宿が基本の冒険者にとってレニの反応はある意味自然といえる。
「だなあ。なーんか視線を感じるぜ…」
ザインの印象はそのとおりで、他の客は身なりが上流といったかんじで裕福層のような人ばかりだった。
当然冒険者の恰好をしているマオーらが珍しく見てしまうのも仕方がなかった。
「気にしないでくつろいでよ。部屋にフルーツとか飲み物を用意させたから遠慮しないで食べて」
レイチェルがそういうとマオー以外の三人がぎょっと驚き、レニがマオーに耳打ちしてきた。
「…な、なによあいつ…マオー、三人でいたときなんかあったの?」
今までの態度からの急変に三人が驚くのは無理もない。恐らくはマオーが馬車内で話したことが理由であろうと思っていたが、説明するのが面倒だったマオーは、さあ?しらね。と適当に答える。
マオーの態度にはあーと三人は深くため息をついた。
三人は知っていた。何か知っていてもこうなったマオーは何も言わないとしっていたから。
「皆さま。お待たせしました。こちらがお部屋の鍵です」
レルゲンが受付を済ませ、受付近くのソファーでくつろいでいた4人にカギを渡した。ちなみに御者は外で馬車の清掃をしていた。
「今日はもう解散で自由行動でいいけど、マオー。あなたは落ち着いたら私の部屋に来なさい。レルゲンもね」
レイチェルがそういうと自分の割り当てられた部屋に向かうレイチェルだった。承知しましたとついていくレルゲン。マオーはようやくか?とやっと理由が知れるのかと思いながらわかりましたよと答えた。
レイチェルがいなくなったあと
「何よあれ!気安くマオーを呼び捨てにして!ちょっと見直そうとしたけどやっぱ嫌いだわ!」
「ぜーんげーん撤回ーでーすねー」
レニはわかりやすく、ローニャは静かに怒りをあらわにしていた。
「やれやれ。マオー様はいつでももってもてですなあ…がふぁ!!?」
「うるせえ。さっさと部屋に行くぞ」
言いながら、ザインの背中を蹴るマオーだった。
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指示通り。
レイチェルの部屋に来たマオー。レイチェルの部屋を見て少し驚く。自分の部屋と変わらない感じなのだ。
オーランド本家の令嬢だったら最高クラスの部屋を借りてもおかしくはないのに。高級宿なのだから全部
一律の部屋ってわけはないだろう。いわゆるVIPルームがあるはず。
「どうしたの?」
レイチェルが不思議そうに部屋を眺めるマオーに気付いて問いかける。部屋にはレルゲンがすでにいて
レイチェルは部屋着になっていた。ていうか。なんか露出度の高いふくだった。
「いや、部屋が自分らと同じクラスとは随分質素だなあと思いましてね」
まあ、誤魔化すほどの事でもないのでとりあえず素直に答える。
「…ああ、一人なのにあんな広い部屋必要ないから。あとその手の部屋って超がつく大金持ちがよく利用するらしいからそんな部屋に出入りしてると変なのに狙われそうだしね」
随分と現実的な理由だった。馬車にいた時とは違って生意気そうな表情が収まり落ち着いた感じだった。
ただ、自分で余計な興味をもったもののはやく例の話がしたいのでところでとマオーはきりだす。
「なぜ僕を部屋に呼んだんです?先ほどのトロールの件ですか?」
直球。正直これ以上引っ張られてもいい加減うざったい。レイチェルの表情が若干、苦くなった気がする。
それを察したのかレルゲンがそれは私から説明しますといい、部屋に設置されたソファーにどうぞと促す。
レイチェルはベッドに腰かけていた。
「マオー様。ご質問を返すようで恐縮なのですが…道中での襲撃になにか違和感を感じませんでしたか」
レルゲンはもはやマオーがある程度察しているかのを理解しているようだった。それでも敢えて質問する
ということは何かあるのだろう。
「むしろ違和感しかなかった感じですね。そもそもあの道中はトロールの生息域ではないし、しかも屍術士に操られていた。屍術士はレアなクラスだからあんな場所で会う事自体がおかしい。しかもお嬢様の馬車を襲うように指示されていた。お嬢様がそんな危険なやつに狙われているなら初めからそのことを僕らに教えないのもおかしい。あと屍術士も中途半端だな…、、本当に殺す目的ならもっと強い媒体を使役させるはず。こんなところですか」
マオーは屍術士と絡んだことは敢えて伏せた。マオーの中であれはまだ利用価値がある…まあレルゲンはそれを知っているかもしれないが。
「お気づきの通り、あのトロール…屍術士をけしかけたのは私です。これに関してはレイチェル様はご関係がありませんのでご容赦くださいませ。肝心の理由なのですが…マオー様の単純な強さを見極めたかったのです」
そこまでは予想内の範疇だったマオーはどうぞ続けてくださいと促す。
「結果としてマオー様は身のこなし、力、技、そして戦闘考察力と知識。すべてにおいて素晴らしかった。騙して試すようなことをしまして本当に謝罪をさせてください」
深く頭を下げるレルゲンにマオーは若干鬱陶しく感じながらも
「別にもういいですよ、その件は。もともと金貨100枚でファーウェルまでの護衛なんてのが不自然すぎたんですから。それよりも先を聞かせてください」
マオーがそうレルゲンに頭を上げるように促す。するとここからは私から話すわとレイチェルが言う。
それからマオーの対面のソファーに移動した。
「気付いているんでしょうけど、護衛が本来の依頼じゃないのよ。騙してごめんなさい」
レイチェルもいったん立ち上がり頭を下げた。めんどくせーと内心思いながらも
「いいですよ。本来依頼料に見合った仕事を冒険者ってするもんですから。それより続けましょう」
同じような返答をする。
「その…本来の依頼なのだけど…」
言いづらそうにしているが決心したように目をつぶり大きな声で発した。
「わ…私の!婚約者の!ふりをしてください!!」
顔を真っ赤にして言うレイチェルだったが
「………はい?」
全く話が見えないマオーだった。




